十一話 実はあいつがアイドルだった件
「今日の放課後、僕の家に集合ね」
絢斗は明穂以外のメンバーにそう連絡を送っていた。彼は自分のやることに絶対明穂は巻き込まないと誓っており、彼がやろうとしていることはずっと明穂に秘密にしていた。そのため仲間のことを明穂には濁して、ただ同じ目標に向かう同志と説明していた。
午前中の座学をこなし、午後の実践訓練を彼らはなんなくこなし、いよいよ放課後を迎えていた。絢斗は愛美と西条にアイコンタクトを飛ばし、いったん明穂と共に彼女の家に帰宅していった。
絢斗が見送ってから、愛美はぐるりと西条へ向き直った。
「それじゃあ、いくわよ」
「ああ。……いろいろ聞きたいことがあるんだが、どれから聞きゃあいいんだよ」
あー、と自分を見やる釣りあがった瞳に行き場のない感情をぶつける。頭をがしがしかいて、はー、とため息をついた。
その間にも愛美はすたすたと教室を出ていく。ちょ、ちょとまだ支度をしていなかった西条は慌てて荷物をまとめてそのあとを追った。廊下の先に赤いロングの髪が揺れてるのを見つけて下駄箱前で何とか追いついた。
「ちょ、はやくね?」
「私たちは忙しいの。呑気にしているわけにはいられないのよ」
そっけない物言いに西条ははあ、とだけ返した。絢斗に明穂、そして愛美とこいつらは一体何をやろうとしているのか西条には皆目見当がつかなかった。
「委員長サンたちっていったいなにをやってるんだ?」
とりあえず西条は素直に疑問をぶつけてみることにした。その問いに愛美は見向きもせず、下駄箱から靴を取り出しながら雑に答えた。
「どこまで話せばいいか私にはわからないから、詳しくは言えないわ」
「絢斗の仲間にその程度のことすら自分で考えられないやつがいるなんてびっくりだな、はは」
雑な物言いにイラっとしたのか、西条はあいさつ代わりに愛美を煽った。靴を履き終えて、昇降口に向かおうとした彼女の肩がぴくっと上がったのを見て、西条は更に追撃をかける。
「もしかして普段から絢斗におんぶにだっこってか? ゆりかごになってもらって老後までぬくぬくと養ってもらうつもりなのかな?」
「あんた、性格悪いわね。友達出来なさそうなタイプだわ」
ようやく振り返った愛美は呆れた、とだけ付け加えた。
肩が動いたのは言い返そうとしたのではなかったと何となく西条は把握して、それならここまで言ったのはまずかったなと少し反省をした。
「悪い、少し言い過ぎたかもしれねえ。委員長サンの態度に合わせようと我を忘れてたわ」
皮肉半分といったそのセリフにも愛美は動じず、諭すように返した。
「その程度で揺らぐなんて大した人じゃないのね。これから絢斗の仲間になるのに不安になるわ。まずは常識ってものを優しく教えてあげるから先輩の背中を眺めていなさい」
「ええ、そうさせていただきやすよ、我の強い委員長サン」
そこまでの会話で何か通じ合うものがあったのか、二人はついに視線を交わした。すぐにそれは外されたが、互いの歩くペースが先ほどよりも相手を気遣ったものになったように、二人は感じられた気がしたのであった。
そのまま学校を出て、世間話のようなものを繰り広げていると、愛美が思い出したかのように伝えた。
「そうそう、あんた。私たちが大事にしていることだけは、はっきり教えてあげるわ。耳の穴かっぽじってしっかり聞きなさい」
粗暴な言葉遣いであったが、西条はそこに配慮の気持ちを感じ取って大人しく耳を傾けた。
「ちゃんと聞いているようね。……私たちがはっきりこれを決めてのはおおよそ一年前なのだけれど、その時から全く変わっていないわ。むしろ日頃その思いが強くなっているわ。だから、本当に大事にしてほしいことなの」
「そこまで言うならきいてみようじゃないか。俺もいつも通りまじめに聞いとくわ」
「あんたのいつも通りはすまし顔してスルーでしょ。今回はいつも以上に聞きなさい」
「おお、よくわかったな」
本気で驚く西条が可笑しかったのか、愛美はふふ、と硬い表情を解いた。お、笑えるのか、と西条はそれを確認して感心していた。
掛け合う二人の歩く場所がにぎやかな住宅街を抜けたころ、愛美は仲間たちが守り抜いていることを明かした。
「私たちは、明穂を守ることをいつも一番に考えているわ」
大事、という割に案外普通のことだなと西条は素直に思った。確かに一般的な高校生といったら思春期真っ盛りで周囲との交友関係が大変な時期だから、そういったものに疎そうな楠を守る、という目的で集まる仲間は確かにいそうだな。絢斗なんかその典型だろうな、と今までの考察と掛け合わせて考えていた。
「守る、といっても相手は様々よ。主には能力者に対する抑圧団体が主だけど、機関が相手になることもあるわ」
「え、そんな大規模なのか?」
せいぜい高校生のおままごと程度を思い描いていたが、想像をはるかに飛び越えたフレーズが語られ、西条は思わず突っ込んでしまった。
その反応に、勘違いされていたと気づいた愛美は軽く付け足す。
「そりゃそうよ。まさか探偵団くらいの、って探偵団を知らないか。まあ、たかが高校生くらいの規模ではないわ」
たかが高校生って言ったって自分たちもそれに当てはまるよな、と突っ込もうとしたのを飲み込んで西条は納得していた。
確かに、高校生のおままごとだったら二年前絢斗が自分を殺しにくるなんてことはないだろう。たかが高校での秩序の為に人殺しをするなんて、あり得るわけがない。
「委員長サンたちはそいつらから楠を守る活動をしているってことか」
「そういうことになるわね」
そこで西条は一つの疑問に至った。
「守る活動をするってことは楠、そんなに狙われるのか? どうして楠はそんなやつらに狙われるんだ?」
一般的な能力者は、その身分を大っぴらにでもしない限りよほど危険に合うことはない。能力者であろうがあるまいが、外見は同じ人間で特に変わらないため、街に繰り出しても自分から言い出さない限り一般人に紛れ込むことができる。
性格的に不器用なところがありそうな彼女だが、どうして守らなければいけないほどになるのか。絢斗の過保護ではないか、と西条はのどに疑問が突っかかっていた。
「……ああ、そういうことだったのね」
その疑問を聞いて、愛美は何かに納得したようにうなずいた。やっとすっきりしたわ、と彼女は張り詰めた空気を解いて、肩をなでおろした。
「どういうこと、とはどういうことだ?」
そのわけがわからず西条は聞き返した。今の質問に対して愛美が考え込む必要がないのに、どうして納得したのか彼には依然謎であった。
「あんた、うちにテレビある?」
「あるぞ」
「テレビはよく見る?」
「いや、ニュースくらいしか見ないな」
「一人暮らし?」
「ああ、そうだけど」
突然矢継ぎ早に愛美が質問をする。それに戸惑いつつも、まだ意味が分からないので西条はそれに答え続けた。
「音楽とか好き?」
「まあ、人並みに」
「歌番組は見る?」
「……うーん、見ないな。音楽は古いのしか知らないから最近のはあんまりわからん」
「じゃあ、アイドルっていうのは?」
「二十年前くらいのものなら少しは知ってるな」
ふう、そういうことね。
また、軽くため息をついた。
そこでようやく質問が終わり、西条は結局これがどういうことだったのかわからず不満げにしていると、愛美から衝撃の一言が放たれた。
「アキはね、アイドルをやってるのよ」
「……え?」
あいどる、アイドル。あの楠が? 好奇心旺盛で、知らないことは何でも知りたがりそうなあいつが、アイドル?
……確かに天然無邪気キャラなら通用しそうだけど、この時代に能力者がそんな大勢の前に出て、大衆のためのアイドルなんてものをやっているのか。
西条はその情報のわからなさにわからん殺しをかまされ、ノックダウン寸前だった。なんとか情報をかみ砕いて絢斗の家までたどり着こうと重くなった身体をひきずろうとすると、そこに追い打ちが入った。
「私も同じアイドルグループに所属しているわ」
「は?」
こいつが!? 楠より更に想像できない!
「ちなみに絢斗がプロデューサー兼マネージャ―よ」
「お前らなにやってんの!?」
衝撃の事実の羅列に、西条はそう叫ぶしかもうできることはなかったのだった。




