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量産型男子高校生の生態


『うわあ! 冷たい!』

『え? きゃあ、久保田君びしょびしょだよ!』


 咄嗟に早乙女はポーチからハンカチを取り出し、隣人のどうでも良い顔を拭いた。


 そういえば、女は分かってない。

 良く使われるが、水も滴っている良い男とは艶々しい張りのある肌という意味で、けして水を被ったから美男子になるという訳じゃないではないのだ。

 

『ありがとう早乙女さん。大方ヨーヨーのゴムが切れてこっちに飛んで来たんだろう』


 水も滴ったイケメンは周りを確認しながら、『だから気にしてないよ』と付け加える。

 なら何故に目が血走っているのだろうかと問いたい処だ。


『久保田君、寛容よね。私なら恥ずかしくて泣きながら帰ってしまうわ』

『ははは……数々の試練が俺の大人にしてくれたのさ』


 そういう風に公言するのなら下唇を噛むのは止めたらどうだろう。

 血が滲んでいるぞ。


 なら結果的に俺はお前を進化させた大恩人なのではないかとうそぶくも、恩着せがましい言い分はそっと心の奥に閉まっておくとする。

 眉がヒクヒク動いているのが、建前だと見てとれるからだ。

 

 どうやら狙いは合っているようだ。

 普通の早乙女を怒らせるより、久保権左右衛門をキレさせてムードをぶち壊すのが手っ取り早い。

 だが、予想より根性があった。

 煩悩に忠実な量産型高校生はまだめげずサードインパクトを狙って再々接近。

 

 然り気無く、然り気無く、釣り竿のルアーを巻くように徐々に距離を縮める。


 計画通りとはいえ、蚊やハエ並にしぶといというか図太い奴だ。

 この盛りのついた猿が俺と同い年とは中々情けないものがある。

 奴なら取り敢えず手を握れば、主導権を手に入る若しくは握れると本気で思ってそうだ。

 そんな何でも上手く行くと信じている久保スキーに助言を与えよう。


 ことわざで『据え膳食わねば男の恥』と良く言うが、それは孔明の罠だ。

 その先に待っているのは人生の墓場か牢獄の中。

 本能に身を任せて判断を誤るなかれ。

 ちなみにエドウインとはそんな関係じゃなかった。

 友だ。

 生前の数少ない話し相手だっただけだ。

 あしからず。


 そうこう言っている間に、久保ビッチの魔手が数ミリまで迫る。


『早乙女さん……』

『何?』


 ムード抜群の絶好のシチュエーション。

 奴の顔を拭いている早乙女と目が合う。


 だが、


『うわああぁ!』

『きゃああああ!』


 人の波が二人を分かつ。

 まるでモーゼの十戒のように離ればなれになった。

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