第七十一話 タカシの過去
ミシェルさんの術のお蔭で入り込んでしまった僕自身の精神世界。
そこにはもう二人の僕がいた。
幼い小六ぐらいの『俺』である一人目と鎖に繋がれた傷だらけの僕である二人目。
そして何も知らない僕である三人目。
過去を知らないといけない気がする。
だから教えてほしいのだ。
過去に一体何があったのか?
ユミはしばらく黙り込んでいたが覚悟を決めたように一つ頷くと話し始めた。
「原因は私だった。
私が中学生の男子に喧嘩を売られたのを買ってしまった、それが始まり。
その時あなたが大声を張り上げて周りの大人を呼んで助けてくれた。
その時中学生はさんざん大人に叱られて家へ帰っていった。
けどそいつには弟がいた。
それが隆の同級生の男子だった。
そのあなたの同級生はあらぬ噂を流しあなたをいじめた。
いじめはだんだんエスカレートしていき言葉だけでなく暴力も行われるようになった。
私はあなたから聞いたのだけど何回もお腹を殴られたり背中を殴られたりあらぬ噂をわざとあなたの目の前であなたの親友に言いふらしたりフンを投げつけられたりしていたらしいの。
あなたの親友は、最初はそんなことを信じてなかったけれどだんだん信じていき次第にはいじめる方になっていった。
私はあなたがいじめられていたことをあなたが泣きながら帰ってくるまで気づけなかった。
話を聞いた私は親に相談して結果一時的には収まったけれどまたすぐにいじめは始まった。
私は見かけたその場その場で助けていたけれどキリが無かった。
それで仕方なく私はあなたにあらゆる武術を教えた。
あなたはすぐに強くなりいじめられても被害を負わなくなった。
けど状況は変わった。
中学生の男子が弟を使いあなたをおびき寄せて直接暴力を振るってきた。
いくら技術を持っていても小学生が中学生の蹴りや殴りを捌くことは出来なかった。
それまでは他人を傷つけることを一切していなかったあなたも流石に疲れ切っていた。
そして彼に身を預けてしまったの」
「彼って・・・・・二人目?」
「あなたはそう呼んでいるの?
まあ確かにあれはあなたの中で二人目の人格であったことには間違えないかも。
さんざんいじめらてきた反動でため込んでしまったストレスが産み出したもう一人のあなたの人格。
凶暴で人が苦しむ姿を快楽としてしまっていた。
最初駆けつけてきてあなたを見た時それがあなただと私が分からなかったぐらいだった。
あなたはさんざん自分をいじめてきた中学生の男子を殺そうとしていた。
すでに手足の関節を砕かれていた中学生の男子は叫び身をよじらせあなたから逃げていたのだけどその姿を見るだけでも二人目は高笑いを上がて喜んでいた。
私が大本の元凶であると分かっていたからあなたにそんな辛い思いをさせてしまい二人目を作らせてしまった償いのために私は二人目を倒した。
犯罪者にさせないように。
でもそのせいであなたの記憶が欠落し、また新たな人格を形成させてしまうほどの怪我を脳に負わせてしまった。
親たちは気付いていなかったけど私は明らかに一人目と二人目とは全く違うあなただと病院で目覚めたあなたを見て分かった。
それが今のあなた。
・・・・・数日後、あなたがいじめらていた時のことを忘れていると知ってからはあなたが思い出したときに二人目の人格が戻ってしまうのではないか?
そう思った私は常にあなたが二人目になっていないか確かめていた。
だから一か月に一度必ず会うようにしていたの」
ユミから言われた過去に僕は驚愕した。
そんなにもつらいことがあったなんて全く覚えていない。
本当にそんなことがあったのか疑ってしまうほどに他人の人生の話を聞いているかのようだった。
「リユイ、大丈夫?」
いつの間にかに僕のことを正面から見ていたユミが僕の両肩に手を置き心配そうに声を掛けてくる。
その顔には恐れの表情も混ざっていたのを僕は見逃さなかった。
ユミは怖いのだ。
二人目の僕が目を覚ましてしまうのが。
ユミをここまで怖がらせた二人目は相当やばい奴だな。
「大、丈夫。ちょっとびっくりしたけど何とか理解できた」
「苦しい時は私に言ってね。私がずっとそばにいるからね」
優しい声でそう耳のもとでユミがつぶやき僕を優しく抱きしめる。
少し冷たいユミの手は僕の頭を冷静にさせた。
気が付いたら泣いていた。
何処からか『俺』の泣き声が聞こえてくる。
確かに今現実に泣いているのは僕なのだが心で泣いているのは一人目の『俺』なのだろう。
「大丈夫大丈夫。私がいるから」
そうユミは『俺』をあやすのだった。
『俺』が泣き止むと僕達は身を少し離した。
二人の目線が交差する。
全ての時が止まったかのように静かになったように感じそしてお互いだけの時間が動き出す。
ユミと両手を絡ませお互いの吐息を肌に感じる。
ゆっくりと僕達の唇は近づいて行き・・・・・そして重なり合った。
その瞬間もっとユミを愛したいと言う欲望が押し寄せてくるが必死に押し黙らす。
長いキスはやっと終わり、だが終わってしまったと言う喪失感が僕の頭を占領する。
お互い頬を赤らめ俯いてしまう。
まだ絡まっている手からはお互いの血が脈を打って流れるのを感じられ、またお互いの体温が伝わる。
僕達は思いっきり抱きしめ合うとその日はすぐにベッドに入り何もせず、否、何もできず寝静まった。
リユイに半場追い出されるかのように部屋から出たアレンはその後の二人の様子をドアの隙間から見てしまっていた。
ユミが何かを言いそれでリユイが泣き出してしまう。
何を言っているのか分からないもどかしさを感じるも中に入っていくことは出来ず部屋の前でしどろもどろしていた。
しばらく様子を見ていると二人が怪しい目つきをし出し互いの唇を重ねてしまった。
瞬間アレンは理解できなかった。
何故か?
アレンはリユイのことを女と思っていたし、その目線で見ていたからだった。
(一体どういうことだ? もしかしてリユイはユミと禁断の関係なのか? ずっと一緒にいたのもそう言うことなのか? てか何でこんなに俺焦っているの?)
そして気づいてしまった。
かすかに芽生えていたリユイへの気持ちに。
(俺、リユイのことが好きなんだ)
そのことに気付いてしまったアレンは呆然とした。
が、足音が聞こえてきたのですぐさまその場から離れ自分の部屋へとフラフラとした足取りで戻るのだった。
サラはリユイとこの城の管理について話し合いたいと思いリユイの寝室へと向かっていた。
部屋に近づいた時にアレンを見かけたような気がしたが構わずドアを開けようとする。
が、かすかに空いているドアを不審に思いかすかに中を覗いた。
そして見てしまったのだ。
二人のキスを。
サラは顔を真っ赤にし急いでドアを閉めるとドアに封をするようにもたれかかる。
そして一つ大きく深呼吸をしもう一度中を覗く。
今度は二人がしっかりと抱き締め合っていた。
またしてもすぐにドアを閉め寄りかかる。
顔は耳まで真っ赤になっているだろうことを自覚してサラは一人ため息をついた。
(え? なんで私二人がキスしていたり抱きしめ合ったりしているのを見てこんなにも胸が痛むんだろう?)
そしてこの人も気づいてしまった。
(もしかして、私、リユイさんのことが・・・・・)
思いかけた言葉に首を振り必死に否定する。
が、その様子をしっかりと見ていた第三者、ヒトミが全てを見抜いていた。
「サラさんもリユイ様のことが好きな感じですね?」
「ヒャアアア」
「しー、しーですよ」
ヒトミがサラの寄りかかっているドアを指差しながら口に人差し指を当てる。
サラはいつから見られていたのだろうと更に顔を赤らめる。
「私も嫉妬している感じです。ユミさんに」
「え?」
「私もなんだかんだ言ってリユイさんに倒されてから惚れてしまった感じです」
今まで一切そのような素振りを見せていなかったヒトミの思わぬ心情を知りサラは少し意外に思った。
「で、サラさんもそうなんですよね?」
「わ、私は・・・・・」
「正直になった方がいいですよ」
「・・・・・好き、なのかな」
こうして皆寝付けずに夜を迎えたのであった。
第五章 終




