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異能世界で最強と謳われる可愛くて人殺しの男の娘が裏世界で暗躍するちょっぴりえっちなセカイ系の物語はいかがですか?  作者: 独りっ子
黒き彼は月を歩む

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十八話 契約

「なあ、言いたくないならいいんだけどさあ、楠ってどんなやつなんだ?」


 殺人計画前日、僕の家に訪れたワビが尋ねた。


「あれ、アキには興味なかったんじゃないの?」

「あんときは知らなかっただけだ。今ではあいつの方が謎ばっかだ」

「じゃあもう僕には興味ない?」


 上目遣いに絢斗は西条を見つめる。媚びるような視線に西条はう、と顔を逸らした。

 こいつ、カオ綺麗なんだよな。西条は美しいけど憎たらしいという感情の板挟みになる。


「俺にそんな媚びたカオをすんじゃねえ。お前のこともまだまだ気になることが多いけど、今は楠の方を優先した方がいいと思っただけだ」

「振られちゃったかー」

「絢斗には楠がいるじゃねえか」


 西条はしくしくと泣くそぶりを見せる絢斗を呆れたように告げた。


「ワビは本当にそう思ってる?」


 その言葉を発した絢斗の表情は真剣そのものだった。冗談みたいな雰囲気だった部屋が一転、ピシッと引き締まった。


「本当にって……そりゃそうじゃないのか? 俺から見れば、二人はすげえ仲良く見えるな」

「んー、もし僕が一方的に好いてるだけ、って言ったらどう思う?」


 その言葉に西条は自分の過去の記憶を掘り返してみる。


「いや、楠がお前にひたすら話しかけてたじゃねえか」


 西条はきっぱりと告げた。彼の言葉通り、休み時間の多くは明穂から絢斗に話しかけていたそのことから西条は、絢斗の言葉は性格でないと感じている。無表情に虚空を眺める絢斗に手ごたえのなさを受け、西条は続けた。


「楠もお前のことが好きだから、お前にたくさん話しかけてるんだろ。それは間違いねえ」


 諭すように語るが、絢斗から反応はなかった。普段はおちゃめな様子を見せるのに、今は頼りない、不安定で危ないという印象を受ける。こういうやつにはなかなか言葉が届くことはない。言葉だけでは実感が湧かないのだろう、西条はどのようにそれを伝えればいいのか迷う。


「そうかも、しれないね」


 絢斗は目を細めてうっすらと口元に笑みを浮かべた。

 その様子に西条は何も言葉を継げなかった。絢斗も口をつぐんだ西条を見ることなく、どこか遠くを眺めていた。そして、思い出したかのように聞いた。


「それで、ワビはアキの何が気になるの? 君と出会って四日目の僕でよければ答えるよ」


 先ほどまでの表情はどこかに消えて、にこやかに絢斗は西条に問いかけた。

 絢斗の明穂に対する感情を聞くのはまたいづれかに、と西条は胸の内に誓い、まずは自分の気になっていることを尋ねた。


「二年前のクリスマス、楠が使った能力はなんだ?」


 西条の脳裏から消えないのはあの、二年前の戦いだった。任務もそこそこにクリスマスの街をぶらぶらし、適当な路地裏に入るとそこを黒フードに襲われた。どこかから現れたナイフを後ろに飛んで避け、距離をとったら尋常ではない速度でナイフが何本も投擲される。並みの能力者であったら能力を使う間もなくそこで身体をずたずたにされていただろうが、西条は恐るべき身体能力ですべてを躱した。能力が使えなかった路地裏の奥へ奥へと西条が逃げ、ある大通りに出ると明穂と遭遇した。明穂は西条が追われているのを見て咄嗟に助けに入った。


「ワビが逃げなければこんなことにはならなかったのになあ」


 あの時殺しておけばよかった、と目の前で残念そうにする絢斗から西条は少し距離をとった。


「まあ、少なくともあの時のお前が俺を殺すのは無理だっただろ。最初のナイフ以外全く危険を感じなかったぜ」


 だからフードから覗いた顔を見てナンパなこと言ったんだけどな、と西条は煽るように告げた。


「次は最初のナイフを外さないようにするよ」


 西条の煽りを気にもせず、絢斗は笑顔でそう言い切った。

 本当にやりそうなのが西条は怖かった。こいつ、本当に仲間だよな? スパイとかじゃないよな?


「んで、楠の能力は?」

「このご時世、むやみやたらに他人へ能力を教えるべきじゃないと習わなかった?」

「言いたくないってか。まあ無理なら無理でいいんだけどな」

「……西条、僕は君を信頼できない。だから、契約という形でのみ君と寄り添おうと考えている。少なくとも、今は」


 また、真剣なまなざしだった。


「西条、僕は君を相当な戦力だと予想している。だから僕は、君が欲しい」

「……素直にいうじゃねえか、可愛い子くんがよ」

「これが一番ストレートに君に伝わると思っている。何が君を僕たちに関心を抱かせたかわからないが、それと、僕の知っていることを対価としよう」

「よくわからねえもんを対価にしちまっていいのか?」

「目には見えなくても、大事にされているものがあるだろう。僕には見えないけどきっと、君には大事なものだ。だから、十分な取引材料となる」


 話の間、絢斗はずっと西条の目を見ていた。フローリングの床の上、明るいナチュラルな色が絢斗の周囲で輝いて見える。堅い口調の絢斗を見守るように、家の自然光は二人のいる部屋を照らしていた。


「その、確信があるか?」


 ようやく西条も、絢斗に応えるかのようにまっすぐ視線を合わせる。


「それは君次第だ」


 泰然と絢斗は答えた。その答えに、フッと西条は笑う。


「そこは嘘でもいいから相手を信頼させろよ、真面目ちゃんなんだな」


 む、と絢斗が唇を尖らせて文句をつけようとすると、西条は続けた。


「そんなお前の為に、契約に応えてやろう」


 おらよ、と西条は手を差し出した。

 晴れやかな気持ちだった。絢斗と明穂の綺麗な関係に西条は惹かれていた。他に見たことがないような、柔らかな光を二人に見た。自分のことを好きだ、と教室の中で堂々と叫ぶ明穂と、彼女に話しかけられるときに必ず幸せ極まりない、なんて表情をする絢斗。変な奴らだ、と最初は思っていた。今まで西条が見てきた人々の中ではあまり見ない関係性で、どこまでも、無垢なように思えた。だから、興味が湧いた。この二人をもっと知りたい、間近で観察したい。だから、ここで手を差し出した。

 出した手はバシッと払われた。え、と思わず西条が絢斗を見ると、彼は不満げな顔でこう言った。


「契約なんだから、お互い対等なはずでしょ? ちゃんとして」

「お前、ママってやつか?」


 口をついて出てきた言葉に絢斗が眉を顰めるのを見て、ああ、やっぱりこいつは面白いやつだと西条は思うのだった。


「は?」

「結構結構、俺の母親代わりになってくれてもいいぞ?」

「吐き気がするね。契約は破棄で」


 プイっと後ろを向いてしまう絢斗に苦笑いをして、西条は改めて言った。


「涼風絢斗、俺は契約を結ぼう」


 絢斗が向き直る。


「本当だね?」

「ああ」

「……じゃあ、いい、ワビ?」

「……ああ」


 念押しするかのように何度も確認されて不思議に思ったが、西条はうなずいた。


「フェールオンコントラ」


 ぼそりとつぶやくように言葉を紡いだ。その詠唱と共に、二人の間を何かが駆け抜けた。


「じゃあ、これからよろしくね!」


 絢斗のさらりとした手がごつごつした西条の手を握った。急に距離が近づいて西条は驚いたが、それ以上に見過ごせないものがあった。


「今、契約とかいったか?」

「え?」


 わかんなーい、とばかりにコテンと絢斗は首を傾げた。


「今の、フランス語で確か契約を結ぶ、とかだろ?」

「へー、そうなんだー!」


 まさかフランス語がわかるとは、なんてぼやいた絢斗を西条は見逃さなかった。


「もしかして、これをするために何回も確認したのか?」

「さあ、君の聞きたいことを聞いていいよ。僕は答えられることならなんでも答えるから」

「なあ、おい」

「さあ」


 にっこりと天使のような笑顔を浮かべる絢斗に、西条はまた不安になるのだった。

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