お茶会
「このお紅茶とシフォンケーキが美味しいんですの。
お紅茶と言うだけで美味しいですわ。
お紅茶は良いですわよ
カップに伝わるこの優しい熱。温まりますわ。
お湯では味わえない風味。いいですわ。
ところで白湯とお湯は何が違うんですの?
あなた、ちょっと聞いてますの?」
お嬢はご機嫌である。
「あなた、お紅茶は勿論好きですよね?
え?コーヒーの方が好き?
まあなんてことなの!?コーヒー?事も有ろうにコーヒーがお好きですって?
黒い飲みのもじゃない。あなたは黒くなりたいの?
私はそうね、紅になりたいのでお紅茶を飲んでいますわ。」
「お嬢様?何を一人でぶつぶつとおっしゃっているのですか?」
「あら京花?あなたこそどうしてここに?まさかあなたは緑派という第三勢力かしら」
「緑?第三?お嬢様は何かの抗争についてお考えなのですか?」
「そうよ、そしてあなたは第三の緑、私は紅、そしてこいつは黒よ。」
「そうですか」
「ちょっと!何聞いておいてその薄い反応!あなた実は白でしょ?」
「さようですか?」
「白湯よ!」
「?ちょっとよく分かりませんがそれよりお嬢様、誠に申し訳ありませんが、
お紅茶が切れてしまいました」
「な・・・」
「お嬢様がお飲みになっているそちら、紅印の黄昏茶ですが、本日でおしまいです」
「それに伴い本日から代わりのものを用意しようと思うのですが・・・お嬢様?」
ティーカップを置きどこか視線が泳いでいるお嬢。
「お嬢様?お嬢様?新しいお茶を選んで貰おうと参ったのですが?」
目の据わったお嬢の瞳はギョッと京花の瞳を捉える。
「京花!私は紅印のお紅茶しか飲まないの!いいえ飲めないの!
たったいま私は紅勢力だと伝えたはずよ」
「お嬢様がこの紅茶が好きなことは存じておりますが、なんでも今の景気ではどうしても
紅茶ベンチャー紅印の黄昏茶はやっていけないと、お店自体が一新されたみたいなんです」
「どういうことよ?うちで沢山仕入れて毎日飲んでいるのよ?
それがどうしてやっていけないってなるのよ?」
どこか声が振るえているような、そんな気がしないでもないそんな声でお嬢は訴えた。
「いやなんでも経営者が「今の時代紅茶なんて誰も飲まねえ!現代的なやつだ!」
と自分は何時までも若いと信じて疑わない老いぼれの虚栄心が勘違いを起こしたようでして」
「・・・あなたずいぶん辛辣ね。もうちょっと遠慮を覚えなさい。
それにあの方はそんな老いぼれなんかじゃないわよ。」
「ああ、死にぞこない間違いでしたね」
「そういうことじゃないわよ!というかもっと酷くなっているじゃない!」
「お茶を濁すようで悪いのですが」
「あなたのことよ、にごりグリーン!」
「?」
京花のギャグは拾ってあげたのに自分のギャグは拾ってもらえないと不公平を感じたお嬢。
そんな焦燥をグッと抑え込み、紅茶を求め話を進める。
「まあいいわ、それで?
新しいお茶って?言っとくけど私はお紅茶派だからね、それだけは忘れないで」
「ではひとつめ、冷たい緑茶でございます。」
「・・・それってあなたの」
すっと緑茶をフィールドの脇に追いやる京花。
手早いが優しい手つきに思えた。
「ふたつめ、コーヒーでございます」
「は?」
ちっちゃな缶が置かれた。
その見た目の安っぽさと、もはやお茶ですらない事に苛立ちを覚えた様子のお嬢。
「お嬢様少々お口が悪いですよ」
「死にぞこないとか言うあんたに言われたくないわよ!」
「お嬢様、コーヒーはお気に召しませんでしたか?」
「黒は私の敵よ」
「敵ですか・・・苦いですからね、お嬢様の舌には合わないと思っておりました」
「じゃあなんでここに持ってきたのよ!?」
「私も飲めないのですが、無料で配っていたのでついつい貰ってしまいまして、
タダほど高い話は無いと言いますし、
タダで配っていたので相当美味しいコーヒーだと思いまして、これならお嬢様にも
気に入って頂けるかと思いまして」
「あなたって相当おバカよね。あと日本語がデンジャラスだわ」
「お嬢様、日本語が危険でしたら私もお嬢様もとうに絶命しているかと」
「ああそうね、そうよ、少なくともあなたは日本語使わないがいいかもしれないわ」
それよりも本当にお紅茶はないの!?私、生きていけないわ・・・ん?
京花!これ紅印って書いてあるけどもしかして紅印の黄昏茶の新作なんじゃないの!?」
紅茶を求めているのに紅茶が現れないショックがお嬢を急かしている。
「This is new しょ、しょ... Item」
「・・・ゲームで知っている単語ねItemって。でこれは何々?紅の青空?
これが紅印の新商品なの?って冷た!
あなた・・・さっきから、思っていたけど全部冷たいじゃない!お茶は温かいものよ!
あなたどういう事?」
「New Age」
必死にお嬢の期待に応えようと日本語を殺した京花を英語は支えてくれない。
「さっきから何言ってんのよ・・・
でも気になるわ。私の好きな紅印ですもの。ちょっと飲んでみようかしら」
お嬢が手にしているのはコーヒーに続き、またしても缶。
つまりこれは。
「Red Blue Sky ・・・ Yeah」
「!!?何これ辛い甘い苦い、薬!?」
嵐は突然やってきた。奇妙な音はしていたのだ。
紅茶が注がれる時は特に音もなく、
静寂とティーカップに注がれる紅茶は優雅ささえも感じさせてくれた。
しかしこいつは何だ?シュワシュワ?プロタブを弾いてから聞こえた音は
まるで入浴剤をお風呂に投入した時のような、もはや
お嬢にとってこの音は飲み物が発する音ではなかった。
だがお嬢はこの状況下で彼女はそんな奇妙な音を危険と判断できず、
普段は感じているであろう紅茶の香りさえも気にしていなかったのだ。
まさしく今の彼女は中毒者であり狂信者そのものと言えたであろう。
「お嬢様炭酸飲んだことが無いんですか?」
「炭酸?電池なのこれ?」
「何言ってんですか?」
「それはこっちのセリフよ!!というか本当に何よこれ!?」
「エナジードリンクです
あのハゲが言うには最近の若者は夜に活動的であり、エナジーとか覚醒を求めているみたいで、
何でも飲む化物?よく分かりませんが、化物キめたがっているとかなんとか。
とりあえず貰っておきました。タダでくれたので。
あれお嬢様?顔が青いですよ。なんかモンスターみたいですね、この紅の青空って
やっぱり薬かなんかなんですかね?」
初めての炭酸飲料とエナジードリンクは刺激が強すぎたようで、
お嬢は過剰反応により気分が悪くなっているようだ。
「京花・・・お紅茶・・・」
「お嬢様・・・お紅茶はもうないのです」
「京花・・・」
「お嬢様この中で一番紅茶に近いものはどれですか?」
「緑茶・・・」
「そうですよね、お茶ですもの。
さあお嬢様どうぞ。冷たいのですが、これは私の好きなお茶なんですよ。
これだけタダじゃありませんし」
「京花・・・美味しいわなんでこんなにお茶が美味しいのかしら」
「緑茶はいいものですよね。お嬢様」
「ええ、そうね・・・たまには冷たい緑茶もいいかもね」
「いいえお嬢様。お嬢様は今どうして緑茶を飲んでいるか覚えていますか?」
「京花・・・何を言っているの?でもそうね・・・何で私緑茶を飲んでいるのかしら」
「お嬢様、私たちは元々緑勢力でした」
「まだその話をするのもういいわよ私は紅派だって言ったでしょ?」
「お嬢様が、紅印とかいうあのクソベンチャーに洗脳されてからどれだけの時が経ったでしょう」
「京花・・・クソにベンチャーってもうお終いだと思うわ」
「お嬢様!思い出してください。
お嬢様はあの紅印の社長である紅に騙されているのです。
我々は緑茶で築きあげた財団です。
それをあの紅が同じ茶だからなんだからと手を取り合おうとかぬかし、
お嬢様はいつの間にか緑茶ではなく紅茶狂になってしまわれた」
「そんなの嘘よ。京花...何だか本当に具合が悪いから少し休むわ。
京花、今度一緒に紅様のところに行ってまたお紅茶を貰えないか頼んでみましょう?」
「お嬢様・・・」
3話で終わっちゃいます。しくしく。