修羅場
「え? え?」
早乙女は何の前触れもないカミングアウトに驚きを隠せない。
それはそうだ。
人間、予測不可能な事態が起こるとパニックになりやすい。
睡眠時に突如揺すられて起床すると同等の現象は起きるが、多用していると多少の事では動じない遅刻常習犯が出来上がるから注意が必要。
分かっていても防げないものもあるのだ。
ならば早乙女にとって青天の霹靂なこの状況下では何の行動にも移れまいて。
何故なら、
1 久保田との手前、俺からの告白に喜ぶ事も出来ない。
2 振っても久保田が警戒するという疑心暗鬼に陥る。
3 気持ちを整理する時間がない。
4 大衆の面前で醜態または晒し者になる勇気がない。
5 もう無いかもしれないこのシチュエーションをもう少しだけ楽しみたい。
このように早乙女の脳内は様々な感情で葛藤している筈だからだ。
つまりだ、
『やべぇ、どうしよう勘太郎きゅんにコクられちゃったよん☆ でもでも、キープ君とはいえ久保田君の前でOKするなんて不可能。いやいや、勘太郎きゅんを振っても久保田君に警戒されたら、二兎追うものは一兎も得ず。これはまさにジレンマだぴょん♪』
今、早乙女の心情は百パーこんな感じだ。
俺もなんて罪深い奴なんだろうと常々思う。
「桂、おおお、お前何早乙女さんに告白しているんだよ!」
「久保田よ、動揺しているな」
「当たり前だ!」
「駄目なのか?」
「却下だ!」
「そんな法律はないぞ」
面識のない女相手に何茶番劇を演じているんだと俺自身に内心呆れているが、こうなった以上は青春と同じで引き返すことなど出来ない。
幸い花火の影響で人通りがまばらになってきた。
屋台の店主もいない。
これなら学園に噂が流出することは最悪免れそうだ。
「久保田よ、早乙女さんは俺と付き合うんだ。手を引け」
「桂、お前とは釣り合わない! 俺が相応しいんだ!」
「目を覚ませ。胡蝶にも満たない芋虫が人間の夢を見ているだけだ」
「うるさい!」
「早乙女さんはやらないぞ」
「桂黙れ! 早乙女さんは俺が最初に目をつけていたんだ!」
双方譲るつもりはない。
俺が本腰をいれて久保田に詰め寄ろうとすると、「桂ちゃん……逃げて」俺の浴衣の袖を誰かが引っ張る。
振り向くと血まみれになっている一条が横たわっていた。
そして……包丁を握りしめ、純白の浴衣が返り血で真っ赤に染まっている幼馴染みがそこにいた。
「……かんたろう、みっけ。フフフフ」




