快刀乱麻を断つ
「あのさ一条、円谷に頼んでみるというのはどうだろうか?」
「……え?」
予測していなかったのか、ぽつりと漏らした俺の言動に反応は疑問系。
バターたっぷりとつけてあるジャガバタを地面に落とす。
一条にも意見を聞こうとしたのだが、しかしながら言って後悔した。
落として涙目みなっている一条が怪訝そうに、「桂ちゃんって悪魔?」こう言われるからだ。
「魔族に言われたくないわ」
人間を止めた片割れにツッコミを入れてみる。
「振った相手を躊躇なく利用するなんて、この外道」
「自分でも思っているさ」
いつか仲直り出来たら穴埋めは絶対するよ。
だが、それを言葉に紡ぐのは場違いだから、一条の前で口に出すのは留め置いた。
「ふふん、冗談はさておいて、確かに凛子なら久保田君と同じ部活だから効果的かもしれない。デートを邪魔するのなら良い人材なのだ」
「そうだよな。ってか俺のおつむ程度ではこれが精一杯だ」
ニカッと歯を見せる一条に対して、俺は珍しく謙虚に返す。
それはそうだ。
振った相手に他人の恋路を邪魔しろなんて、傷口にチリペッパー塗り込むものだぞ。
仕方がないとはいえ気が引ける。
「でも、灯台もと暗しだよ。僕もこの案に同意する」
「問題はどうやって呼ぶかだ」
ワックスで固めてある自慢のオールバックに手を当てた。
「……いや、それは難しくないよ。もう現場にいるし、適当な話をでっち上げればいいだけさ」
「そんなもんでいいのか?」
「僕に任してくれるのなら、話を取り付けてあげる」
「承認する」
「おや、そんなにあっさり決断して良いのかな」
「危機なんだ。多少のリスクは背負う覚悟はあるさ」
怖いが洒落にならない事を一条がやる筈もない。
ここは信じて一任するしかないだろう。
「分かったのだ。ならば元魔王様のご期待に添えるように気張ってみますか」
「頼むよ」
一条はポシェットから趣味の悪いルーン文字デコレーション加工されたスマホを取り出し、「ふははははっ! 我が同胞、円谷凛子よ、時は来たのだ。今こそ――」だが、ふざけすぎたのかプツンと切られた。
「もしもし、もう! 何で切るのかな? そうそう」
『……………………………………』
円谷側の会話は残念ながら聞こえない。
人間とは不思議なものだ。
相手の話が聞けないと逆に不安になる。
どんなことを言っているのか気になってしょうがない。
「だがら大丈夫だって言っているんじゃん。うんうん」
『……………………………………』
「円谷が気になる……」
「やるんだったらナイフより出刃包丁の方が良いと思うよ」
『……………………………………』
「はは、本当に何の話をしているんのかなぁ」
チラッと一条が俺に視線を向けると、祭りの熱気で火照っていた体温が一気に引いた。




