十三話 西条侘助の組織について
「じゃあ他の仲間ってやつもいるんだな?」
「うん。あと二人いるよ」
「二人? アイドルはあと三人いるんじゃないのか?」
「あー、うん。まああと一人は気にしなくていいよ」
「……お前がそういうならそうなんだろうな、信じようじゃないか」
これから活動するにあたって重要なメンバーのうちの一人を知らないのは任務として考えるとどうなのだろうかと西条は思ったが、遠回しにこれ以上追及するなとアイコンタクトを飛ばされたので言葉をつづけるのをやめた。
「うん、それでいい」
ぴったりだ、と絢斗は満足げにうなずいた。自分の求める通りの反応を返してくれておおむね満足していた。
「それで、あと二人は?」
「そのうち来るかもしれないし、来ないかもしれないね」
「はて、それで大丈夫なのか?」
「まあ、さいきっかーずはアクが強いって言われた一つがそもそも会いづらいってことだからね」
「アクが強い以前に、アイドルとして大丈夫なのかよ」
「会いに行けるアイドルから、会いにいこうとしないと会えないアイドルへ。時代の変遷に合わせてるのさ」
「アイドル戦国時代ってのはあながち嘘じゃないわけか」
「数十年前の語彙がすらすらでてくるね」
「そのあたりがおもしろかったからな。アイドルはあんまり知らないけどな」
昔の方がおもしろかったと今の年齢で愚痴ってどうするんだと絢斗は思ったが趣味趣向は人それぞれということで突っ込まないことにした。
「とりあえずここまで喋ったから、次はワビの番だよ」
「……ああ、まあそんな流れでいいか」
「情報が足りないとは言わないでね? 残りの仲間の話は本人も交えて話しをしないと手間になるからね」
「あー、まあ、そうだな。俺が話をしながらの方がわかりやすいこともあるか」
じゃあ、話すかと意気込んで口を開こうとすると、愛美が口をはさんだ。
「まず最初に聞いときたいんだけど、あんたっていったい何者なの? 能力が強いだけかと思ったらどうも違うみたいじゃないの」
「ああ、ならそこから話そうか。……誰かにこんな話をするのは初めてだから拙くても許してくれよな?」
「うん、きくよ」
「なら話しなさいな」
絢斗と愛美は心配げな西条を笑うことなく、温かく迎え入れた。それを見て西条は安心して語り始めた。
「俺は、国が設立した能力観察機関の中の、対能力者保安部隊に所属している」
「能力観察機関!?」
その言葉に愛美は大きな声を上げて立ち上がった。
「ちょっとそれ、どういうことよ!」
「愛美」
西条に詰め寄ろうとした愛美に、絢斗が声をかける。その一言が燃え上がった心に冷たく刺さり、愛美は唇をかみしめて、元の席に座った。
「能力観察機関の歴史から話そうじゃないか、まずはな」
それを横目で流して西条は落ち着いて話を続ける。愛美は二人が冷静な理由がわからず、自分はどうすればいいかわからなかった。
「お前たちが組織と呼んで、忌み嫌ってるところに俺はいるから、委員長サンがビビるのもわかるが、徐々に話してくから、頼むぜ」
絢斗たちが明穂の敵と認識しているものは多い。ただその中でも敵対勢力として大きく警戒している一つが、能力観察機関と呼ばれる今の時代の趨勢を裏で握っている巨大な組織だった。
「オリンピックの時から俺たち能力者という存在は現れたらしいってのはもう習ったよな? ってことはそんときにお国が慌てて能力者を詰め込んだ組織を急造で作ったのも知ってるか」
うんうん、と絢斗は話を促した。愛美も与えられた話は理解しており、静かにうなずいた。
「ちゃんと覚えてるようでよろしいよろしい。その支配ってのは、看破の能力者が協力してくれたから、うまくいっているようだったんだけど、一年ほど経ってから問題が起きた」
「最初の暴動事件かな」
「そう、江戸川事変だ。一部の能力者が自分たちの待遇に不満をもって暴動を起こした、能力者の初めての事件だな」
これは非能力者の能力者に対する印象を悪くした、酷い事件であった。ここから、能力者に対する世間の扱いが人によって大きく分かれることになる。
「それを鎮圧するときに、年若い様々な能力者が活躍した。その裏で手荒な処理をしていたのが、今俺が所属している部隊の原型だ」
「対能力者保安部隊……」
愛美には聞き覚えのない名前だった。能力観察機関といえば、能力者保護隊などが主に有名で、世間からは能力者の治安を守っていると評判のいい組織であった。
「まあ、保護隊じゃ世間体的にできない汚れ仕事をやらせていただくって部隊ってことよ。簡単に言えばな」
自嘲気味に言って、西条は肩をすくめた。背中を背もたれに預けてゆるりと座っているが、そこにいつもの自信はなく、意思のない人形のような雰囲気を醸し出している。
「そこに俺はスカウトされて、長い間任務に励んでいるってわけさ。まあ俺は特殊な立場にいるから上司も部下もいない、気楽なもんだけどな」
「ふうん、あの時殺されなくてよかったね」
「俺の方が強いから、殺される可能性はなかったけどな」
「アキが来るまで防戦一方だったくせによくいうよ」
「お前の実力を測ってたんだよ。部隊から使えるやつは使えと命令されてっからな」
「……そんなに余裕だったの?」
「俺は結構強いからな。お前もそこそこだけど、まだ俺の方が強い。それだけだ」
その言葉に、絢斗はギュッと拳を握りしめた。いつも、自分の実力不足を感じるばかりの日々だ。悔しくて悔しくて、なんとかあがいてもまだまだ目標には遠く届かない。戦いという実力のみが残酷に表されるものに、絢斗はいじめられている。どれだけ自分を鍛えても、自分の強さを示すものは、勝った負けたの結果しかないから、負けたときは数少ない実力がわかる機会になる。だからその分、悔しさが極まる。
「……大丈夫よ、絢斗。あなたは今、アキを守れているのよ。そのことを忘れてはアキが悲しむわ」
うん、とだけ絢斗は返した。生返事に、自分の言葉が届いてないと感じた愛美はもう一言ばかり励ましをかけようとするが、西条がそれを遮った。
「草刈は、保安隊ではなかなかの権力を持っている。保護隊ではあんまりだけどな」
草刈、という人名をきいた絢斗は、ハッと意識を取り戻して西条を強い眼光で見つめなおした。
「お前が草刈とどういう関係か知らないが、少なくとも草刈は二度目の暴動を治めるのに活躍した英雄で、今もなおその力を誇っていることは知っているだろ」
「草刈美舟に対する認識はそれで合ってるね、うん。それで、保安隊での認識は?」
「まあ、荒れ狂う野獣のような存在だな」
「それを分かってるなら話は早いね。あいつは、保安隊の中でどの地位にいるの?」
「保安隊の中にもいろいろな部門があるわけだが、それを束ねる戦略企画ってやつらが何人かいる。草刈はその一人だな」
実戦部隊、総務、企画開発といった部門が保安隊の中にもあるわけだが、それを束ねる部門を戦略企画といった。戦略企画の上には代表など数人であり、これはつまり草刈美舟という存在は上の立場にいるということを示していた。
「そうなんだ、なるほどね」
興味深そうに絢斗はそれを聞いていた。
「草刈は表向き頼れる姉御って感じだけど、あの性格だろ? だからあいつには特別に直属の部下が何人かついてるんだよ」
「ねえ、草刈さんって悪い人なのかしら?」
そこでまた、愛美が横やりを入れた。絢斗と西条は草刈を厄介者扱いしているが、自分は彼女を悪者だと知らない。彼女を知る多くのものが、彼女を何ごとも任されたことは解決する、頼れる存在であるとしか認識していない。
「ああ、また詳しく話はするけど、草刈美舟は少なくとも僕にとってサイテイなやつだよ」
言葉少なく絢斗はそう言った。その憂いを帯びた瞳を見て愛美は草刈への認識を改めた。細かい理由はわからないけど、彼女は絢斗にとって敵なのだと。
「じゃあ次は、絢斗と草刈の関係でも話してもらおうか」
愛美と西条の関心は、それだった。二人の視線を受けて絢斗はふう、とため息をついてわかったよ、と小さくつぶやいた。




