二十六話 武器を考えてみよう
「おはよう、アヤ」
翌朝寝不足気味になりつつも学校に登校した。教室に入ると既にアキが座っていた。普段ぎりぎりまで寝ているアキが僕より早いなんて珍しいなと絢斗は思った。
目をぱちくりさせる絢斗を見て、同じく教室に来ていた愛美が捕捉する。
「おはよう絢斗。もしかして明穂が早いのなんでかって思ってるかしら? それは昨日、私が明穂の家に泊まらせてもらってね。それで朝早めに起きたら起こしちゃって。だから今日は早めに学校にきてるってわけよ」
「ああ、そういうことだったんだ。二人ともおはよう」
ニコッと絢斗は純真無垢なスマイルを浮かべる。うちに秘める思いはまっすぐな殺意だが、容姿は可憐なのでなんともギャップがある。外面はほんといいな、と愛美は悔しく思った。
「今日の演習は楽しみだな! アヤは誰とやるんだ?」
ああ、そういえば今日の午後は演習だった。うちの学校、厚葉本校では座学の他に試合形式の実戦演習がある。実戦演習では希望する生徒たちが集まり、武器を持って勝敗を競う。将来組織に就職しようと考える生徒なんかは、よい評価をとろうと積極的に取り組む。普段能力を自由に使える場はあまりないので、元気な生徒たちに人気の授業でもある。流れは大体決まっていて、まず準備をしてさっそく誰かひとりと戦う。場合によってはコンビを組んだりするが、一対一で行うことが多い。勝敗が決まれば互いに反省会をし、アドバイスし合う。そうして、更なる特訓を重ねていく。
「んー、特に決めてないかな」
最近は計画につきっきりということもあって、学校のことは全く考えていなかった。学校ではとりあえず目立たないようにそつなくなんでもこなすようにしている。演習で目立ったら組織に目をつけられてしまうから、そこそこに抑えている。残念なことに本気で戦ったとしても、身体能力強化だけだと他に強い人がいるから目立つことはないんだけど。
「なら私とやらないか!?」
アキが僕を誘うのは珍しい、ような気がする。うん、確か久しぶりのはずだ。アキの能力は非常に強力で厚葉本校以外でもその名を轟かせている。うちには強力な能力者が集まっているが、その中でもトップクラスの為、アキはよく演習を申し込まれるのだ。
今日はたまたま相手がいなかったのだろうか。僕がアキにタイマンで勝てるとは思ってもいないけど、久しぶりということで自分の成長具合を測ってみよう。自分が守ろうとしている相手の方が強い現状は以前悔しい気持ちでいっぱいだったけど、今は単純な戦闘以外にも守る手段はあり、それを行っているからそこまで気にしていない。でも、いつか越えたいとは思っている。
「いいよー」
「よし、午後が楽しみだ! お昼を食べすぎないようにしないとな!」
僕が承認すると、目をキラキラさせて喜んでくれる。いつもアキに一瞬で終わらせられる僕だけど、本人が楽しんでくれてるならいいや。
「絢斗と明穂がやるのは久しぶりじゃない? 頑張ってね、絢斗」
愛美が僕にほほ笑む。誰だって僕が負けるのはわかっているだろうから、気を遣ってくれているのだろう。何か一つくらいびっくりさせてやりたいな。
*
午前の授業を終え、何となく槍を借りて演習に挑んだ。結果は残念ながら手も足も出なかった。まだまだアキにはかなわない。今は試合が終わり、雑談兼反省会をしていた。反省といっても僕の身体強化じゃどうしようもないので雑談しかすることがなくなってしまうのだ。でも、真面目なアキは僕の良かったところを必ず褒めてくれる。おかげでボロ負けでもそこまでへこまずに済む。
「槍を使うのは初めてだったのか? 距離を詰められたらと思うと少し怖かったぞ!」
「近づけさえすれば少しはチャンスあったかな? でもアキに近づこうとしても、なかなか難しいかな」
「あ、確かに!」
あははーとそれで反省が終わったと思ったら、アキはポツリとつぶやいた。
「槍は瞬発力のカバーになるし、リーチもあるから先手をとるアヤに合ってると思ったんだけどなあ」
かなり詳細な分析だった。アキの言葉に何か引っかかるものを感じる。
僕がまともに戦闘をするとして、苦手なところは何だろうか。僕は能力を使うと異様に疲れるため、長期戦は向いていない。異様に疲れる理由として、身体強化は僕の能力の副産物に過ぎないということだ。だから、身体強化を能力とする人には圧倒的に劣る。それゆえ、能力のボロが出ない初めのうちに初見殺しのごとく先行するしかないというわけだ。それがかなわなければ、もう厳しくなってしまう。
振り返ってみれば、なかなかひどいものだ。長期戦がほぼできないというのは戦略の多様性が失われる。短期決戦専門だから、演習で考えることはいかに初見殺しをかますかということだ。ただ演習相手は同じ学校にいる同学年ということで、僕が最初に何かしてくる、というのは勿論知っている。だから相手も備えているので、僕は毎回最初にどうするか悩みに悩みぬいている。
「瞬発力かあ」
「アヤは身体強化以外使わないのか?」
明穂の言葉に絢斗はうーんと悩むそぶりを見せる。
絢斗は組織から目立たないために自分の能力を隠している、と伊緒たちに伝えているが明穂に対してはそれを伝えるわけにもいかないため、明確な理由は説明していない。毎回適当な理由をつけてごまかしている。明穂はそれを意識することなく納得してくれている。
「使わないかな」
「そうか。アヤの身体強化はすごい疲れて連発はできないから、今は基本的に最初で決着をつけようとしているように見えるのだけど、合っているか?」
アキはとても真剣に考察してくれている。普段の天真爛漫な面とはまた違って、こういうところもギャップがあっていい。
「うん、そうだよ」
「武器は軽い動くのを邪魔しないようなものを選んでる。よく見るのは短刀。短刀のいいところは、とにかく早いところだと思うが、最初を防がれて距離をとられてしまうとどうしようもなくなる。あと、パワーが足りないから競り合いになったら厳しいな。そう思っていたから今回なんの武器を使うかと思っていたのだけど、槍はなるほどと思わされた。さっきも言ったけど普段のアヤの立ち回りと合っていて、先手をとって動いたとき、槍なら軽い防御は貫ける。点での攻撃は避けられやすいけど、奇襲なら普段より当たりやすいから悪くない」
冷静な分析だと感じた。やっぱりアキはすごいな。正直僕はそこまで考えていなかったから、いわれてみてようやく気付いた。
「そういう意味で槍は使いやすいのではないかな」
「なるほど、槍か。そこまで考えていなかったけど、いわれてみれば僕と槍はあってるね。あー、槍かー」
槍、か。武器を使うなんて今まで考えてもなかったけど、ありかもしれない。僕の悩みとして、ナイフが通らなかったらその時点でほぼ終わりということだ。だから今まではナイフを通すまでのしっかりとした計画と、どうすれば相手をしっかり殺せるか、という二点を重点的に鍛えてきた。それで成功したものもあれば、失敗したのもある。でも、鍛えてきたおかげで人を騙し、殺すということはできるようになった。ナイフは、肉を切り裂く感触が直に伝わる。最初は気持ち悪かったけど、だんだんとなれてきたなあ。
あの感触が薄くなるのだろうか、槍は。それは少し嬉しいかもしれない。
「槍を使っている人はあまり見ないけど、アヤはうまくやれると思うぞ!」
うん、槍、使おう。
絢斗は明日から槍の練習をすることにしたのだった。




