救世主は語る
鏡みたいな床に映し出された数え切れないぐらい無数の点が集合した星の大海。
LEDでは表現不可能な天然のイルミネーションは、その中心に佇む少女を静かに讃える。
勇者というよりは聖女が相応しい舞台上のヒロインは、星座から抜け落ちたオリンポスの神々の如く、清々しさと神々しさが折り合わさっていた。
それにしても勇者に魔王。
極めつけブラックドラゴン。
ファンタジー界のメインキャスト。
なんてそうそうたるメンバーなのだろうか。
それに比べたら僕なんてただの人間。
これにお姫様とスライムがいれば、僕はレギュラー処かベンチにも入れず観客席でアイスキャンディを無言で頬張っていたであろう。
いいんだいいんだ。
あの清楚で純真な美貌を兼ね備えている勇者王に比べたら一条 サラサなんてステーキに添えてあるブロッコリー程度だ。
あははは…………。
「一条君、君が思っている推理通りだ。勇者王は世界で唯一の時を操る存在。私が使用した時点で正体ばらしたようなもの」
「あはは、今さら慰めてもらっても……」
むくれている僕を気遣ってケアをしてくれるとは、勇者王の名は伊達じゃない。
桂ちゃんが言うには、エドウインさんは思考が読めるらしい。
今もそう。
だから色々と裏をかく事ができた。
「それでエドウインさん、何であんな事をしたの? 勇者王が貴女である以上、僕らの世界で勇者王を探すのは矛盾しているのだ」
「…………タイムパラドックス。それが私の答えだ」
タイムパラドックス?
想定していなかった意外な回答に戸惑う僕。
親殺しのパラドックスの理論は有名だから分かる。
子供が過去に戻って親を殺したらその子供は生まれて来ないという奴だ。
でも、それとエドウインさんが異世界の未来に干渉していたのと何の関係があるのたろうか?
タイムパラドックスとは過去を改変する事で起こる事象だ。
未来を弄った処で意味はない筈だ。
まぁ、時間軸は違うがエドウインさんに干渉している自体タイムパラドックスと言えなくもないが、混乱するので敢えて触れないでおこう。
「私は時魔法で時間を自由にする事が出来る。勿論過去の改変も可能なのは知っているだろう? だから君の世界とローグエンドバーグは元々は同じ時間系列で繋がっていたのも知っている」
「本当だったら僕らの世界にもドラゴンとか飛んでいたのかな」
でも、桂ちゃんの能力があるからファンタジー系はおまじない程度にしかほとんど効果発揮しないのだけれど。
「そうだろうな。だが、何者かの手によって分断される。それによりローグエンドバーグは君の世界へとは繋がらず滅びの道へと進む」
「過去の改変?」
「そう。そんな事が可能なのは勇者王だけだ。だが、私にそんな心当たりは無いし、時の神クロノスも歴代継承者の介入を否定した。残る可能性は一つだけ……」
もしかして未来の勇者王の仕業?
「私の目的はこれから生まれてくるであろう新たなる勇者王誕生の阻止だ」
勇者王エドウインの私利私欲のない真っ直ぐな瞳が、嘘偽りのない真実を語っている事が理解できた。
今日は更新一回で勘弁してください。




