攻防
「素直に認めろよ。勇者王が目覚める条件ではないと。大体、エドウインが見つかったらお前にどんな影響があるんだ? 何のメリットもないと思うのだが? 魔族に善意があるとも思えない。それよりもお前は過去の存在。放置しても何の支障無い筈だ」
「それも言った筈だ。勇者王は過去にも干渉出来る。私みたく予言ではなく直接だ。魔族にとって驚異でしかない」
嘘は無い様だ。
俺の記憶には欠損があるから良く思い出せないが、確かに驚異的な特殊能力を持っていた。
「魔王よ。そんな事よりこれからの事を話そうではないか」
「これからの事ねぇ。でも、幾ら度量があると言っても男か女処か、ましてや人間か化け物さえも確認不可能なUMAとは結婚はできないぞ」
ツチノコだったら金持ちになれそうだが。
「茶化すな。次回から交信は難しいと伝えたが、従来通り予言出来るようにした。大掛かりな魔法陣をチューナーとしたから随分クリアに仕上がっていると思う」
「これも時の流れが変わったからか?」
「そうだな。だが、私の努力の賜物と賛辞してくれてもいいのだよ。……と、冗談はともかく、君の力が必要だ。どうか全魔族の為に今一度一肌脱いでくれ」
これも一条の予測通り。
奴の言葉に違和感はない。
無さすぎる位だ。
確かに俺は同胞の為になら幾らでも脱ぐ。
ブリーフをキャストオフして自慢の桃尻を晒すのも辞さないさ。
だが、詐欺師とか営業マンというのは初歩の手口として情に訴える。
友でもないのに家族のように接して、心に侵食して金を貪るクズだ。
なら俺の取る行動は――
「お断りだ」
「何故だ。我ら兄弟達を見捨てるのか? 魔族は今でもお前を慕っているのだぞ」
「魔族なんて冒険者にとってはただの経験値。そんな神の戯れで創造された生命体、存在自体が世界にとっていらないとは思わないか?」
「魔王がそんな事を言うとは嘆かわしい。人間界に永くいて故郷への愛が薄れたか?」
俺は感情的になると思ったが、意外にも冷静沈着だった。
所詮は過去の出来事。
何があっても俺には干渉出来ないからだ。
そんな事より、何故予言者は掌をひっくり返した?
俺から離れられなくなった?
では、その理由はどうしてなんだろう。
勇者王の始末に失敗したからか?
それともあるものが消えなかったからか?
それとも俺達が見落としている何かがあるのだろうか?
そう仮定すると全ての辻褄がパズルの様に合致する。
ならば相棒から託された大学ノート第2巻 一条 サラサ著『ねくろみこん』対予言者一条マニュアルACT IIに移行だ。




