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ある少年の自殺

作者: 克辺篤樹

ショートショートです。

風が強く吹き抜けて行く。それもそのはず、ここは高層ビルの屋上なのだ。そこには1人の少年がいた。もう子どもではない、かといって大人にもなりきれていない、ちょうど大人と子どもの中間のような顔つきをしている。少年は生きることに希望を見出せずに死のうと考えていた。少年は自分が生きた爪痕を全くといっていいほど社会に残せないことに絶望したのだ。ここに来て少年は飛び降り自殺を図る人が靴を脱ぐ理由がなんとなくわかった。少年は靴を揃え、ゆっくりと深呼吸して—————とんだ。30mのビルから人が飛び降りると2秒くらいで地面に衝突する。だが、少年は2秒立っても地面に衝突しなかった。目を開けると自分がゆっくりと、とてもゆっくりと落ちているのがわかった。少年の頭は不思議なほど冷静だった。人は死を目前に、脳の働きを完全に開放することがあるという話を聞いたことがあった。おそらくそれが時の流れの感じ方を変えたのだろう。少年はそう思った。このペースだと地面に激突するまでにかなりの時間がかかるだろう。少年は自分の人生を振り返った。地球上に70億人もいる人間の1人。自分の存在意義が見出せなかった。だから死ぬことにした。生きていようが死んでいようが何も変わらないから。本当にそうだろうか。ふと少年の脳裏に疑問が浮かんだ。それはこれまで考えたこともない考えだった。少なくとも自分が生まれて来たことで両親は喜んでくれたのではないか。友達もいた。自分が死んだら悲しんでくれるだろうか。そう思うと、悪いことをしたなと思った。その間も少年はゆっくりと落ち続ける。次第に少年は死にたくなくなってきた。もっと必至に生きて抗っていくべきだった。自分はなんて軽率なことをしてしまったのだと。だがもうどうすることもできない。

少年の髪の毛がそっとコンクリートの地面をなでた。


















「いやぁ、新しくあの機械を導入してから自殺者数がだいぶ減ったね。」そう言って青少年相談センターの職員が見た先には《自殺回避シミュレーター》と書いてある機械があった。

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