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異能世界で最強と謳われる可愛くて人殺しの男の娘が裏世界で暗躍するちょっぴりえっちなセカイ系の物語はいかがですか?  作者: 独りっ子
黒き彼は月を歩む

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九話 自分の過去を語って委員長との仲を深める

皆様の評価にいつもやる気をもらっています、本当にありがとうございます!

読んでいただくのがうれしすぎて布団で飛び跳ねたり、やり場のない感情を身体を振り回して発散させようとしたりしています。

どうかこれからも、よろしくお願いします。

「ねえ愛美。話をきいてくれない?」

「言い訳でもするつもり?」


 ツンと釣りあがった瞳はこちらを向きはするが、攻撃的な視線で話し合う気はなさそうだった。

 朝の眩しい日差しが二人を照らす。先ほどまで階段下で向き合って影となっていた二人だったが、今は愛美が絢斗から距離をとったため、愛美にのみ光があたっていた。


「僕のこと、愛美はどれくらい知ってる?」


 じめっと湿った空気が漂う清掃用具入れの前から絢斗は問いかける。ポツリと漏れたその言葉に、何か切実な思いを感じ愛美は立ち去るつもりが釘付けにされる。


「僕は愛美のことを知っているけど、僕ほど愛美は僕のことを知らないよね?」

「……うるさいわね、ごちゃごちゃしてないではっきり言いなさいよ」


 切れ目なく、質問を飛ばし続ける絢斗。その様子が、応答を求める子供のように見えたのだろうか。愛美は一歩彼に近づいた。


「愛美は、何事も家族を最優先で考えるよね」


 朝のチャイムが鳴るまでの十五分。絢斗は語り始めた。


「愛美が能力に目覚めた翌日、赤羽高広あかばねたかひろは姿を消した。それが本人による自発的なものだったか、それとも別の何かの要因があったかはわからない。ただ、たった一つ言えるのは自分がこの世界でも希少な結界能力者になったのが原因であること」

「私のことじゃなくてあんたのことを――」

「病弱な母一人を優しい父が置いていくわけがない。そして父は誰かから恨まれるような人間ではない。それをよく知っていた愛美は、自分に重く責任を感じた。だから自分は、自分のせいで消えた父の代わりになって、家族を守ることを決めた」


 急に私の話をしてわけがわからない、と遮ろうとした愛美を制して絢斗は語り続ける。


「それが、君の核だ。小さいころから家族に愛されて綺麗に磨かれた原石が形を成した。それを鋭く削ることもできたけど愛美、君はとても優しい。だから、君はそれを磨いて、家族を守れるように硬く、家族に触れられるように優しく、磨き続けた。それが、今の君だ」



 絢斗はこれを語る過程でまた、決心をしていた。これまですべてを語らなかった自分が、愛美を傷つけていたようだ。なら、語れることは語ったほうがいいのではないだろうか。別に、愛美は自分が守る対象とはみじんも感じていない。けれども、家族の為にとその身をささげて生きる彼女を無為にしたくはない。自分は明穂以外に好意を抱かないが、何かの為に懸命に生きている人間を傷つけたいわけではない。


「だから君は、誰にでも優しくできる。いつでも君は、人を傷つけることはしない。でもどうしても、本当はしたくないけど、家族の為になる、という時だけはわずかに、悪意へ小さく怒りをこぼす。できれば、そんなことはしたくないけれど。でも、家族の為なら、自分の愛するもののためなら、平気で自分を殺すことができる」


 それが絢斗が出会ったころから今までで感じた、愛美への本音の印象だった。すさんだ幼少期を過ごした彼にとって、ここまでまるっきり善の塊そのものという存在は、出会って話してからも信じられなかった。結界という世界が欲しがる能力を身に宿した少女が、希少な力に惑わされず、ここまでまっすぐに生きてきたというのは絢斗にとって、遠い時代の夢物語のようだった。

 そんな彼女を高校で見つけて、彼は一つのプロジェクトの舵を取ったのだった。


「そんな君が、僕にとって魅力的だった。だから、君を誘ったんだ。このグループに」

「嬉しいことを言ってくれるわね。普段は私のことなんてどうでもいいとばかりにないがしろにするくせに」

「だけど僕は、そうじゃない」


 嬉しそうにしつつも、そう簡単には騙されないぞとばかりに愛美は話に聞き入っていた。そこに絢斗は、きっぱりと言い切った。


「僕の両親はもういない、って話はしたかな?」


 絢斗の様子が徐々に変わってきたと感じて、愛美は唾を飲み込んだ。


「ええ、聞いたわ。絢斗が小さく時に亡くなられて、絢斗は叔母さんに引き取ってもらったのよね」

「ああ、そういう風に話したかな」


 八時を指す時計の向こうを懐かしむように絢斗は見た。過去の思い出に浸り、昔を思い出しているようだった。


「あのね、愛美。僕の両親は、僕が八歳の時に殺されたんだ」


 生徒たちが出入りする校門から遠く離れた暗い場所で、絢斗は世間話をするかのように自分の過去を明かした。


「それから僕は、僕を殺した女に育てられた。育てられたといっても、お金を渡されてあとは全部自由。どうやって生きるか最初はわからなかったけど、幸い、お金は腐るほどあったから今もこうしてあいつを殺したいと思えてるよ」


 淡々と、重苦しい過去を語る。

 愛美はその仄暗い話を、どう受け止めていいかわからなく呼吸を忘れて聞き入っていた。


「僕にとって家族はきっと、大事だったはずのものなんだ。だけど家族がなんなのか、もうわからない。そういうあいまいなものは、あいつが全てぐちゃぐちゃに踏み壊していったんだ」


 二コリ、と話の凄惨さを感じさせない可憐な笑顔を浮かべる。今までは無邪気に思えていたその笑顔も今は、別の何かに思えてしまって愛美は絢斗が怖くなった。


「僕は、僕の周囲を押しつぶしたあいつを、殺したくてしょうがないんだ。あいつに削られた僕の核は、もう鋭く尖って、先っぽを細長くして何とか整えるしかなかったんだよ」


 そこまで語って、絢斗は止まった。目をつむって、ため息をつく。そして、目じりに涙をにじませる愛美をとらえた。

 そして、フッと優しく笑った。


「泣かなくてもいいのに、愛美。君は本当に、優しいよね」


 朝日が差して、階段下の踊り場が太陽に照らされる。生徒たちの喧騒がにわかに聞こえてくる中、愛美の目元はキラキラとまばゆい光が反射していた。ギュッと唇をかんで、涙をこらえているようだ。花を吸い上げ、胸で大きく息をする。こぶしを固く、握りしめる。


「ごめんね、愛美。今までちゃんと説明しないで」


 絢斗は、愛美が泣くのを我慢する子供のように見えていた。いつもは自分を心配するお母さんのようだが、こういうところはちゃんと女の子なんだな、と初めて気づいた側面にほほえましく思う。

 彼がその言葉を述べると同時に、愛美はワッと絢斗に抱き着いた。

 よしよし、と自分と同じくらいの位置にある頭をさすり、軽く抱き返す。


「ずっと……心配だったんだから……人を好きにさせといて、放っておくなんてほんと、サイテーよ……」


 涙と嗚咽混じりに訴えられる。こんな素敵な子を一年前の僕は、篭絡させてずっと利用していたなんて、やっぱり僕はひどい人間なのだと再確認した。

 チャイムが鳴る頃には愛美は泣き止んでいた。


「ごめんね、愛美」

「優しい言葉をかけるだけじゃダメよ。これからはちゃんと、私にも言って」

「うん、わかったよ」


 愛美はまた、母のような眼差しに戻っていた。

 赤髪に、母親面というと絢斗にとっては災厄の記憶を呼び覚まされそうになるが、その瞳は善意で澄み渡っていて、それだけは彼を落ち着かせた。

 目を赤く腫らした愛美の後ろを歩きながら絢斗は教室に帰った時愛美についてクラスメートにどんな邪推をされるのかという面倒くささと、ようやくこれから始まろうとする計画への期待について、心を昂らせていた。

 光を浴びる廊下を歩く中、彼の暗然たる復讐心は両親が殺された頃から変わらずその心の中で静かに灯をともしていた。そしてその寂寥たる灯りは今、だんだんと周囲の純白を包み込み、それを留めようとするものを、蝕もうとし始めていた。

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