決着
「そうだな、周りの努力を無駄にしたくないだけなんだろ? 小泉を助けた時だって親友を助けるのは建前で、本音は仲間の努力を無駄にしたくはなかった。でも、結果的に失敗して後悔しているというところか?」
もしかしたら、それが原因で折れた属性が再発生したのかもな。
この前は小泉をなだめていたが、内に秘めたトラウマが邪魔して自分自身が諦められなかったって処か。
「そうだよ。あんな思いをするのは、あーしだけで十分」
「いや、お前はもっと力を抜けって、お姉さんもそんなの望んでいない筈だぞ」
「何であんたにそんな事が分かる?」
訝しげに俺を見上げる。
「俺がお兄ちゃんだからだ。だから、姉の気持ちも良く分かる。お前はやりたいことを大好きな事をやるべきだ。姉の事を考えるなんてナンセンス」
「そんな事は……」
「本当は日本舞踊大好きなんだろ? たまに踊っている所を見かける」
ハッタリだが確証があった。
「見られていたのか。そうだな、うん、大好きさ」
「姉さんに打ち明けてみれ。それで解決する」
「でも」
「妹を嫌いな姉ちゃんなんて何処にもいない。おもいっきり甘えてこい!」
「分かった、やってみる」
何かに吹っ切れたように、香月は再び立ち上がった。
再びビー玉は無色透明。
こうして一人目の勇者討伐に成功する。
「香月」
「何さ?」
「唐突だが、エドウインって知っているか?」
「何それ? ブランド?」
「そうか、分からないのであればそれでいい」
「ん?」
嘘を言っている様子もない。
どうやら白決定だ。勇者王はこいつじゃない。
「それより、あんたどぶ臭いよ」
「お前に言われたくない」
「はははっ、そりゃそうだ」
彼女の中にある歪んだ正義感が薄れる。背負っているものが軽くなったんだと信じたい。
何故なら負けた筈の顔は晴れやかだったからだ。
俺は一条と合流すべく、一路図書館へと歩を進める事にした。
しかしながら俺達の戦いはこれからだとかっこ良く纏めようとした矢先、スマホからメール音が鳴る。
メールが来た。
一条からだ。
自信をもって断言する。
何故ならあいつしか知らないからだ。
ぼっち無双は伊達じゃない。
『終わったか?』
「ああ、計画が多少ずれが生じたが問題なく解決した」
『そうか』
「そっちはどうだ。順調に進んでいるか?」
『その事で連絡した。済まないが予想外の事が起きたのだ。悪いがこちらの支援に回ってはくれまいだろうか?』
小泉に何かあったのか。
幸い皆力が抜けて倒れているから、陰キャラの俺が抜けても誰も気づかないだろう。
「今から向かう」
『うむ、ありがたい、了解だ』
俺は休む間もなく、手を振る香月に別れを告げると、一路、一条達が待つ市立図書館へと足を向けた。
去り際、香月の俺へ向ける眼差しが仲間になりたそうな気がしたのは、自意識過剰だろうか?




