結成魔王同盟
相手は俺が何度も攻略を失敗して辛酸を舐めたフォーチュン小泉だ。
奴の剛運を前にしたら、どんな策略も無策と同義。
失敗すれば諦めもつくだろう。
それに俺も小泉には恨まれているから、出来るだけ接触は避けたいんだ。
「済まない」
「違う! ここは、『ふっ、風が哭いている……』か、『千年前から異界の黙示録で決まっていた事だ』が正しい」
「そ、そうなの?」
「ここ、最重要」
しかし、一条のコミュ力は利用次第で切り札になる。
それにこの女は一応中二病ということで名が通っている。
これなら万が一にイタズラがばれても、周囲を誤魔化す事が十分可能だ。
警告はした。
それでも俺に関わろうとするのなら、せいぜい利用させてもらおうか。
勿論、全責任は俺がとるがな。
魔王に精神を侵食されている感はある。だが振り払った。
「お? 凛子は頑張っているな」
「円谷?」
ふと、視線を下に向けると、グランドでは弱者の癖に気合いだけは入っている運動部の喧騒の中、ボランティア部が今度行われる伝統ある学校行事『学生ボランティア活動』の準備に追われていた。
円谷が先輩達の指示にしたがって駆け回っている。
ボランティア部、円谷凛子は一回も仕留めた事はないが対象外だった。
予言者曰く、奉仕部は善行で行っている訳でない。
あくまでも内申書目的。
これにどう光が宿るのだと。
改めて考えさせられる。
勇者とは何か?
光属性があればなんでも良いのか?
勇気があるならば、光属性がもうない一条でもある意味勇者だ。
「凛子とは幼馴染みだよね?」
「そうだな」
「仲良かったんだよね?」
「昔は男兄弟だと思っていたんだ――、って、何言わす」
「知っている。入浴中に無断で入ってきて、その挙げ句、真実知ってボコボコにされたんだしょう?」
「うう!」
だしょう?
円谷め、そんなにペラペラと個人情報を漏らすんじゃない。
全男子憧れのラッキースケベイベントの筈が、お陰様で裸体どころか、戦慄のナイトメアプリンセス爆誕の恐怖しか思い出さない。
良い子の皆、ブレンバスターは決してお風呂でやっちゃ駄目だぞ。
お兄さんとの約束だ。
これ以上は内容次第では黒歴史の封印解除して、おねしょ漏らして罪を俺に擦り付けられた想い出とかを最大音量で告白も辞さない。
応援団も勧誘に来る声量に高さだ。
ここからなら学園隅々まで声が響き渡るだろう。
「それから――」
「どうでも良いが、ここからのアングルだと、パンツ丸見えだぞ」
もう、臨界点突破間近。
情報漏洩は精神衛生上良くないので、禁断の回避策を実行に移す。
「はははっ、その手には乗らない。僕は陽光も計算に入れているのだ。ギリギリの見えそうで見えないを偶然ではなく故意にやって実力を見せつけてやっているのだよ」
「お前、やっぱり馬鹿だろ。風で雲が流れて太陽隠れているぞ」
「騙されないよ」
「アヒル先輩ちわっす」
「……なんだとうう!」
慌てて座り込む一条。
女の子の絶対防御体制だ。
こうして俺は、光は無いが一人の勇者を討伐した。
勿論フェイクだ。
あてずっぽうだがたまたま正解しただけだ。
ふっ、空しい勝利だぜ。
「くうう、ふかくぅう!」
ゆでダコ化している一条は、吹く風からマントで一生懸命スカートを隠しているがもう遅い。




