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『肉食』 についての捜査メモ 6


「これは、なんだ……!」


 繁華街にあるクラブが臭いという通報を受けた巡査が発見したそうだが、署への報告を終えたと同時に道端に倒れた理由が分かった。

 クラブ特有のレーザー光線のような証明に照らされた壁一面に元々の青色を塗りつぶすように、赤黒い染みをべったりと塗りつけていた。そして、足元には大量の血溜まりと二十人以上の骸が放り出されたおもちゃかのように室内に転がっていた。

 これまで普通の人間が一生の内で見る死体の数を優に超えた程に見てきたが、ここまでいっぺんにとなると……流石に精神的に来るモノがあると感じる。


「ウッ……」


 これまで十年近く一緒にやってきたが、それでもこんな風景を見たことはない彼には辛いのかもしれない。


「……大丈夫か?」


 彼は口元を押さえながらも「大丈夫です」 と、つぶやいた。


「そうか……あまり無理はするなよ」


 彼は無駄に気負い過ぎるきらいがあるから、こうでも言わないと本心を隠したまま続けてしまうだろう。


「鑑識は?」


「もうすぐ着くそうです……あ、来たみたいです」


 外と繋がる扉を開けて、地下にあるここへ小走りで迫って来る複数の足音が聞こえた。


「どうだ? あ……待て、お前らは外に出てろ」


 先頭を進んできていた鑑識課長が後ろにいる何名かにそう命令した。


「なんでですか、課長?」


「この現場は相当凄惨な現場だからな。色々な経験をして欲しいとは思うが、お前達にはまだ早い。だから、課長命令だ」


 そう言って課長と数名が現場に足を踏み入れる、それと共に階段を昇っていく足音も聞こえた。


「部下に甘すぎるのではないですか? 鑑識課長」


 彼は肩にかけていたクーラーボックスのような物の中を漁りながら、


「オレの甘いのは昔からだよ。けど、君はだいぶ丸くなったね。やっぱり彼と、いい仲だからなのか?」


 カッと顔が熱くなるのが分かった。


「や、止めてください」


「ハハッ、クイーンオブフローズンと言われた君がこんな風になるとはね」


「え? 先輩ってそんな風に呼ばれたいたんですか?」


 私は部下である彼を睨みつけた、彼はウッと短く言葉を漏らす。


「……さて、冗談はここまでにしようか」


 彼の目つきが鋭さを増した。


「コイツとの付き合いも長くなったもんだな、お互いに」


「……ええ」


 私が『肉食』 と会ったのは同課の先輩から後継者に選ばれたからであって『肉食』 自身を殺したいとまで思った事はない、ただ彼は違うと思う。

 彼の父親である元千葉県警鑑識課長は、家に押し入ってきた『肉食』 に殺された。父に憧れていた彼は、鑑識官になっていた彼はその現場の鑑識を歯を食いしばりながら行ったのだと、彼が話してくれた。


「まあいい、仕事だ」


 現場の様子を見るにいつものよう……いや、違う。


「内蔵をなくした死体だけじゃない……頭をかち割られている死体もある!」


 それにすぐ反応したのは、鑑識課長だった。


「どれだ?」


 私が指で示すと、彼はその断面をじっくりと観察していた。


「これは……素手じゃないな。ハンマーかなにかの鈍器で何度も繰り返し殴られて、中身を取り出された感じだな。いつものヤツにしてはえらく乱暴な方法だな」


 それだけじゃない、頭を割られた死体は腹部を裂かれた跡がないのだ。


「志向でも変わったのか?」


「……どうでしょうか?」


 なんとなく違和感があった、ここまで追ってきたのとは違うとそう感じている。


「もしかしたら、もうひとり……『肉食』 がいるのかも知れません」



 今回の事件は今までの中で一番奇怪であり、その全容が分からないが考察を試みる。


 最初からふたりの『肉食』 が現場にいたのか、それとも後からもうひとり来たのかは不明であるが、偶然居合わせたふたり、いや暫定的に名をつけておこう。

『腹』 と『脳』 としよう。

 第一の犠牲者は男性用のトイレの中で発見された。

 それは『腹』の仕業だったようで腹部が裂かれていた、それを見て本能を抑えきれなくなったのかクラブの鍵を破壊、中から開けられないようにしたようだ。

 それから殺戮が始まった。

 どういう風に誰がどう殺されたのかすら、ここからは判然としていない。

 ただの殺戮があったのだとしか言えない。


 ただ、鑑識の話でもうひとつ気になる点があった。

 被害者の血液以外にもうひとつ別の誰かの血があった、そして残された遺体の数と会わない左手の小指も発見された。

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