第七十七話 護れなかった
その頃リユイは――
クロードの首筋に刀を突きつけていた。
突きつけられた肌は少し切り裂かれ血が滲んでいる。
そう、手加減はしてもらったもののクロードに剣術のみで勝ったのだ。
ここまでなるのにいくつもの山が消えたがそれはこの短期間で急成長するのには仕方ないことだろう。
クロードは若干目を見開き、リユイの急成長ぶりを驚いた。
リユイは刀をそっとおろしクロードを見つめる。
「もう、俺が教えることはない」
クロードは静かにそう言いミシェル達亜人が住んでいるカマクラ国王都へと戻っていく。
「クロードさん!」
リユイの言葉にクロードは立ち止まった。
「ありがとうございました」
クロード何も言わず、また歩み始めその場を去った。
リユイもまた、自分の国へと翼を広げ飛び帰っていった。
やっと、クロードさんのレベルに達した。
今更ながらそう実感する。
やっと、やっとだ。
何回も傷を負い、寝ず、苦しみ、死にかけ、それでも立ち上がり十日間という短い時間でそのレベルまで達した。
嬉しくない筈がなかった。
思わず笑みが溢れる。
が、国のすぐ近くまで来てその喜びは失われた。
血の臭いが漂ってくるのだ。
これは何かあったに違いない。
全速力で空を飛び、僕は血の臭いが濃い所へと行った。
翼を消しながら着地すると辺りの様子が騒がしい事がよく分かる。
野次馬をかき分け進んでいくとアレンがいた。
「どうしたんだ?」
「リユイ・・・・・本当にすまない。俺が、俺がもっと警戒していればこんなことにはならなかった!! クソッ」
アレンは目に涙を浮かばせ拳を固く握りしめていた。
アレンを押し退けるとそこには血が地面に広がっておりちょっとした池になっているのが見えた。
更に前へと進むと大量の死体が見えた。
首が半分斬れている死体、頭がない死体、胴体が切り開かれている死体、はたまたバラバラになっている死体、どれも何者かに斬り殺された死体だった。
死んだ者の性別、種族、年齢はみなバラバラで明らかに無差別殺人だったことが分かる。
何故?
誰がこんなことを?
僕はアレンを問い詰めるようと思い両肩を強く掴んだ。
「何があった?」
「魔王の配下、双子が無差別大量虐殺を行った。近くにて駆けつけた警備兵は全員死亡、またその時近くにいたゴブンも応援に向かったが瀕死の状態」
横からユミがそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、僕は脱力し膝を着いた。否、力が抜けてしまい立っていられなかった。
何が大丈夫だろうだ。
何が国民守るために修行だ。
結局僕はいつも重要な時にその場にいなかった。
シュルさん達の時も、ゴブリン村長の時も、そして今も。
いつも、いつもいつもいつもいつも。
僕は、助けたかった人達を助けることが出来なかった。
結局僕は救いたかった人達を救うことは出来ないのだ。
僕がしてきたことは・・・・・無意味だったんだ。
肝心な時にいないなら必要のない存在。
そもそも僕がいなければ誰かが死ぬことなんてなかった。
でも僕に関わったばっかりに死んだ。
どうして・・・・・どうして僕がわざわざこんな思いをしなくちゃいけないんだ?
そもそも魔王が僕にちょっかいを出してくるのが悪い。
あいつのせいで僕はこんな思いをしなくちゃならない。
全部あいつのせいだ。
絶対に赦さない。
これ以上ない苦痛を与えて殺してやる。
死んだ者達の無念を僕は絶対に忘れない。
絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に。
僕がこの手でコロス。
ユミの言葉を聞いたリユイはその場に膝を着き呆然としていた。
そして体が小刻みに揺れ、血管が浮き上がった。
強く握りしめている拳からは血が流れていた。
そして目が充血していく。
それと共に殺気もかつてないほどに膨れ上がっていく。
心なしか先程までの晴天は段々と曇っていき雲予期が怪しくなっていく。
「リユイ?」
ユミが呼び掛けるが聞こえていない。
かと思うと突如地面を殴り付けた。
殴られた地面は砕かれ無数のヒビを作った。
それを合図に空から雨が一つ、また一つと落ちてきてあっという間に大雨になる。
皆があまりのリユイの狂気に一歩ずつ後ずさっていく。
そんな中、ユミは一歩前に歩みでた。
そして必死にリユイの手を掴もうと手を伸ばした。
自分の手からリユイが離れていかぬよう、必死に手を伸ばした。
だがその手が届く前にリユイは己の翼をはためかせ天高く飛んで行った。
届かなかった。
とうとう自分の手からリユイは離れて行ってしまった。
ユミは行き場のなくした手を下ろし、拳を強く握った。
そして言った。
「アレン、軍隊を待機させて。戦争が始まるわ」
「な、それじゃあまるでリユイは魔王に勝てないって言っているようじゃ――」
「そうよ。リユイは魔王に勝てない。リユイは人を殺せない。彼がリユイに人を殺させないのだから。だからリユイは魔王を殺せず死んでしまうわ」
悲観的な考えのユミの腕をアレンは強く掴む。
が、ユミは顔色を変えない。
「なに言ってんだよ! 諦めるのかよ!」
「私だって信じたいわよ!! でも、でもリユイには出来ない。それが出来てしまったら・・・・・もう今までのリユイは戻ってこない」
「さっきからなに言ってんのかサッパリわかんねえよ」
「私は!! リユイの中で止まっていた時間が動き出してしまうのよりも死んで今のままのリユイで永遠にいてくれたほうが嬉しいし、それが一番い――」
瞬間、ユミはアレンに頬を叩かれた。
あまりの痛さにユミは思わず頬をおさえる。
「死んだ方がいいなんて俺の前で今後一切言うな。そんな事間違ってんだから」
「よく国民を守る義務を全うできずそんな事言えるわね。そもそもあなたがしっかりしていなかったからこんなことになったんじゃない」
「それとこれとは話が別だろ! ・・・・・クソッ。俺はリユイを諦めねえから」
アレンは振り向き魔王国へと向かっていく。
そんなアレンをユミは放っておき城へと向かったのだった。




