八話 委員長に問い詰められる
短めです
「ねえ、昨日は大丈夫だったの」
教室に入るなり、愛美は絢斗に声をかけた。絢斗の顔には痛々しい傷跡が残っており、それは愛美が昨日の先頭の激しさを示していた。絢斗は平気そうだったが、愛美は彼が心配でたまらなかった。それはなぜなら、彼女が事前に張っていた結界に侵入者はおらず、絢斗の消息が不明だったからである。まさか絢斗が負ける、信じたくはなかったがその可能性を消せなかった彼女は必至で携帯を握りしめていた。
しかし、万が一自分が負けた場合、携帯に電話はするなと言いつけられていたため連絡はかなわず、彼女は今日を恐れて厚葉校に来ていた。
「うん、なんとか大丈夫だったよ」
心配半分、怒り半分といったところかな。
絢斗は愛美の瞳から彼女の抱く感情を読み取っていた。彼は昨晩、パーティーの勢いにのまれて愛美に連絡するのを忘れていたため、笑顔を浮かべているものの、心配症で母のような彼女にどう説明するか必死で考えていた。
「……なら、私の贈り物は受け取ってくれた?」
今度は照れと、心配かな。移り変わる感情になんとか応じながら、昨晩の記憶をなんとか掘り起こす。
パーティーの中盤、僕はアキにもてなされていたが、ケーキを食べ終わったあたりで西条が段ボールの箱を運ばされていた。なぜか二人きりの予定だったパーティーに参加していた彼は気を遣ってくれたのか、基本的にアキのサポートに回ってくれていた。そつのない男だ。
「うん、ありがとう」
「サイズ、ちゃんと合ってた?」
ここでようやく絢斗は愛美がプレゼントしてくれたものを思い出した。
「僕に着こなせるか不安だけどうれしいよ、ありがとう」
そうだ、愛美は僕に服をプレゼントしてくれたんだった。ちょっと僕には可愛すぎてどうしようかと感じたことを思い出した。
「そ、そう。それならよかったわ」
釣りあがった目はそのままに、口角だけ愛美は上がっていた。わかりやすくて助かる。
「頑張って服をつくったかいがあったわ」
さらりと怖いことを愛美は述べた。
絢斗は愛美の裁縫技術と執念におびえた。まず愛美にそこまでの技術があることが驚きだし、人の誕生日の為に服を製作してくるという発想が怖い。誕生日プレゼントに全力をささげすぎて、好意はうれしいけど少し怖い。
「あ、ありがとう。あの、ちょっといい?」
クラスメイトが絢斗の傷口に注目しているのが怖かったためか、絢斗は教室の外へ愛美を呼び出した。しょうがないわね、と愛美は時間を確認して先に教室から出た。
「まず昨日は連絡できなくてごめん。結界まで誘導しようとしたんだけど、途中で邪魔ものが入って転校生は倒せなかったよ」
愛美の前ではいつも、あえて殺すという言葉は使っていない。どうも彼女はそういった荒事は苦手らしく、できれば僕にそういったことはしてほしくない、と以前言われたからだ。だから言葉をごまかすことにした。
「そう、邪魔されたのね。転校生がまだこの学校にいるってことは、これからまた……戦うの?」
悲しそうに愛美は尋ねた。彼女にとっては、この学校の仲間になるかもしれない彼を亡き者にする、ということはポリシーに反するため、できればしたくないと思っているだろう。彼女は誰にも争ってほしくないと願っている、思いやりのある人物だからだ。
昨日の作戦のままだったらここでどうしようかと悩むところだったが、僕は大きな方針転換をしている。これなら愛美も満足してくれるだろう。
「いや、もう戦わない。仲間になってもらうことにした」
「仲間に!?」
「うん。能力も悪くないしね」
「あんた、正気?」
「え?」
「昨日会ったばかりのやつを仲間にするなんて、あんたにしては軽率すぎない?」
ばっちりな案を出したと思っていたら、愛美はなぜか怒っていた。これなら愛美も喜んでくれると思ったんだけどな。
絢斗が不思議そうにしていると、自分の言っていることを理解していないとわかった愛美は更に怒りを浮かべた。
「あんたはいつも、大事なことはずっと忘れずにいたから私は助けていたけれど、今日のあんたは大事なことを忘れているように見えるわ」
ああそうか。愛美は僕の目標を一つしか知らないから、そう感じるのか。確かに僕の一番に大切な目標はアキを守ることだ。不安要素は一切排除して、アキが楽しく日常を過ごせるようにする。絶対にそれが変わることはなく、これが最優先であるけど、僕にはもう一つ、遂行しなければ生きている意味がないともいえるものがある。
だから僕は、アキを守ることは変わりなく、ただもう一つの目標を達成するためだけに西条を外で使おうと思っている。少なくとも西条とアキを二人だけにさせることはない。
「見損なったわ」
ふん、と鼻を鳴らして愛美は背中を向けた。さあどうしたものか。結界能力者をここで失うわけにはいかない。どう説得しようか。