夢の中の来訪者
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俺の夜は寝るのが早い。
青春を謳歌する若者なら一週間寝なくても平気と豪語する猛者もいるが、弟を寝かしたらとっととベットで横になる。
朝食はお袋が作っておいてくれるが、掃除とかは俺が担当だからだ。
布団は日中干しておいたので、お日様の匂いが眠りを促進。
所詮、消臭剤は邪道だ。
ダニ共よ自然の力を思いしれ。
薄いカーテンしかないので、全ての照明を消すと、お隣さんの部屋の明かりが差してきた。
ボブカットのシルエットが勉強中なのを伺わせる。
だが、それも束の間、隣も光を落とし代わりに電気スタンドが灯った。
世の中はこんな善意で溢れている。
静かに微睡みから深く堕ちると、「――やぁ、魔王。こんばんはで合っているかな?」俺を再び修羅場へと誘った張本人が迎えてくれた。
草色のローブを纏った如何にも胡散臭い占い師の容貌がある謎の人物。
いや、本当はドラゴンとかの人外なのかもしれないが、今のところ確かめる手段がないから人物と仮定する。
そう、フードを深く被っているので、子供なのか老人なのか、男なのか女なのか、暗い深淵が邪魔して容姿だけでは全く特定が難しいのだ。
「お前か、予言者」
『予言者』とは何ともナンセンスな呼称だが、初見で名乗って以来、彼もしくは彼女は一貫してその名を貫いている。
何でも言霊が関係していて、姓名を明かすことがタブーになっているからだそうだ。
「何かな、その嫌そうな顔は?」
「気にしないでくれ。たまには可愛い女の子とデートしている夢でも見たいという少年の極当たり前の衝動だ」
「それはそれは悪いことをした。現実が乾いているから、夢がラストフロンティアだったのだな」
「放って置いてくれ」
一見、紳士な口調だが、歯に衣着せない奴だ。
お陰で夢に逃避行する現実が疲れたサラリーマンを連想。
ゲンナリするしかない。
「さて、本来ならば茶でも出したいところなのだが、ご覧の通り現在お主が写し出されている世界はただの映像だ」
「それは言わなくてもわかる。懐かしき故郷だからな」
予言者の居場所。
天井、壁が何もないオープンビュー。
空にはドラゴンと飛空艇師団がドンパチをやっている。
遠くには特大サイズの木が全てを傍観しているかの様にそびえ立っていた。
そう、恐らくここは我が居城にして魔族の象徴、魔王城リオパレス最上階、魔王の間兼儀式の間だ。
その証拠に中央には贅を尽くした装飾を施した玉座。
主無き王者の椅子が兵どもの夢の跡を象徴している。
でも、祭りの後みたく汚れてはいない。
気分だ気分。
この現実離れした懐かしきローグエンドバーグの世界。
精巧なVRでも中々お目にかかれない光景だ。
俺に魔王の記憶がなければ、到底受け入れなかったろう。