第二ミッションクリア
「ところで一条さん」
「ん?」
「聞くのが怖いのですが、あの赤い液体は何なんですか?」
何故か敬語。
特に意味はない演出だ。
「ジョロキアといきたい処だけど、ハバネロの粉末を水で溶いたものだよ」
「もしかして出所は香月か?」
「そう、まどまどが辛党だから分けてもらったのだ」
そう、香月まどかは辛党だった。
しかも粉末のペッパーを数種類持ち歩く程のマニアだ。
だが、何でも何でも辛いのかけると味覚障害になってしまうぞ。
それと豆知識。
味覚は苦味、酸味、甘味、塩味、旨味の5種で構成。
つまり辛いのは味覚ではなく痛覚という事になる。
即ち辛党はみなマゾという結論に至った。
『死ぬかと思った。あそこのたこ焼き儲けるつもりあるのか?』
『ロシアンたこ焼きなんて需要があるとは思えないんだけど……』
久保リンは一条が仕込んだいたずらとは気付かず、赤くあれ上がった唇を擦りながら、屋台の店主の恨めしそうに見た。
『そのうち客に訴えられるぞ』
『そんなにこの屋台競争って激しいのかな?』
早乙女は恐る恐る、恐らくタコが入っている筈の小麦粉の塊を食べる。
セーフで胸を撫で下ろした。
『何か今日はついていないな。みっともないところばかり見せてごめんね』
『気にしないで。そんな時だってあるわよ』
だが、明らかに折角の良い雰囲気が壊れた。
二人とも意気消沈して地面に座り込む。
一方、
「桂ちゃん、第二ミッションクリアだね」
「そうだな。これだけやれば男の尊厳丸潰れだ」
俺と一条は目で合図すると共に勢い良くハイタッチ。
そのまま調子に乗ってアルプス一万尺を公然で披露したのは、摂理なので詮無きこと。
「これだけやれば、早乙女の歴史も変わったんじゃないのか?」
「どうなんだろう?」
一条が広げたノートに俺は頭から覗きこむ。
だが、過程と結果になんらズレは生じてなかった。
「仕方がない、次のミッションだ」
「次は難しいのだ」
3 男の財布スッて恥をかかせる。
「俺は面が割れているから、計画通り一条の単独行動だが、問題ないか?」
「ふふのふ。我を誰だと思っているのだ。魔界貴族の一条家に失敗はない。不安がないと言えば嘘になるが、何とかやってみせるのだ」
一条は大きく胸を張って誤魔化す。
虚勢だろう。
不安を隠している事が丸分かりだ。
お知らせ。
カクヨムにて別作品でカクヨムWeb小説短編賞 最終選考に残りました。




