最後の光
「……………………」
「……………………」
「凛子、まだ言うべき事があるのではないのか?」
会話が止まったので、一条は我が竹馬の友に問い掛ける。
その表情は慈愛の聖母マリア像の様に優しくもあり厳しくもあった。
「言わないと僕が代わりに言っちゃうぞ」
「だめ、それは駄目」
「凛子さん頑張って」
「凛子、あーしが付いているよ!」
「私は私は……」
この居た堪れない雰囲気は何なんだろうか。
空気が鉛の如く重い。
まるで告白の為にラブレターを貰って校舎裏に来た様なシチュエーション。
ならば後々のギャルゲー展開に備えて受け身主人公に徹底するのもやぶさかではない。
こほん、戯れ言はさておき、本当に様子がおかしい。
円谷の手には俺にそっくりなマスコットを握っていた。
心配になって病院に行くかと? 言い掛けた時、
「私は勘太郎が好き! 昔から大好きでした!」
「……!」
マジか?
冗談だったのだが……。
この木の下で告白すると幸せになるとか、そんなどっかの伝説みたいな効果があるとか聞いた事もない。
だが、この時、この瞬間、一条が提示した助言の意味を漸く理解した。
円谷 凛子の心の折り方。
一条の言う通り確かにそれは簡単で明朗会計だった。
まさか、ここまでの御膳立てを全て一条が仕組んだことなのか?
じゃないとこの意地っ張りが勇気をフルに振り絞って、俺にこんな恥ずかしい事言う筈がない。
ならこんな屈辱な事早めに終わらせる為に、一条の作戦に乗って心を鬼にするしかないじゃないか。
「すまん。俺はお前を女とは見れない。大親友とか男兄弟と思って育ってきたのに認識を変える事ができない」
「え……」
世の中は残酷だ。
幾ら心を折る為とはいえ、掛け替えのない奴に思ってもいない事を告げなければならない。
「私はずっと一緒にいたい。ねえ、付き合ってよ?」
「すまん。お前にはもっと相応しい奴がいる筈だ。それに凛子の想いは重すぎる。俺には支えて行けそうにない、諦めてくれ」
「そう……」
凛子は泣いていた。
「……」
「……」
「……」
残り三人は何物言わず、成り行きを見届けた。
当然だが、ビー玉が透明なった。
しかしながら、どうして俺が光属性の要になっているんだ?
まるで俺に惚れる事自体、ボランティアなんてオチはないだろうな?
疑問が募るばかりだ。
「凛子、確認がある」
「何よ、ぐす。こんな重い女に今更何の用があるの?」
うう、自分で言っておきながら、罪悪感が半端ねえなぁ。
「エドウインって聞いたことないか?」
「ぐす……、知らないわよ。あんた、もしかして男が好きなんじゃ」
「断じて違う」
「俺が好きなのは一条だ」
「え!」
驚く一条。
ちなみに弟はこのカテゴリーに入らない。
どういう事だ? 予言者が話していた内容と違う。
あいつは確かに三人の中に勇者王エドウインがいると断言した。
だが、それは見る影もない。
転生しても魔王の資質なのか、勇者王かそうでないかは、ある程度探れば俺でも見分けがついた。
「桂ちゃん、いきなりカミングアウトは卑怯なりよ」
「何故赤くなる? お前は弟のカテゴリーに入るから当然だ」
「…………ひく!」
どういうわけか、一条が泣いた。
大粒の涙がポロポロ落ちる。
そうか嬉し泣きか。
弟と同等の扱いだからな。
うんうん。
「くたばればかつら」
「二人を泣かした罪は重い。この腐れ外道」
香月&小泉の連携バッチリの辛辣な御言葉を拝聴しながら、自らの鈍感さに気付かず、属性を表す玉が黒く濁させてしまった愚行を後になって反省するのだった。
元の無色に戻すのに相当な出費が重なったのは言うまでもない……。
スイーツ食べ放題の刑。
財布に痛恨の一撃。
勘太郎は三万円のダメージを受けた。
おお、勘太郎、死んでしまうとは情けない。




