変わり果てた幼馴染み
どうすればいい?
早急に救急車を呼ばないと一条達がまずい。
だが、下手に円谷を刺激すれば犠牲者が増える。
弟を連れてこなかったのだけが幸いだ。
こんな時、魔王の体を手放した事に後悔。
こんなに円谷の事を追い詰めた責任は、この前の告白を拒絶した俺にあるんだ。
なら、命懸けでこの暴走した幼馴染みを止めるしかない。
「円谷――」
「な・ま・え」
「凛子、早乙女は関係ない。用があるのは俺だろ? 良い子だからその足をどけてこっちにこい」
「う~~ん、どうしようかなぁ。この女はかんたろうを誘惑した毒婦またはゴミだから、片付けるのはボランティア部の使命なんだよね」
円谷は早乙女の腹部をグリグリと攻め立てる。
そこには一切の手加減を感じない。
リミッターを解除した狂人が、俺にも見せたことがない邪悪で壊れた笑みを浮かべた。
「桂君、助けて!」
「黙れよ売女。私のかんたろうに気安く話し掛けんな」
俺のミスだ。
確かに勇者王誕生を阻止は完了。
しかし、それと引き換えに俺の大事な幼馴染みを無慈悲な殺人鬼へと変貌させてしまった。
何とか俺へ気が行っている間に、誰かに救援を頼みたい。
しかしながら生憎、通行人が完全に途絶えた。
何故か不気味なほど俺達以外周りには誰もいない。
例えるならば雷雨前の静けさだろうか。
これで第三者の介入は望み薄だ。
もう、俺が何とかしなければならなくなった。
でも、やれることは、「凛子、俺の話を聞いてくれ」熱くならないよう、冷静に凛子を口説くだけだ。
「駄目だよぉ。まだこいつを始末していない」
「いいから言うことを聞いてくれ」
「なら、逃げないように足折るから待って」
「いやあああああ!」
そんな早乙女は恐怖からか涙が流れている。
「やめろ」
「うっさい、私に命令するな!」
全く取り合ってくれない。
こんな時、どうすれば良いのか?
残念ながら力ずくで解決していた前世の記憶は当てにならなかった。
ラノベオンリーで推理小説を避けてきたツケがこんなところで回ってくるとは……。
漫画なら颯爽と正義の味方が登場するのだが、残念ながら勇者王誕生を阻止している自体、お約束展開とは程遠い所にいる気がする。
「さてと、こいつをどうやって始末しようかなぁ。アハハハハ。私のかんたろうに納得いく散り方をしてもらわないとねぇ」
凛子は笑顔から一変、早乙女を汚物でも見ているかのように苦虫を潰した表情をした。
これは非常にまずいな。
俺にはエドウインみたく時を戻す魔法は使えない。
魔王の魔力も向こうの世界にボディと共に置いてきた。
だから今は冷静さが必要不可欠。
だから、落ち着け、落ち着け。
俺は何にも考えずに直ぐに行動へ移りたい衝動を抑えて、自分自身に言い聞かせた。




