帰還
「桂ちゃん、結局エドウインさんの一人勝ちだったのだ」
「いや、一概にもそうじゃないだろ。向こうは勝利の着点は俺達と異なる。むしろ少ない情報で未来を知る相手にここまで対等に渡りあったんだ、それだけで御の字じゃないか」
今までいたエドウインさんの残像に目を向けながら、「またな勇者」桂ちゃんはそれだけ言うと静かにビンに入った液体を流した。
『あああ勿体無い! 何するんや、バカちんが! このエリクシール一本あれば国が興せるんやで!』
「エリクシール? もしかしてエリクサーと並ぶロープレ最大回復アイテムの事?」
実際、ボスとか強敵が所持していたり、最上級難易度のイベントをこなしたり、ラストダンジョンの宝箱とかにしか置いていない超希少アイテムだ。
ゲームによっては、1個売ったらラスボス前の街でも余裕で最新装備をパーティー分買い揃えられる程の値が付く。
「ああ、もし予言者の正体がエドウインだったら必要になると思って黒龍帝に頼んでおいたんだ」
『バトルならんかったやから無駄になったやな。自分、過剰に警戒し過ぎるんやないか?』
「ちげーわ。そんなんじゃない」
そう、おざなりに答えるとそっぽを向く。
そうか、桂ちゃんは何となくエドウインさんの状態を察知していて、出来ることなら助けたかったんだね。
「それから一条」
「何? 桂ちゃん」
「付き合ってもらってありがとうな」
「なんのなんの」
「まじで助かったわ」
桂ちゃんは僕の頭を無造作に掴むと、「にょわ!」グリグリと撫でくり回す。
乱雑だが心が籠っていて意外と嫌ではなかった。
堪能した僕は暫し放心状態。
夢心地といった処だ。
その時、僕と桂ちゃんの体にも異変が生じた。
「どうやら夢の時間が終わりのようだな」
「起きたら蝶蝶になっていたってオチはないよね……」
リアル胡蝶の夢は嫌すぎる。
「そんな分けないさ」
「そうだよね」
「お前はその前の段階だろうよ」
「僕は芋虫かぁ!?」
「ははははっ!」
「むう!」
辛うじて物理干渉出来るので蹴る。
でも、僕は思念体なので、今の桂ちゃんに攻撃してもダメージが無いのは面白くない。
『トーシローの夫婦漫才おもろうないで』
「黒龍帝も達者でな」
『わてもおっ死んじまったらそっちに行くで』
「おいおい、後何万年先の話だ、それ? それに何になるんだ? 俺の世界にドラゴンは架空の存在だぞ」
『がははははっ! 外見はドラゴンでも心は虎や。生まれ変わったら猛虎にやるんやで』
「はっ、じゃ動物園の檻越しの再会だな」
『サーカスや。ピエロやったるで』
人外どもは笑いあった。
虎ねぇ……案外ネコになっているかも……。
――――そして、世界が白一色になった……………………。




