夕焼けのひとコマ
数日後の公園。
のどかな運動公園。
夕方の広場で政治家が講演。
俺は観衆に混じり呆然と突っ立っている。
あたかも自然と一体化してステルスをマスターした気分だ。
その正面を向けている先には、
「お姉ちゃんありがとう!」
「どういたしまして」
紅葉ヶ丘学園女子生徒が犬を女の子に渡している。
逃げた愛犬は飼い主の少女と再会。
通過儀礼として舐め回されているのは説明するまでもない。
実に素晴らしい光景だが、プロデューサーまたは仕掛人としては複雑な気分だ。
メガネを掛けた女学生は頬笑む。
何を思ってから理解できないが、恐らくミッションをやり遂げた達成感に包まれているのだろう。
それがボランティア唯一の成功報酬だからだ。
また失敗。
当初の予定では迷子の犬を対象に探させて、飼い主へ渡す前に替え玉とすり替える手筈になっていた。
睡眠時間削って入念に準備した計画が、ちょっとしたミスで覆水盆に返らず。
久保田以降、俺の作戦が上手く行かなかった。
おかしい。
作戦は完璧だった。
何がいけない?
予言者の読みは外れていなかった。
やはり同年代を嵌めるのに良心が痛むのか?
いや、仕事と割り切っている以上、それは無いと断言したい。
転生前から戦略が苦手なのは認める。
力がなまじあったから、匹夫の勇になりがちだった。
だが、こんな悪ふざけ如きを果たせないままとは、益々自信を無くす。
『彼女に頼めば良いじゃないか?』
不意に予言者のセリフが脳内を過った。
全くもっていちいち癇に障る所を突く輩だ。
確かに俺はこの流れを一変させる駒を持ち合わしている。
勇者王エドウインがいつ復活するか分からない状況下、時間が限られているんだ。
手段を選んでいる場合じゃない。
でも、これを読む度に心がざわつく。
手に持っていた封を切った便箋。
悪魔と契約書を交わしたのにも似た後悔があった。
茜色の空に悔しさ噛み締めて再戦を誓う。
作戦用に用意した偽物の犬に尻を噛られながら。
――ん? まただ、何かの視線を感じた。
スナイパーか、パラッチか、それとも何処かにいる筈の恥ずかしがりやな隠れ勘太郎ファンか。
咄嗟に周辺を見渡すが、視界に入るのは近隣住民達が不憫そうに後退りする姿だけであった。