召喚されしおっさん
「フフフ、遂に時は満ちた。」
薄暗い部屋の中、一人の男が目の前の卵に手をかざしながら不敵な笑みを浮かべる。暫くするとかざした手が怪しく光だし、それに合わせるように卵が胎動するように動き出した。
「今こそ世界を魔王軍の手中に!」
男が叫ぶと卵が眩い光を放ちながら新たな形を形成していく。
「これは…!」
身長約165cm、推定体重約80kg、かなり残念な感じの小太りなおっさんが、そこにはいた。
「ここ…どこだ…?」
「失敗した…だと…」
キョロキョロと辺りを見回すおっさんを見た男は愕然とした表情で膝から崩れ落ちた。
「我々魔族が…負けるのか…」
「あの…大丈夫ですか…?それとここはどこですか?」
項垂れる男に気付いたおっさんが心配した様子で声をかけたが男は何も答えない。暫くの静寂が流れた後、おっさんをキッと睨み首を掴み持ち上げた。
「!?…ガハッ…」
「何故貴様のような者が召喚された…?私は貴様を召喚する為にあの卵に魔力を注ぎ続けたと言うのか…?」
「ガ…く…苦しい…」
男の手を掴みなんとか抜け出そうとジタバタするおっさんだが、全く抜け出せる気配が無い。あまりの苦しさにだんだん力が抜けていく。おっさんが動けなくなる直前、男はスッと手を離しおっさんは尻餅をつくように地面に落ちた。
「ここは崇高なる魔王様の居城だ。愚物たる人間が簡単に足を踏み入れて良い場所では無い。」
ゲホゲホとむせるおっさんを見下ろしながら男が答えた。
「が、貴様は魔族としてここに召喚された。故に貴様は魔族として人間どもを根絶やしにしなければならない。それを誓うなら生かしてやろう。誓えぬなら今ここで殺す。選ぶがよい。」
「いきなり首を掴んだと思ったら、いったい何の話で…」
「私が聞いているのは誓うか誓わぬかだけだ!」
おっさんは痛む喉に手を当てながら会話を続けようとしたが男の言葉に遮られてしまった。おっさんは力無く「誓います。」と言って俯く。
「ならば貴様はアステルの森に行け。我が名はレイシス、この名を出せば森の魔族達に殺される事もあるまい。」
レイシスがおっさんに向け手をかざすとおっさんが闇に包まれていく。しかし、おっさんは俯いたまま何も出来ない。闇がおっさんの全身を包むと弾けるようにして散り、おっさんの姿もそこには無かった。
部屋に一人残ったレイシスはドアに手をかけ呟く。
「長い年月をかけて魔力を注いだ魔族の卵からよもや人間などが召喚されてしまうとはな。…魔王様、私もそろそろそちらに向かう事になりそうです。」
そして、部屋を後にした。