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異能世界で最強と謳われる可愛くて人殺しの男の娘が裏世界で暗躍するちょっぴりえっちなセカイ系の物語はいかがですか?  作者: 独りっ子
黒き彼は月を歩む

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三十三話 あの日から二年、裏路地を抜けた彼は誓う

「ずいぶんと部下を可愛がってくれたみてえだな、おい」


 全身を焼かれた絢斗が顔をあげると、草刈美舟がそこにたたずんでいた。

 どうしてこいつがここにいるんだ。もやがかかったように、真っ白になった頭が理解を阻む。思考を制限されてるみたいで気持ち悪い。


「たまたま気づいたからいいものの、このまんまだったらお前ら負けてたんじゃね?」


 お前ら、という言葉に草刈の付近を見ると、西条達が戦っていたと思われる男たちが倒れ伏していた。

 そうか、みんな勝ったのか。各個撃破で西条たちのことを考えてなかったけど、うまくいったみたいだ。


「ね、姐さん!」


 ワイシャツ姿の舟子が草刈の下へ歩む。


「舟子、お前がいながらなんでこのざまなんだ?」

「す、すみません……」


 けなげに駆け寄った舟子だったが、獰猛な肉食獣は歓迎せず、むしろ怒気をはらんだ声色だった。


「スーツ汚すなって言ったよな?」


 草刈は舟子のシャツを掴んで問う。舟子は泣きそうな顔で謝ることしかできない。


「……もしかして、絢斗相手に苦戦したのか?」


 イエスと答えたら、自分の命が危ないとわかっているのか、舟子は何も答えられなかった。


「へえ、そうなのか。おい絢斗、どうだったんだ?」


 シャツから手を放して地面に転がる絢斗に声をかける。絢斗は炎でボロボロになった身体を引きずりながら、気力を振り絞って舟子をにらみつける。


「それは見ればわかる、でしょ?」


 絢斗の言葉に草刈はお、と感心した表情を浮かべる。それもそのはず、絢斗が草刈と対等な口調で会話を交わしたのは、出会ったとき以来だった。絢斗が心の内で復讐を誓ってから二人は主人と奴隷のような立場だった。草刈がやれと言えば、絢斗はどんなこともしなければならなかった。どれだけそれがつらくても、笑顔のままで従っていた。

 もちろん、草刈も絢斗が本心から服従しているわけではないことはわかっていた。しかし、それでも草刈はその関係を続けた。彼女が従順な絢斗の本性を見るために、周囲の友人に手を出そうとしたとき絢斗はなんだってした。それこそ、今も残る傷はその時の残骸だ。


「ようやく、いっちょまえのクチきくようになったなあ」


 それでも牙を研ぎ続けた絢斗を、草刈はずっと見守っていた。そして今、絢斗が纏っていた服従と媚びのベールが剥がれ落ちた。

 草刈は、口端を釣り上げる。目はギラギラと輝き、捕食者の顔つきになっていた。


「お気に召さないようでしたら、オーダー通りにしましょうか?」

「はっ、今その口調で話しかけられたら手が出るぜ」


 コキコキと首を鳴らし、手から火が吹き出す。

 相変わらず、とんでもない能力者だ。火は、草刈の感情が一番伝わりやすい能力だから、今の草刈はかつてなく興奮してるってことだ。ここまでやっと、だ。ここでようやく、こいつに一発かますことが出来た。でも、大事なのはここからなんだ。ずっと準備してきたのに、どうして身体が動かないんだ。これじゃ何の意味もなく、ひねりつぶされて終わってしまう。


「……なんか言いたげなカオしてんな。まあ、まず話を聞くんだな」


 珍しい、草刈から穏便に話しかけられたことなんて数えるほどしかない。今回は話しかけられる前に昏倒させられかけたといえ、落ち着いて会話をしようとしている。これは死を覚悟すべきだろうか。


「最初に一言、ここまでよく頑張ったな、絢斗」

「は?」


 突拍子もない発言に、絢斗は思わず口から感情がこぼれ出た。

 こいつが、よく頑張ったな、だって? 自分がその要因をつくって、自分が我儘をすべて僕にぶつけて。それで、ねぎらいの言葉?

 絢斗は、胸の奥がずきりと痛むのを感じる。身体が、熱くなってきていた。


「その健闘を称え、ここに誓いを立てよう」


 短気な草刈だが、この状態の絢斗には目も向けない。彼女は、行動を終えた絢斗より、絢斗の成し遂げた成果だけを視界に収めていた。


「直属の部下三名をたおした褒美として、かねてからお前が願っていたことを叶えてやろう」


 そこで絢斗は歯を食いしばる。

 必死で感情を抑える二人だが、様子は全く違った、

 絢斗は、地に伏した己の無念を。草刈は、太陽のごとく燃え盛る悦びを。


「草刈美舟は、拠点を捨てよう。絢斗が暮らしている、あの拠点を。これで十分な対価だろう」


 全部、わかってやっていたのか。

 絢斗は、怒りでからだがどうにかなってしまいそうだった。

 僕の両親を殺した家を乗っ取って、そこで僕を思い通りにしながらこいつは暮らしていた。それは、あの家に残るかすかな昔の記憶を消し去り、新たに暗い記憶をタトゥーのように刻み付けられるようなものだった。

 それを、すべてわかって、僕にあてつけるためにやっていたというのか。

 絢斗の手のひらからは、血が流れていた。強く握りしめすぎていて、爪が皮膚に食い込んでいる。


「そしてしばらくは、お前らに関わらないと誓ってやろう。ようやく一歩踏み出したガキの成長、楽しみにしてるわ」


 思ってもみない提案だった。これまでは草刈の監視におびえる日々で、満足に計画の支度もできなかったが、誓いは守るその本人が離れると告げているのだ。悔しさばかりの路地で、唯一の朗報だ。


「機関の本部で、次は会おうぜ。我が唯一の弟子よ」

「次会う時が子弟の最期だから、楽しみだね」

「ああ、成長したお前を喰えるって想像するだけで……昂るぜえ」


 クヒャヒャヒャと身の毛がよだつ笑い声をあげる。


「それじゃあ、今までありがとうございました。師匠をしっかり反面教師としていきますね」

「ああ、へそのあたりが疼く……」


 もう絢斗の言葉は聞こえていないようだった。

 気の狂った、自称師匠に背を向ける。

 師匠というのは、まるっきり嘘でもないのだ。草刈美舟という能力世界で最強と名高い人物の一番傍で、彼女の生態を見ることが出来たのは僕の糧となった。能力の使い方、社会での動き方、果ては生き方までのすべてを学ぶことが出来た。そう言った面では、良い面もあった。それを学んだ理由であり原因は全部あいつにあるわけだけど。

 狭い路地裏から、日の当たる道路に向かう。


「絢斗、愛してるぜ」


 背後から聞こえる声は、どこか風に流れて消えていった。


「悪い、気づいたら身体が燃えて気を失ってた」

「わたしも……ごめんっす」

「気にしなくていいよ、全部草刈の能力だね」


 戦いを終えた僕らは、本拠地である僕の家に戻っていた。明穂も家にいたので、愛美と一緒に端の部屋にいてもらうことにした。


「あの感じ、なにかに似ているような気がしました」


 長い前髪は、うつむくと表情が隠れる。西条と伊緒は、能力を受けて沈んでいたが空だけは、何かをつかんだようで考えていた。


「あいつの能力については、これから僕がわかる範囲で説明するよ。でも、それより先に報告があるんだ」


 そう前もって絢斗は草刈に伝えられたことをそのまま話した。


「だから、今回のステージの目標は、達成したっていえる」


 その言葉に一同はお、という表情を見せる。それらは、安堵の顔つきだった。


「計画の要点として、草刈の周辺にある戦力を削って、草刈を殺す邪魔を減らすって計画は、直接相対する機会が生まれたことで叶った」

「あの、いいっすか?」


 伊緒が申し訳なさそうに口をはさむ。絢斗はどうぞ、と発言を促す。


「うん?」

「あ、えっと。気になったことが一つあって。その、草刈はそんな口約束を守るんすか?」


 絢斗は納得したように語る。


「そこは大丈夫、あいつは絶対約束を守るよ。理由はまた、話すね」

「わかったっす!」

「……ちなみに、イオを殺すのも忘れてないから安心してね」

「はいっす!」


 殺す、という言葉に顔をしかめる西条にも絢斗は言葉を飛ばす。


「僕がみんなに我儘を言う代わりに、みんなの我儘はできるだけ叶えることにしてるんだ。西条も何かあったら言っていいよ」

「……俺は、絢斗と楠が見られたらそれでいいぜ」

「じゃあ、末永くよろしくね」


 絢斗がしゃべっている間にも、空はどこか上の空だった。


「何か、思いついた?」

「もう少し、もう少しですかね」

「計画に付き合ってくれて長いと思うけど、知的好奇心は満たせてる?」

「それはもう、ばっちりと!」

「ならよかった」


 別室で遊ぶ愛美と明穂も、楽し気な声がすることから絢斗は、ほんの少しだけ感傷に浸る。

 どうやら、不完全ながらも僕はやっていけてるようだった。僕の想いを、明穂の為に貫く。この誓いは誰にも曲げさせない。今はまだ、この仲間たちと走り出したばかりだ。これから、これからが大事になる。

 僕は、草刈美舟を殺す。そして、明穂を守る。


 ねえ明穂。僕は、何があろうとも、たとえ世界を敵に回すことになっても、君を守ると誓うよ。

 そう、涼風絢斗すずかぜあやとがつぶやいたこの時から、すべては廻りだす。

ご愛読ありがとうございました。ここまでこれたのは本当に皆様のおかげです。活動報告でまただらだらと書きたいと思いますので、よろしければそちらもよろしくお願いいたします。

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