男はみなけだもの
早乙女達は金魚すくいに興じていた。
シンプルだが鮮やかな赤と黒のコントラストが見事だった。
錦鯉と並ぶ日本が誇る生きた美術作品と表現しても大袈裟ではない。
ゆらゆらと揺れるみなもに魚の宝石達は優雅にワルツを踊っている。
久保田は少女に拾ったポイを渡すと再び戦線復帰するも当初の集中力は無く、注意が散漫していた。
勿論原因は変装した香月。
お互い面識はない筈だからそこまでする必要性はないのだが、香月は有名人なので念には念を入れる。
幼さが残るすっぴんだったが、化粧を施し大人のレディに変身した。
どう見ても今の香月は歳上としか思えない。
『久保田君、ポイが穴空いているよ?』
『…………………………』
『久保田君?』
『…………………………』
『久保田君?』
なのでこの通り、久保田は偽りの色香に騙され、お金魚様達はポイに穴があいているのでライオンの火の輪潜りよろしく遊んでいた。
ちなみに『ポイ』とは金魚をすくう時に用いる円形に和紙を貼ったもの指す。
柄の付いたプラスチック等の輪に紙の膜が貼られている。
昔は針金製のものが主流であった。
だが、俺は主流はなくマイナーな『モナカ』派だ。
センタクバサミで挟んでいるから何とも脆いこと。
金魚屋の悪意を感じるのは俺だけだろうか…………。
『――久保田君!』
『……わぁ、どうしたの?』
久保田の袖を引っ張って漸く本人は気づいた。
『ポイ、とっくに穴があいているよ』
『あ、本当だ。ごめん』
早乙女はここを去ろうとするが、久保田は一向に動く気配はない。
無言で店主にお金を渡した。
『まだ、やるの?』
『ごめん、リベンジさせて』
『わかったわよ』
早乙女は気付いていない。
このスケベは金魚なんてどうでもいいって事に。
『あ、待て赤いの!』
香月が金魚を追いかけて屈むと、浴衣の隙間から立派に実った胸の谷間が顔を出す。
小泉程の爆乳ではないがそれなに発育がいいので男なら誰でも反応した。




