第八十五話 カゲインの過去(3)
そして場面はとうとう魔王討伐にまで着た。
カゲインが十五歳になっていたのだろう。
そこそこの鎧を着けカゲインは魔王城前に一人立っていた。
結論から言えばカゲインは魔王をなんとか倒すことができた。
だが・・・・・
「クソッ」
カゲインは既に手足のない魔王を見下すように見つめていた。
手に持つ己の心映武器である短剣を今にも魔王の顔面に突き刺そうとしている。
「お前のせいで・・・・・お前のせいで俺はこの世界に転移させられたんだ!」
「そんな事を俺に言うな! お前を呼び出した人間に言え! 来るな! こっちに来るな!」
「諦めろ。俺が生きるためにはお前には死んでもらわなければいけないんだ」
そしてカゲインは魔王の頭に短剣を突き刺した。
だが瞬間カゲインは震え、そして倒れる。
(どうしたんだ?)
《どうやらカゲインは魔王に力を強制的に受け継がされたようです。それにより――》
(魔王になった、と)
《はい》
カゲインは苦しみもがいている。
そして体を硬直させると意識を失う。
「グガアァァァ!!」
だが直後カゲインは目を覚まし叫びだす。
そして心映武器が手の甲の皮膚を突き破り体内から出てくる。
「ハア、ハア、ハア」
魔王カゲインは息をきらしながら絶望した。
魔王を討伐しなければならない自分が魔王自身になってしまうなど許されぬことだろうと。
それでも魔王カゲインは自分をこの世界に送り込んだ者達の元へ帰った。
だが案の定魔王カゲイン罵倒され拒絶された。
「お前が魔王になってどうする! せっかくここまで育ててやったと言うのに!!」
それでも魔王カゲインは押し黙り素直に大人達の言葉を聞いた。
「まあ、もういい。お前の変えなどいくらでも召喚出来るようになった」
「え」
「もうお前は用無しだ・・・・・自殺しろ」
魔王カゲインは魔王城に帰ってきていた。
というよりは他に行く場所が無かったのである。
「死のう・・・・・かな」
魔王カゲインは静かにそう言うと首を吊る準備を始めた。
リユイはその様子を静かに眺めるしかなかく、もどかしく感じていた。
そして、全ての準備を終え天井からぶら下がるロープに首を吊るそうとした時――
『その時が来たら僕が君を城から助け出すよ』
自分の言ったその言葉を思い出した。
それを思い出してしまったならば死ぬなんてことはカゲインには出来なかった。
(けど会うのはダメだ。魔王なんかが突然来たらきっと怖がってしまう)
カゲインはただ見るだけのつもりで姫の元へと向かった。
見るだけと決めていた筈のカゲインの心は今揺らいでいた。
最初国に入って城の近くに行きなんとか姫の部屋を覗き見していたカゲインは美しく成長した姫を見ることができ満足していた。
だが姫の表情を見てしまい心は揺らいだ。
とてもつまらなそうだったのだ。
今すぐにでも国から出ていきたいと言わんばかりの表情で外をずっと眺めているのだ。
(あの時から夢は変わってないんだ)
カゲインはその事に気づき嬉しくなったが自分には彼女を連れ出す資格なんてないとその気持ちを押さえつける。
それでもせめて話だけはと、カゲインは思ってしまった。
そして一歩足を前に出してしまったら止まらなかった。
極力城に近づくとカゲインは<影転移>をし、城の中へ転移する。
直接姫の部屋へ転移出来た訳ではなかったので見つからないよう慎重に歩いていきとうとう姫の部屋の前へと到着したカゲインは静かにドアをノックすると返事を待たずに部屋へと入った。
「え?」
突然返事を聞かずに入ってきた男に姫が驚き距離をとろうと後退る。
だがその男の面影に懐かしさを感じると自然と近寄っていった。
「――姫」
カゲインは姫の名を呼ぶ。
名前を呼ばれた姫は男が突然喋りだしたことに驚き少し体をびくつかせるがそこで男の正体を思い出した。
「カゲイン・・・・・さん?」
「・・・・・! はい!」
カゲインは姫に思い出してもらった喜びのあまり何度も頷く。
そんなカゲインを見た姫は頬を緩ましカゲインへと近寄った。
「連れ出しに来てくれたのですね!」
姫はかつての約束をカゲインが果たしに着たのだろうと喜ぶ。
だがカゲインはその姫の顔を見て俯く。
「ごめんなさい。俺にはそんな資格ありません」
「え?」
「俺、魔王になってしまったんです・・・・・だから貴女を連れ出す資格なんて無いんです」
カゲインは静かにそう言うと姫から顔をそらす。
だが姫は顔を横に傾けると話し出した。
「なんで魔王になったら私をここから連れ出す資格は無くなるんですか?」
「・・・・・え」
「例え貴方が魔王だろうと私は気にしません」
姫は動揺するカゲインにため息をつくとカゲインの手をとり目を見つめると少し頬を赤らめた。
「私は貴方に助けていただいた瞬間から貴方に恋してしまいました。どうか私と一緒に生きて下さいませんか?」
しっかりと意志の籠った声で姫はカゲインへと己の気持ちを伝えた。
カゲインは少し驚き嬉しく思うがすぐに考え直す。
自分は魔王と言う人外になってしまったのに人と愛し合っていいのだろうか?
自分は本当に姫を幸せにすることができるだろうか?
目の前の姫を見つめて考えたらすぐに決意は決まった。
魔王を殺ししか価値がないと思っていた自分。
だが目の前の姫は魔王を殺す筈が魔王自身になってしまった価値のない自分を今もなお恋してくれている。
そんな姫を諦めることができるだろうか?
カゲインには諦めることが出来なかった。
「・・・・・はい。 一緒に生きましょう。そして幸せになりましょう!」
「はい!」
姫は満面の笑みを浮かべるとカゲインへと抱きついた。
そしてお互いの顔が近くなる。
時が遅くなったように感じる動作で二人の唇は近づいていき――
(あわわわわ)
リユイは思わず顔を手で隠す。
その瞬間に場面は変わっていた。
場所は姫の部屋から変わっていなかったがどうやら時は結構経っているらしいとリユイは分かった。
何故か。
姫のお腹が少し膨らんでいたからである。
(まさかサラの母親が――さんだったなんて・・・・・)
リユイはしみじみと姫の少し膨らんだお腹を見てそう思っていた。
「行くよ!」
「はい、カゲインさん!」
二人はとうとう城から、そして国から逃げ出したのだった。




