呉越同舟
二人はこちら側へやって来る。
その間、お互い終始無言。
気まずい雰囲気を醸し出していた。
「桂ちゃんごめんなのだ」
「………………」
「二人ともお疲れ」
何とかこの空間を中和しようと俺は労う為に買っておいたかき氷を二人に渡した。
シロップは定番のイチゴとレモン。
「ウマイ。くーう、きんきんなのだ!」
一条は一気に白の塊を掻き混むと、こめかみを押さえる。
「おいおい、慌てて食べるからだろ。香月も食べろよ」
だが、香月は俺に近づき、「……………バカつら、他に言うことがあるだろ?」俺の頭にかき氷をぶちまけた。
「………………」
「まどまど何をするのだ!」
「桂、私の親友に何をやらしているんだ?」
「僕は自主的に――」
「さらっちには聞いていない」
当然の事ながら香月は怒っている。
俺は頭を下げるとかき氷の残骸が地面に落ちた。
蟻達がたかる。
「すまない」
「この台本にしろ、用意周到さ。あんたまた何か問題を起こそうとしているんだよね?」
そう、先程のは全て演技。
全て香月が投げ捨てたこの緊急用マニュアル通り。
子供の頃から実践慣れしているとはいえ、その記憶力に正直驚いた。
「そうだ。俺の単独で、久保田が気に入らないからからかっているんだ」
一条が口を動かす前に、適当な事をでっち上げる。
それがいつも世話になっている一条への恩返しだ。
「そうかよ」
「あ!」
香月の振り上げた手は俺の頬を殴打した。
流石に痛い。
口切れたな。
「久保田はあーしも嫌いだし、さらっちに危ない橋を渡らした事はこれで許す。それに面白そうだから協力してあげる」
「「え!?」」
またまた想定外の展開に参謀へ目線を送る。
「……分かったのだ。三人でやろう」
「一条いいのか?」
何故にそうなる?
「なんとかなるよ」
「そうか」
友達の一条が決めた事なら俺がとやかく言うのは野暮ってもんか。
ならせめて部外者が危険な目に合わないように万全なバックアップをしていこうと、俺は改めて亡きエドウインへと誓った。
「それで何をしていたんだ?」
「久保田君のデートの邪魔をしていたのさ」
「あいつまた女子高騙してデートしているのか?」
また?
「そんなに酷い奴か?」
「女の子の敵なのだ」
久保田はそんな奴だったっけ?
まあいい、もう関係ない。
本当は早乙女を邪魔する計画だったのだが、真実を語った処で親友と思っていた奴みたく鼻で笑われてしまうのがオチだ。
久保田にはこのまま悪者を演じて貰うしかないよな。
しかし、狂った予定をどう修正するかだ。
もう、財布をスルという選択が選べない今、代案をこの場で構築しないといけない。
この急場、どうやって凌ぐ一条?




