真剣勝負
「――何やってるんよカエデ!」
「まどかさん?」
突然の来訪者、香月 まどか。
円谷達の親友。
人間国宝を祖母に持つ日本舞踊家元の跡取り娘だが、厳格な親に反発。
ギャルになって後継を放棄した経緯を持つ。
舞踊をやっていただけあってスタイルが抜群だ。
未だに鍛練を続けているのか、ヘソ周りが引き締まって割れている。
考えることが二の次なアグレッシブギャルは急な土手を滑るように下ってくる。
運動神経が良いので移動速度は速い。
染めてる金髪とネックレスが反射で光を放ちながら宙を踊った。
イレギュラーだ。
何であいつがここにいるんだ。
だが、俺は心底この偶然に感謝した。
奴は靴のまま後先考えずに飛び込む。
「あんたは泳げないのに無茶するなし!」
「でも猫が――」
小泉は香月にこれまでの経緯を説明する。
「私は助けたい」
「こっから先は合流して川幅が広くなるよ。もう諦めろし!」
「でも助けるのが私の使命」
小泉は制止を振り切ってなおも先へと進もうとする。
「駄目だ!」
「離して!」
香月は背後から羽交い締めにした。
「あんたが何で困っている人達を見過ごせないのは知っている。でも、それでもあーしは親友だからあんたを止めるよ」
「まどかさん……」
「あーし達に後出来るのはSMSで拡散させる事だけだ」
「うん」
小泉はやっと諦めがついたのか、項垂れて表情に影を落とす。
何も出来ない香月達は、せめての罪滅ぼしなのか、視界から消えるまでダンボールを見送った。
小泉は何であんなに色んな事に首を突っ込む?
こちらから仕掛けておいて何だが異常だ。
まるでやっている事が正義の味方。
いや、そんな事よりにゃん太郎が心配だ。
一条は安全を保証してくれたが、それでも俺は二人にばれない様に心配になって箱を追う。
不在の一条、妙な動きをするダンボール。
これはもう嫌な予感しかしない。
一キロ先、河原に少女が流れ着いていた。
この景色とスクミズに違和感があるがそれは後回し。
銀髪の幼子は息が絶え絶え、呼吸が荒い。
泥と砂まみれで砂利に横たわっている。
「一条!?」
「はぁはぁ、どうだった?」
「何やっているんだ!?」
「僕が箱を操っていたんだよ」
一条は手に握っているある物を俺に見せる。
それはシュノーゲル。
ダンボール号の側にシュノーゲルで潜水していたということか。
「はぁはぁ、で、どうだったの?」
「成功だよ。小泉と何故だか香月を押さえた」
こいつがダンボールを操って、小泉に捕まらないようにしていたんだ。
「よ、良かった」
「お前、無茶苦茶だ」
「このぐらいやらないと楓子の強運を突破なんて無理さ」
にゃん太郎は気遣って一条の頬を舐めた。
こいつなりの謝辞なんだろう。
 




