一条 サラサは何でも知っている
一時の静寂後、途端に鳴り響く拍手。
それは今対峙しているフードの人物より贈られた。
「一条 サラサ君お見事だ。マニュアルを製作して練りに練った計画をことごとく潰すとは、もう感嘆の言葉しか思い浮かばない」
「それで予言者、これからどうする? 言っておくが一条とは精神をリンクしていたから俺にも筒抜けだ。今更言い訳しても遅いとだけ言っておこう」
「それはご親切にどうも。しかしながら心配には及ばない。一条君が対話のテーブルに着いている時点でそちらに軍配が挙がっている」
予言者さんの声が平静を取り戻したから、また出方を窺う手段を失った。
全てを包み込んでユラユラ揺らめいているローブが疎ましくも感じる。
「予言者さんもうやめない? こんな無駄なこと。詰んでいるのに足掻いても結果は見えているよ」
「そうかもしれない。だが見くびるなかれ。私の千分の一程度しかない経験と実力で何が出来る?」
「僕は知っているよ。未だにルーンの言霊でこの空間を支配しているのを」
勿論はったり。
それは予想に過ぎない。
でも予言者さんのこれまでのやってきた事を照らし合わせると十分確信はある。
「何の事かな」
「言葉で編み込まれた見えない魔法陣か。凄いのね」
「…………………………」
まるで裸の王様へ見えない衣装を手渡している商人みたく、文字を触れているように虚空をなぞる。
「ルーンの縛りがある。僕も魔術の勉強していて大体の仕組みは理解しているつもりだよ」
『嬢ちゃん人間の癖に凄いやんか』
かの著名なブラックドラゴンから直々にお褒めに預かり恐悦至極だが、これもフェイクだったりする。
一応知識はあった。
と言っても一時期ウイッチクラフトに嵌まっていた程度だけど。
オイルとキャンドルの使いすぎでボヤになった事はここだけの秘密。
それはそうとよく思うのだが、会話とは言の葉にのせて怒り悲しみ喜び楽しみをまるで魔法のように運んでくる。
なら言葉で商売しているお笑い芸人はみんな魔術師とも言えなくはないがどうだろう?
「ふふっ、君には本当敵わない。これではどちらが予言者か分からないな」
そう笑いながら言葉を洩らすと指を弾く。
その瞬間、僕達がいる空間にまるでセンベイに亀裂が入ったような音が聴こえた。
友情に亀裂が入った時もこんなエフェクト効果なんだろうか?
桂ちゃんの件はこんな姑息な手を使わずに、親友と正々堂々と戦いたいものだ。
「もう、本当にネタ切れだ。そちらの黒龍帝に調べてもらっても構わない」
「いや、その必要はないよ。交渉術において、話し合いはまず相手を信じる事から始めるのがセオリーなのだ」
気分はネゴシエーター。
ならば前漢の酈食其の如く余計な横槍を入れられて釜茹にならない為にも、韓信もとい元魔王の介入がないように祈るのみ。




