夕焼けの邂逅
放課後だ。
終礼と共に学業から漸く解放されて、クラスメイト達は四散。
部活動、勉学、帰宅、遊び、バイト、学生時代を彩る今だけの日常へと精を出す。
だが、残念ながら今日の俺はそのカテゴリーにどれも当て嵌まらない。
呼び出しに応じて校舎の一番高い場所へと足を運んだからだ。
校舎屋上――、またの名を最上階。
学園全体を見渡せる唯一無二の天上界だ。
だが、それだけではない。
屋上それは夢。
屋上それはターニングポイント。
屋上それは青春を凝縮した憧れのステージ。
ドラマ、マンガ、ゲームに必ずレギュラーで登場する学校エリア不動の人気スポット。
まさに聖地。
記念に写真撮れば、もれなく飛び降り自殺した地縛霊も憑いてくるであろう。
通だと昇降口にあるはしごを登って、学校のテッペンで寝そべる。
王者になった気分を味わえるのだろうが、怖くて誰もやらないのが現実だ。
されど、そこに仁王立ちする猛者が一人。
「ふははは、桂ちゃん、連戦連敗記録更新おめでとう」
「確か一条だったか?」
一条のレモンスカッシュを彷彿させる、甘酸っぱさとパンチのあるハスキーボイスに学園で隠れファンが多い。
この声で『兄たん』などと耳元で呟かれたら確実に悶絶死するだろう。
「そうだ。1は万物の始まり、1は唯一無二の存在、1は数字の出発点、それがこの世界で僕という個体を表す、な・ま・え」
などと、アニメの悪役ぽいオーバーアクションなポーズを決め、したり顔で俺の頭上に君臨する一条。
面倒そうな奴が現れた。
はっきり言葉にすると関わりになりたくない。
俺はわざと覚えていない振りをしていたが、どうやら彼女には通じないみたいだ。
銀糸の様に鈍く光るシルバーブロンド。
腰の辺りでまで来るほど長い。
同い歳に見えないほど幼い顔立ちだが、二重瞼と顔のバランスが整っている。
敢えて弱点を述べるのなら鼻ぺちゃまでいかなくても鼻が微妙に低めだが、そこが良いとコアなファン共は興奮ぎみに語る。
こうして改めて間近で観察すると一条のクオリティーの高さを再確認。
一瞬、ときめいた俺にロリコンの気があるのかと驚くも、弟に比べたらどっちが可愛いのか尋ねると満場一致で遙斗を挙手する。
なので俺はノーマルだと胸を張って誇れた。
役になりきっている一条は、夕暮れの陽光も相まって悪意ある魔王そのものに見えなくもない。
昔の聡明なお嬢様は何処にいってしまったのだ?
ちなみに力強い眼差しで挑戦的に俺を見下ろす一条のスカートの中は、逆光で残念ながら観察不可能だ。
ラッキースケベは1日にしてならず。
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