第一話 転生失敗
暗い、何も見えない、そして落ちている。
それが最初に意識が戻った時の感覚だった。
たぶん、と言うか絶対死んだんだろう。
結美の所に行けるかな。
でもすごく怒られそうだな。
そんなことを考えていると突然意識が体に引き寄せられる感じがした。
どうやら寝転がっているようだ。
目を開けると光に照らされ生き生きとした黄緑色の木々や草が広がっていた。
起き上がると目の前には周りの木に比べひときわデカい大樹があった。
その大樹には顔があり、僕に話かけてきた。
「目覚めたか」
僕はその大きな声に圧倒され少し飛び上がってしまった。
その時なぜか自分の髪がフサッとした。
え?
思わず自分の頭に手を当てると普段の髪の長さではなく女性のように髪が長くなっていた。
「驚いているようだな」
また大樹が話しかけてきた。
「お前はこの世界に転生してきた。
その時に何らかの失敗がありお前は性別を無くした。
そのせいで中性的な体になったそうだ」
は?
な、なに言っているの?
とっさに色々調べるが何も無い・・・・・マジか。
っていうかもしかして僕はアニメや漫画によくある異世界転生を果たしたのではないか。
ということは目の前の大樹が話しているってことは魔法とかもあるんじゃないか。
「何か喋ったらどうだ」
色々と考えていたらつい大樹に返事をするのを忘れていた。
「あの、えっ!」
喋ってみたら自分の声ではない、少女とも少年とも思える少し高い声が出た。
思わずびっくりしてしまったが気を取り直して声を出す。
「あ、あの。ここは何処でしょうか?」
自分の喋っている声が自分ではないように感じながらも何とか喋る。
「この世界はお前の生まれた世界ではない。
お前がこの世界に来たのは死んだ時にこの世界に来たいと言う強い意志のせいだ」
「つまりここは異世界で、僕がここに来たいと思ったからこの世界に転生したと」
「そうだ」
でも何でこの世界に来ることを僕が望んだんだ?
~あの男の所に行けば結美の所へ行ける~
あっ、これじゃないか。
もしかしたら結美も死んだ時にこの世界に転生しているんじゃないか。
「あの、この世界に鈴木結美という少女はいませんか」
「私は知らん。恐らくこの世界には来ていないと思うが。
転生者は大抵ここを通るからな。
だがまあ絶対来ていないとは言えないが」
じゃあ、結美はこの世界にいるのか?
「今考えてもわからぬことをだらだらと考えても無意味だ。
速く行動を起こせ」
そう言われても。
「とりあえず他に何か知りたいことはあるか」
じゃあとりあえず気になることを言わせてもらおう。
「僕の容姿を見せてください」
そう言った瞬間目の前に僕と同じ大きさの鏡が現れた。
鏡に映る自分を見てみると目と髪の色は茶色だが光の加減では赤っぽく見える色になっており、鼻は高く、肌の色は白、前髪は変わらず右に流しているが後ろ髪は肩辺りまで長くなっていた。
顔はなんとなく小さくなっているが、目は少し大きくなり耳は尖がっていた。
なんとなく転生前の顔の面影を残しているが他人と言っても過言ではない。
少年とも少女とも思える顔だが、髪が長い分少女に見える。
まあ、とても綺麗なので性別が無くなったこともなんとなく許せる気がした。
いや、許しちゃダメか。
服は着ているが死ぬ時に着ていた喪服ではなく、ボロボロな黒い洋服に黒いスカンツ、そしてフードが付いた黒のポンチョ(雨具じゃないよ)を着ていた。
「その服は天使が適当に転生者に着せた服だ。
どうだ、気にいったか」
全身黒なのは少し気になるが服自体としてはけっこう涼しくて動きやすいので気に入った。
なかなかいいものを選んでくれたな、天使。
「はい」
「ならよかった。
そう言えば転生に失敗したことで性別が無くなっただけでなく
人間でもなくなったそうだ。
お前は魔人と呼ばれる魔力の影響を強く受けた者の亜人と呼ばれる種族だ」
魔人の亜人。
ネコ科の虎みたいなもんか。
それにしても亜人?なんだそれ。
「亜人とは人よりも魔力や力が十倍ほど優れた種族だ。
まあこの点においては転生を失敗してよかったと言える点だろう。
ちなみに亜人は目と髪の色が同じで耳が尖がっているという特徴がある」
なるほど。
そう考えるとやはりあれはあるのか?
「やっぱり魔法はあるのですか」
「魔法だけでなく魔力を使わないスキルと言ったものもある」
なんだかワクワクしてきたぞ。
「まあ、儂が説明するよりも世界説明に教えてもらった方がいいだろう。
今から私がおぬしに〈世界説明〉というスキルをやるから自分で解析してみよ」
大樹がそういうと僕の目の前に光の雫が現れた。
それを触れると光の雫は光の粒となり僕の中へと入ってくる。
《推奨:脳へのアクセスの許可》
うは!
ビックリした。
「ホッホッホッ。そう驚くな。
それが〈世界説明〉だ。
分からないことがあったら全てそれに聞けばよい。
便利だろう?
あと脳への接続を許可してやった方が何かと便利だぞ」
なるほど、確かに便利そうだな。
でも脳へのアクセスって・・・・まあいいか。
《許可を確認。これより接続します》
その瞬間頭に色々情報が入ってきたが一瞬にして治まる。
《スキルの解析を開始・・・・・完了。
所持スキルは〈技術模倣〉。
魔法は時間経過完全回復。
心映武器は無形武器です》
心映武器ってなんだ?
《心映武器とはマスターの心を武器へと現したものです。
マスターの心映武器は無形。
つまり形あるものでないため様々な形になります》
・・・・すげえな。
「お前はなかなかのものを持っているな。
まあそれほどのものを持っているなら何とかなるだろう。
他に分からないことがあれば世界説明に聞くが良い。
ああそうそうお前はリユイと名乗るが良い。
それじゃあいい旅を」
その言葉を聞いた瞬間、僕は意識を失った。
(なかなかの者だったな)
転生を案内する大樹、ラーチは先ほど訪れた転生者、リユイに
この世界を変えていく何らかの力がるのではないかと感じていた。
(まあ良い。
後他にもう一人来ているのか。
まったく、最近の奴は死に過ぎだ)
長年転生者を向かい入れているがこのように二人連続で訪れてくることは滅多になかった。
この世界に来ようとする意志がある者が二人連続でくるということは普通に考えてあまりないことだからだ。
次の転生者がラーチの前に現れる。
この転生者は何の失敗もなく転生できたのだろう。
普通の人間だ。
だが唯一の失敗があった。
それはそのものが強力なスキルを持って転生してしまったということ。
普通なら天使が服を着させるはずだが着ていない。
それだけでなく目の前に現れた時から目を開けており、
服、いやだぼだぼのパーカーは血だらけ。
この二つのことから言えることは、彼は転生中から起きており天使を殺した。
この者が持つスキルはそれだけに異常なもの。
ラーチは急いで転生者のスキルを調べる。
〈理屈転換〉
最も恐れていた事態が起きてしまった。
そう確信したとき目の前の転生者はにやりと笑い音もなく動き出し巨大な大剣を出すとラーチを切り刻んだ。