嘘も方便
普段書いてる関係で剃っているから眉は薄い。
目はヒョウというか猫目、目鼻立ちが通っていて役者の家系も頷ける。
普段から鍛えているから体のバランスもとれていて、同性もうっとりしてしまう魔力を秘めていた。
確かにパーフェクトボディだが、性格が悪いので完璧とは認めるつもりはない。
「真面目なお願いだ」
「なんだよ?」
俺の態度に香月は警戒しながら怪訝そうに目を細めた。
一方、パートナーは、
『――ちょっと君、いいかい?』
「うん?』
振り向くと見知らぬ声を掛けられて一条は驚いた顔をする。
『私達は警察の者だけど、今何していたのかな?』
『えーと……』
手帳を見せられて困惑する一条。
考えが纏まらないのか声が詰まっていた。
『答える事が出来ないのかい?』
『そこの交番まで一緒に行こうか』
『あの……その……』
一条の窮地。
イレギュラーの出来事に涙目になる。
本当なら俺が出ていくべきなのだろうが、まだ早乙女の妨害ミッションは続いていた。
予定外の事をやって予測不能になると、早乙女の勇者王へと未来が確定してしまう。
俺は何度も足を踏み出すのを堪えた。
『――ちょっと待った!』
『まどまど?』
突然の王子様の出現で一条は戸惑う。
『さらっち、どうしたんだ?』
『お巡りさんに呼び止められたのだ』
『お巡りさん、この子なにかやったんすか?』
『お前はもしかして香月まどか? 彼女の知り合いかね?』
流石は元ギャル。
お巡りさんにも顔が知られていたか。
『ああ、彼女の親友っすよ』
『悪いと思うけど、お祭りは盗難が勃発するからな』
『この子が妙な動きをしていたので声を掛けさせてもらったんだよ』
と、お巡りさん達は事情を話す。
『そうなんすね。でも、この子は大丈夫っすよ』
『なぜ?』
『さらっちが欲しいものは財布じゃなくて、あの人のホルダーに引っ掛かっているマスコットだから』
香月が示した先には猫のストラップが辛うじて奴のバックに。
『ああ、確かに何かぶら下がっているね』
『はい、折角、なけなしのお小遣いでとった戦利品だったのに、ぶつかった拍子に引っ掛かったんです。ついていないのだ』
『じゃ、話しかければ良いじゃないか?』
正論だ。
だが、
『それがそうもいかないんすよ。うちの学園で女癖の評判が悪い男なんで。何か絡まれるのが怖くてどうして良いか分かんなかったんだよな?』
香月はこう切り返す。
まるで台本でも読んだみたいな完璧な解答。
『そうなのだ』
『なるほど、そう言うことか』
嘘は言っていない。
ポリスマン用にと万が一の為、事前に仕掛けておいた言い逃れ対策が功を奏した。
『じゃ、俺が貰ってこようか?』
『いいっすよ。あいつと関わり合いになりたくありません。諦めますよ』
『折角の夏祭りの想い出が台無しになるのだ』
「そうかい。わかったよ。今後は誤解される行動は慎むように』
『ごめんなさいなのだ』
『ごめんっす』
正義の執行人達は頭を下げる一条達を後にした。
こうして危機は去る。
だが、『……』その双眼は俺に向けていた。




