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三話 転校生とのタイマン計画を練る

 二年前に殺せなかった相手だ。今回は確実に殺す。二年前の自分とはもう違う、わずかだけど味方もできたし、殺しの腕も磨いてきた。覚悟は十分だ。

 タイマンに向けて意識を集中させ、決意を固める絢斗。今彼は自宅に戻っていた。彼が自宅に戻ることはほとんどないのだが、武器などの装備はこちらに置いてあるため、決戦の前は自宅で装備を整えている。

 一人暮らしにしては立派な一軒家の中は、驚くほど殺風景であった。玄関から入ってすぐのリビングには机と戸棚くらいしか置かれているものはなく、しかもその戸棚に入っているのは大抵が物騒なものである。リビングとつながっているキッチンには調味料程度しか置かれておらず、彼がこの家で生活していないことを示している。

 真剣な顔でキャリーケースに装備を入れ終え、次は街の地図を眺める。


「場所は……あの時の裏路地、とかかな」


 あそこなら能力監視装置の効きも弱いし、結界を張ればごまかせる。個人的な恨みを晴らすためにもちょうどいい。

 あの時自分を組織に連れて行かなかったことを後悔するといい、と絢斗は妖しく笑った。


「もしもし、愛美、いい?」


 場所が決まったところで絢斗は、自分の味方たちに連絡をとっていた。

 委員長こと、赤羽愛美は絢斗たちが高校で最初に出会った仲間である。だから絢斗は高校のこととなると、多くは彼女に頼むことにしている。

 電話の先で愛美がなに、と返答する。その声色は少し上がっていて、頼られることがうれしい彼女の性格がよくわかった。

 だから扱いやすいんだよね、となかなか最低なことを絢斗は考える。ただ、これをずっと続けているのだというから頭が下がる。利用する相手であっても馬鹿にする相手ではない、と気持ちを切り替えた。


「いつもの、お願いできる?」

「場所は?」

「駅チカビル街の裏路地。詳しい場所は地図送っとく」


 絢斗が自分を頼るときはいつもそっけない。電話の向こうでベッドに寝転がって赤髪を垂らしている彼女はそう感じる。頼られるのはうれしいけれど、絢斗には危ないことをしてほしくないし、できれば自分は能力を使いたくない。これは自分の家族を助けるときにだけ使うと昔、誓っていたから。今では使う対象が自分を頼ってくれる仲のいい友人にまで広がったけれど、それでもできる限り使いたくない。

 戦いの流れを淡々と説明する絢斗に歯がゆく思いながら、これも惚れた弱みというやつか、と大人しく作戦を聞く。


「それで、この場所に閉じ込めてあとは僕がやる。わかった?」


 ああ、いつも手を汚すのはあなただけ。自分に対する気遣いとその殺意が、私には澱んだ泥水に浮かぶ真っ白な水晶のように感じられて、守りたくなる。

 この感情も絢斗の思い通りなのかしら。感情だけは、自我を保っていると信じたい。

 たぐいまれなる結界という能力を持つ彼女は、揺れる感情に迷いながらも己の最善を貫き通すために絢斗の提案を飲んだ。


「……いつも大変な思いをさせてごめん、愛美」


 こういうところもずるい人だ、とぼんやり愛美は感じた。


「ふう、次は肝心の場面をどうするか、だよね」


 電話を切って一息つき、無表情のまま殺しの方法を考える。一対一に持ち込めたら勝てる自信があるのだが、二年前同様に誰かが割り込んできたり、得体のしれない能力で交わされてしまう場合がある。その時、確実に殺すにはどうすればいいだろうか。

 アイドル、と書かれている電話帳の画面をスクロールしながら絢斗は計画を練っていた。ポイントに持ち込むまでは愛美に伝えた通りでほぼ大丈夫だけど、問題はそこからだ。自分一人ではまた二年前のようになる可能性が高い。絢斗は自信があった一対一も不安に覚えてきた。

 彼の記憶にあるのは、二年前、自分が全力で投擲したナイフが軽々とキャッチされたことだ。アキが来るまではそんなことに能力を使っておらず、そのまま殺せそうだったのに突如新しい能力の使い方をし始めた。今回もそんなことがあるかもしれない、そう考えてしまってからは、案がまとまらなくなるのであった。


「……ソラに電話してみるか」


 ポツリとつぶやき、夢野空ゆめのそらと書かれた欄の番号にダイヤルを回した。

 ぷるる、ぷるる、と。部屋に虚しくコール音が響く。

 電話をかけようとして十五分後、四回目の電話でようやく応答があった。


「あ、ソラ? 面白いことがあるんだけど、今大丈夫?」


 電話の先ではざざーっと波の音のようなものが聞こえる。砂浜をシャリシャリと歩く音を聞かせながら、彼女は返答した。


「なんですか?」


 全身真っ黒で、五月にはもう暑いだろうとばかりの格好をして、どこかの浜辺に彼女はいた。彼女が電話に出ないときは海にいるか山にいるかだ、今更絢斗は驚かなかった。今大事なのは彼女の興味をどうやって引き出して作戦を考えてもらうかということだ。


「なんでも平均にしちゃう能力者と遊ぶんだけど、彼をびっくりさせてあげたいんだ。どんな方法なら彼を驚かせられるかな?」


 彼女に殺害計画を練ってくれ、なんて言ったらいろいろ危険だ。今回も詳細は濁して作戦を考えてもらう。


「なんでも、ですか。ちょっと考えることが多すぎるのでもっとつぶさに説明お願いします」


 ああ、これは考えてくれているときのセリフだ。いい答えが返ってきそうで絢斗は嬉しそうにしている。


「多分だけど、物体の加速度と静物を足して二で割ったり、何かしらのエネルギーを調整できるんじゃないかな。あやふやなところだと雰囲気とかも」

「それは能力として強すぎるのでは? ランクでいったらB級はいけるのではないですか」

「うーん、彼だったらB級いっててもおかしくはなさそうだけど」


 学生だったらほとんどがD級だ。C級に届いたら優秀、とされる中でBは成人能力者でもなかなかいない。能力者の大半がC級で止まる中、学生のうちからB級だったらそれこそ高校をすっ飛ばして組織に雇われるだろう。

 絢斗からすれば彼が組織に雇われているのはしっているので、あまり驚きはしないがそれでもB級能力者とこれから戦うのだと思うの緊張していた。


「そんな特異な能力を、噂も出さず目立った代償もなく学生のうちに得られるものでしょうか……」


 話がそれてしまったかもしれない、今彼女に考察してもらいたいのはその能力の穴をつくことだ。能力の可能性について考えてもらうことではない。


「それはともかく、どうかな。ドッキリなんてしてみたいな! 短剣が胸に刺さったと思ったら刃がへこむやつだった、とか!」


 エンターテイメントにこだわる彼女だ、そっちに思考を向けさせれば。希望的観測をもって話しかけるが、帰ってくるのは海のさざめきと彼女のうなる声だけだ。

 ああ、これは失敗したな。彼女の興味が能力に向かってしまった。一応そこから生まれるものをきこうとしばらく彼女を待つことにした。


「あ、わかりました!!」


 物静かな彼女が突然叫ぶときは素晴らしいアイデアが浮かんだ時だ。これは非常に期待できる。あいつの攻略に使ってやろうと、耳を澄ました時だった。

 ざっぱーんと波が彼女を飲み込む音が聞こえた。え、もしかしていつの間にか海の中にいたの。ごぽごぽと彼女が何かを伝えようとするのがきこえるが、わからない。

 せめて水の中にいるときくらい自分の興味あることから離れてみてほしいと思いながら、電話を切った。


「作戦は僕が考えるしかないか」


 頭脳派が頼れないということで、最後に残ったのは自分だった。不老不死の女の子という伝手もあるが、彼女はアキを守るために傍についてもらっているから使えない。

 はあ、とため息をついて絢斗は裏路地の図を描いて能力者を殺すことを考えた。

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