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異能世界で最強と謳われる可愛くて人殺しの男の娘が裏世界で暗躍するちょっぴりえっちなセカイ系の物語はいかがですか?  作者: 独りっ子
黒き彼は月を歩む

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二十話 出会い、そして共鳴

「わかったよ、話そう。僕が八歳の時の話は覚えてるんだっけ?」

「……絢斗のご両親が殺されたって話か」

「うん、アキとの出会いはちょうどそのときなんだ」


 凄惨な思い出なのに、どこか嬉しそうに絢斗は目を細めた。絢斗にとって、あの日は許しがたい最低の一日だったが、そのあと出会った思い出が、汚れた過去ばかりでないことを証明してくれた。


「両親が殺され、僕も結構ひどい目にあった。その次の日にアキと出会ったんだ」




 ――それは、或る雨の日であった。ざあざあと視界を覆うほどの降雨が街を包む黎明の刻。絢斗は独り街を歩いていた。その瞳は虚ろで、景色は目に映っているのに、明け方の光はそこにない。暗い空間に同化するように、ふらふらと絢斗は出口のない迷宮を彷徨う。

 ふと、袖を引かれた。身体を揺さぶられるたび地面に擦れて、すっかりボロボロになってしまった布の切れ端を、女の子が掴んでいた。ちょこんとつまんだ指はとても細く、皮膚と骨のみで形作られているといっても過言ではない。しかし、その力は強く、ぼんやりとした絢斗の意識を現実に呼び起こすには十分だった。

 少女の、暗い瞳を覗く。そこは明るい茶がかかった黒色で、こちらを見つめ返している。ぎゅっとすぼめられた口は開かず、ただじっと自分を見つめ続ける。


「どうしたの?」


 殴られ、腫れぼったい唇から吐息を漏らすように、静かに絢斗は問う。

 少女はそれに答えず、もやのかかった眼をこちらに向ける。先ほどは何も感じなかったが、今は何かの感情がそこをぐるぐると駆け巡っているように思えた。


「ん」


 逡巡ののち、少女はその言葉のみを発して絢斗を引っ張った。自分よりもはるかに低い背丈をしているのに、身体のどこからこんな力が、と驚くほどそれは強くて、絢斗はただ引かれるまま霧雨の街のどこかに連れていかれた。

 よく見れば少女の服はぼろぼろで、サイズもあっていなかった。雨に濡れて服がだるんと垂れているのも気にせず、少女は進む。

 そして気づくと、立派な家の前にいた。そこは絢斗の家よりも数倍広くて、全く見慣れない家だった。こんなところに何の用だろう、と思っていると少女はずんずん歩いてついには家の敷地内に侵入してしまう。不思議に思いつつも、絢斗は抵抗する気力も起きず引きずられるままついていく。そのまま長い庭を通り過ぎ、玄関にたどり着いた。少女は無遠慮にガッと扉を開いて、靴も脱がずに床を踏みしめる。びちゃびちゃと水滴が木造りの床にしたたるのも気にせず、少女はどんどん進む。

 彼は誰時、家の中は静かであった。人の気配がしないしんと静まった廊下を歩き続けるとついに、少女は部屋らしき扉の前で立ち止まった。そして、再び絢斗と視線を合わせた。


「あけろって?」


 こくりと少女はうなずいた。荘厳なたたずまいの扉をきしませながら、絢斗はゆっくりと押し開いた。真っ先に目に映ったのは、天井いっぱいまで敷き詰められた大量の本だった。背表紙はどれも古く、あまり新しいものはなさそうである。

 絢斗がおとぎ話のようなあ空間にぼんやりとしていると、背中を軽く押されて部屋の中に入ってしまう。振り返って少女に話しかけようとすると、彼女は部屋の隅のクッションが敷き詰められたスペースに体育座りをしていた。その目は細められて、いかにも眠いといった風であった。

 仕方なく、絢斗は少女に近寄る。うっすらと開いた瞳は絢斗ではなく、傍らのぬいぐるみに向いていた。ここまで連れてきた自分は、そこにはいなかったように見えてしまった。それがどうしてか嫌で、夏の日にもかからわずしんと冷えた身体を、クッションにこもった少女に寄せた。肌にふれると、やっぱり少女はやせていて、健康そうには思えず、その白い肌にぎゅっと身を詰めた。

 少女は特に嫌がるそぶりも見せず、むしろ身を寄せてきた絢斗を抱き寄せた。


「おやすみ」


 両親が自分に毎晩告げてくれていたように、絢斗もそう言った。

 少女は、とても暖かかった。でも、それは少女の持つぬくもりというか、少女の身体に傷跡のように残された暖かさだと思った。

 それでも、それはそこにあった。嘘みたいな現実ばかりだったけれど、それだけは確かで、はっきりと感じられた。

 絢斗は、枯れた心に一滴の何かが宿ったのを目をつむりながら感じていた。




「こんな感じで、アキと一緒に寝てそれから、アキと共に過ごして今に至るって流れだよ」

「……どうして楠はお前を家に招き入れたんだ?」


 ってね、とにこやかに今の話を語る絢斗をやっぱり気持ち悪いと思いつつも、話の中で疑問に思った点を尋ねた。早朝、雨の降る街に明穂が歩いているのも不自然だったが、肝心のポイントをまず聞くことにした。しかし、帰ってきた答えは要領を得ないものだった。


「んー、なんでだろうね。なんか僕から聞くの嫌じゃない?」


 苦笑いをしながら絢斗は言った。


「お前、楠のことになるとチキンすぎね?」

「好きな人のことを想えば、臆病になるのは普通だと思うな。まあ、西条はわからないだろうけど」

「は?」


 口の減らないやつだ。


「てか、結局その家は楠の家だったってことなんだよな。お金に困るってことはないと思うんだけど、どうして楠はそんなにやせ細ってたんだ?」


 あの時のアキは明らかに栄養不足で発育が進んでいないように見えた。当時の僕も、それに気づいて心配していた。


「んー、別に虐待とかじゃないんだ。ただ、どうしてかアキはご飯を食べなかったらしいよ」


 なんでだろうね、と絢斗は続けた。

 楠と絢斗は、西条が二人と知り合ったそのときからの仲ではあるが、相当仲がいいように感じた。どちらも互いのことを想っているし、よく話す。しかし、絢斗から昔の話を聞いていると、案外そういったことは話してないのだと思った。


「お前は、昔の楠のことが気にならないのか?」


 話をされただけの西条ですら、明穂に関心が湧いた。そんな西条よりももっと、明穂について知りたいはずの絢斗がそれを訪ねていないのは不自然ではないのか。西条は疑問に思う。


「気にならないと言ったら嘘になるけど、それより僕はアキが進んで話してくれる方が嬉しいんだ。だから、僕からは聞かないよ」


 一見明穂のことを尊重しているように見えるが、西条はまだわからないことがあった。


「それは、お前が訊いて楠に断られてから判断することであって、話すらしないってのはなかなかなモンじゃねえか?」


 どれだけ年月を抱えても、相手のことを理解しきれるわけではない。そう思っている西条は、絢斗が勝手に恐れて話題にすら出さないのはどうかと考えた。

 西条の問いに、絢斗は一考すらせず答えた。


「アキって聞かれたことはなんでも答えちゃうんだよ。そこにアキ自身の意思は含まれてない。だから、僕から聞くわけにはいかないんだよ」


 そう言われては、返す言葉がなかった。


「おーけい、わかった。じゃあ、次は当日の作戦について聞かせてくれ」


 西条の言葉に、待ってましたとばかりに絢斗は作戦について話し始めた。

 ライブ前日、二人は夜遅くまで綿密な打ち合わせを続けるのだった。

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