プロローグ
なんてことのない日常。
それが突然に崩れ去り、いつも通らない道を通る。
それが大きな分岐点だったと思う。
幼馴染である鈴木 結美が突然意識不明になりその数時間後に亡くなったという。
あまりにも唐突で、そして簡単に知らされたと言うのもあって
か全然実感がわかない。
結美とは幼稚園の頃から仲が良く、小学校になってからは親友になった。
小学校でいじめられがちだった僕を鍛え、やり返すように言うほど強気な奴だった。
そんな甲斐あっていじめてきた奴らを返り討ちにすることができたのだが。
結美にいじめっ子達に勝ったことを報告すると彼女は自分のことのように喜んだ。
今思えばあれがお互いの距離を縮めたきっかけだったのかもしれない。
中学生になってからはあまりお互いの時間が無くなりがちになっていた。
そこで僕達は月に一度は必ず会うようにしていた。
それが昨日だった。
昨日会ったばっかりの親友が突然亡くなった。
冗談じゃない。
とてもじゃないが信じられない。
僕は頭ボーっとしてしまいあまり考えられない。
それが原因の一つかもしれない。
今すぐにでも結美の所へ行きたい。
そう思い走り出そうとしたが親に止められた。
夜は一睡も出来なかった。
翌日、親に連れられ結美のお葬式へ行くと、そこには周りの人が皆黒いスーツを着て話し込んでいる。
泣いている人、表情のない人、つまらなそうにしている人、何も理解しておらず笑っている子供。
様々な人がいた。
結美の母を見ると完全に放心状態になっており、そんな妻の分も頑張ろうと結美の父が一生懸命に身内への挨拶をしている。
「タカシ君・・・来てくれたんだね。ありがとう」
タカシとは僕の名前である。
西川 隆。
それが僕の名前だ。
「このたびはご愁傷様です。
あの・・・・結美さんのお顔を拝見してもよろしいでしょうか」
「分かりました。来てください」
結美のご両親にとって僕と言う存在はなんとも言えないものだと思う。
小さい時から娘と一緒にいた子供はこうして生きているのに、なんで自分の娘は死んでしまったのだろうか。
結美の母からの目線がそう言っている気がしてしまう。
結美の父と共に葬儀場の中に入り棺桶へと向かう。
棺桶の蓋を開けてもらうと、そこにはまるで眠っているかのような結美の血の気のない顔があった。
そこで僕は初めて結美が死んだという現実が波のように押し寄せてきた。
けどそこでも涙は流れてこなかった。
「ごめんな。気づいちゃっていたよね、妻の目」
先ほどの僕に向けた疑問の目か。
でもなんとなくあなたもそんな目をしているように見えるのは気のせいだろうか。
「いえ、大丈夫です」
「私の娘はいい友達をもてて幸せだったと思うよ。
ありがとう、タカシ君」
「いえ、こちらこそ有難うございます」
僕のその言葉を聞いた次の瞬間、結美の父の顔が一変し先ほどの結美の母のような脱力しきったような顔になった。
そして僕の肩に力のない、だがしっかりと痛みを感じる強さで手を乗っけてきた。
「でも、しばらくは私達には会いに来ないでくれないかな」
なんとなくそう言われるだろうと思っていたがやはり言われるとつらい。
「わかりました」
僕はそう言うと結美の父に会釈し、親の所へ戻った。
もう結美のご両親とは話すことはないだろうな。
あっという間にお葬式は終わり、親は少し話をするからと言うので僕は先に帰ることにした。
普段はあまり通ることのない道。
あまり治安が良いとされていない道でもあった。
喉が渇いたので自動販売機を探すがどこにも見当たらず、代わりにコンビニを見つけた。
コンビニへ歩き出す。
これが僕の最終的な分岐点だったんだと思う。
中に入るといらっしゃいませと言う気だるそうな声が僕を迎えた。
ペットボトルが置かれた場所へと行くと突然レジの所で怒鳴り声が聞こえた。
「おい!早く金出せ!オメエらぁは一歩も動くんじゃねえぞ」
荒々しい男の怒鳴り声が体に響く。
怒鳴り声の主は中年の背の高いすらっとした男だった。
顔は隠しておらず、サイズの合わないだぼだぼなパーカーを来ており、手にはサバイバルナイフを持っていた。
こんな事態だと言うのにどこか他人事のように思ってしまい、止まる気が起きない。
逆にあの男の所に行けば結美の所へ行ける。
そんな気持ちにまでなってしまって、気づいたときには男に向かって歩き出していた。
「おい!何で動いている!止まれクソガキ!」
そう言うと店員に向けていたナイフを僕へ向け走ってきた。
そして走ったスピードを乗せて僕へとナイフを突き刺してくる。
僕はナイフを持つ男の手を左手で掴み、右手でナイフの刃の部分を下へと殴りつける。
ナイフは簡単に男の手から離れ僕の後ろへと飛んでいった。
驚いている男の右腕を右手で掴み左手で肘を関節とは逆の向きに押しながら僕の体に引き寄せ相手の動きを封じる。
はずだったのだが……
男は痛みを感じていないかの如く動かず突っ立っていた。
そのため男の右腕は簡単に逆の方向へと曲がる。
腕が変な方向へと曲がる嫌な音、手からは鈍い感覚が伝わってくる。
男は右腕が折れたことを気にせずに僕の腹を蹴りつけた。
不意打ちの蹴りに対処しきれず、もろに蹴りを腹に受け軽く吹っ飛ばされた。
吹き飛ばされたさきには棚があり、派手にそこにぶつかると商品が僕の上になだれ落ちてきた。
驚きと痛みで体が動かなくなってしまった。
男はその隙を見逃さず、落ちていたナイフを左手で持ち僕の心臓めがけて突き刺しに来る。
急いで逃げようとするが遅すぎた。
少し避けたのでサバイバルナイフは僕の心臓ではなく腹に突き刺さった。
制服のブレザーに血が滲むが元々黒なのであまり色の変化が分からないが恐らく中のシャツは赤く染まってしまっただろう。
男はナイフを突き刺したまま手を放し突然発狂しだした。
意識が薄くなっていく中、刃物が刺さったところから命が流れ出ている感覚が強くなっていく。
だが、一方的にやられるのは気に喰わない。
やられたらやり返す。
結美の教えだ。
腹に刺さったナイフを力任せに引き抜く。
腹から大量の血が溢れとてつもなく痛い……いや、痛いのだろうが感じない。
コンビニの中にいた客や店員が悲鳴を上げる。
僕は最後の力を振り絞り、発狂している男の首へとサバイバルナイフを突き刺した。
そこで僕の意識は闇の中へと堕ちていった。