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幸せの為の方程四季  作者: 㐂月みさき
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第三話「日常と幸福③」

 俺が教室へ戻ると、さくらは、本を読んでいた。

 俺が今見ている光景を絵にして、タイトルを付けるならこんな感じかな?

 自分で言うのもなんだが、なんの捻りも無い所が、ポイントだな!

 「悪い、待たせちまったな」

 「ううん。気にしないで! 私、待つの慣れてるし、それに、どうやら今日の私は、夏樹にこき使われる為に呼ばれたみたいだし、それならとことん使われてあげようかなあ~って、ね?」

 「ぐっ……」

 俺の幼馴染のさくらさんは、あからさまな建前を述べた後に、チクチクと本音の針で相手をいたぶるのが、得意な女子だ。

 「あ~あ、ちょっとは、期待してたんだけどなあ~」

 「何をだ?」

 「ふふっ! な~いしょ♪ さっ、用事すんだなら帰りましょ? 秋楓ちゃん待ってるんでしょ?」

 「ああ」

 さくらが何を言っているのか良く分からなかったが、何でもないと言われてしまった以上どうする事も出来なかったので、俺は、その言葉を流した。

 「何はともあれ、さくら、今日は、ありがとな!」

 俺は、それまで言えていなかった感謝の言葉をストレートに伝えた。

 「いえいえ、どういたしまして」

 さくらは、帰りの支度をしながら、俺のお礼に返事を返す。

 俺も自分の鞄を開けて、帰りの支度を始めた。

 「あっ! しまった!」

 するとそこには、本来空であるハズの鞄に一冊の本が入っていた。

 そして、俺は、思い出す。

 妹との約束を――

 「ど、どうしたの!? 突然大声なんか出して」

 俺の突然の大声に、さくらが反射的に、ビクッ! と反応した。

 「悪い、悪い。いやさ、これなんだけど……」

 俺は、テスト用紙を見せた時と同じように、一冊の本をさくらに見せた。

 「ロミオとジュリエット? この本がどうかしたの?」

 「この本、俺の妹が図書室で借りた本でさ、今日返却日なのに、当人は、昨日の夜、突然体調崩しちまったんだよ。それで、今日は大事を取って休ませたんだけど、代わりに返してきてくれってお願いされてさ……」

 「えっ!? そうなの? 秋楓ちゃん、一人で大丈夫なの?」

 俺とさくらとの付き合いは結構長いので、彼女は、我が家の家庭環境をよく知っている人物なのである。

 そんなに複雑ではないから簡単に説明しておくと、一宮家は、父と母、姉と妹、そして、俺の五人家族である。

 父と母は、共働きで、姉はさっき会った通り、今俺達が通うこの学園で教師をやっている。

 以上の関係から、平日の昼間は、子供しか居ない環境である事が、ほとんどだ。

 「ああ、熱は、今朝には下がってたから、大事を取って休ませただけだし」

 「そっか、それなら良かったわ! でも、困ったわね」

 「他に、何か問題でもあるのかよ?」

 「それがね、もう今日の図書室開放時間終わっちゃってるのよ。そう言う場合は、確か……」

 そう言いながら、さくらは、生徒手帳を鞄から出して何やら調べ出した。

 「え~と、あっ! これこれ! ふむふむ!」

 そして、どうやら、何かを発見したらしく一人で納得している。

 「なるほどね! じゃっ、一先ず職員室行きましょ? ほら! 早く!」

 「ちょ、ちょっと! おい、待てよ!」

 俺は、さくらが納得した理由を教えてもらえぬまま、さくらに引っ張られて、再び職員室へ向った。

 さくらは、職員室前に到着すると『いい? 職員室内では、絶対私の話に夏樹が合わせる事!』とだけ俺に告げ、わけも分からず俺が、それを了承すると、『失礼します!』と元気に挨拶して、中へと入っていった。

 俺も、次いで、『し、失礼しま~す』と少し気まずいながらも、入室した。

 「いたいた! 一宮せんせ~」

 うわっ! よりにもよって、姉ちゃんかよ! と、内心悪態をついた。

 「あら? さくらちゃん。どうしたの? それに、夏樹も」

 「俺は、おまけ扱いかよ」

 「おまけみたいに、ひょこっと出てくるからでしょ?」

 姉の的確な突っ込みに『それもそうか!』と納得してしまった自分が悔しい。

 「先生ごめんなさい! 私、先日学園図書を借りたんですけど、返却期限日が、今日って事すっかり忘れてまして……」

 「えっ!? 何言って――痛てっ!」

 俺が、さくらに、疑問をぶつけようとした瞬間、さくらは、俺の足を思いっきり踏みつけてきた上、物凄い目力で、何やら訴えてきた。

 そして、俺は、思い出す。

 職員室前で交わした会話を。

 「ああ、そ、それってさっき教室で読んでた奴か?」

 まだ、足がジンジン痛むが、それを堪えて、さくらに、話を合わせる。

 「そうなの! それで、さっき丁度読み終わって、あっ! そう言えば今日だった! って、思い出したの!」

 そう言いながら、さくらは、自分の鞄から、件の本を取りだす。

 さっき教室に戻った時は、遠目だった事もあり、分からなかったが、確かにそれには、晴嵐学園の刻印がしてあった為、学園図書で間違いなかった。

 「にしても、竹取物語って渋い趣味してんなあ~」

 「そうかしら? 中等部一年生の国語の時間に、学んで以来、私的に、結構お気に入りの作品なんだけど? 特に、かぐや姫が、月を見て涙を流すシーンとか、キュンとこない?」

 「あれ? 授業で勉強したんだっけ?」

 竹取物語については、有名な話である為、俺自身、何となくではあるが、あらましを覚えていたが、授業でやっていた事については、すっかり忘れていた。

 「な~つ~き~? あんた、数学だけじゃなくて、国語も不味いんじゃないでしょうね?」

 「そ、そそ、そんな事ねえって……多分」

 俺の国語の成績は、平均取れないまでも、赤点は、取らない程度の位置にいる。

 「稲沢先生に確認取って、あまりに酷いようなら、補習お願いしようかしら?」

 稲沢先生とは、高等部一年担当の国語科の先生である。

 「ちょっ! 待って! 頑張る! 次のテストでは、最低でも平均超える様に頑張るから!」

 普通をモットーにしている以上、平均以下は不味いが、普通以上を求めるのも如何なものかと考える。

 しかし! 我が姉は、それを許してはくれなかった。

 世界は、なんと無常なのだろうか……

 と、少し、現実逃避してみたものの、結局最後に頑張るのは、自分だし、こうやって心配して貰っている内が花である事を忘れてはいけない。

 「あんたに、やる気があるなら、それで良いのよ! 次のテストは、期待してるから!」

 「お、おう! 任せとけ!」

 俺は、精一杯の強がりと根拠の無い自信を基に、返事をした。

 今、ここで無いものを根拠には出来ないのでは? と、思った人は、俺より国語力があると言って差し支えないだろう。

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