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ハーフエルフの少女




 オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道(ビクトリーロード) 第二章

 


********** ハーフエルフの少女リーネ **********



 ワタシの名前はエルリーネ・ミモリー、ハーフエルフ・・・。 年齢は20歳。

 生まれた時からずっとシャウエッセンの街で、人族のお父さんとエルフ族のお母さんと3人で幸せに暮らしていた・・・。

 

 しかし一年前のあの日、帝国軍の兵士が街に攻め込んできて、ワタシは全てを失ってしまった・・・。


 元々軍人だったお父さんとお母さんは、街にいた兵隊さん達に協力して、責めて込んで来た帝国軍に抵抗していたけれど、結局何時まで経っても二人は帰って来なかった。


 心配になったワタシは、こっそり家から出てお父さん達の居る筈の兵舎近くの陣地まで様子を見に行った。

 すると其処は火の海になっていた・・・。


 そしてその燃え盛る炎の前で数名の帝国軍の兵士達が、ボロボロの姿で倒れいるお父さんとお母さんの身体に何度も剣を突き刺していた―――。


 状況が理解出来なかったワタシは、その場に立ち竦んでしまい、直ぐに帝国の兵士に見つかってしまった。 


 慌てて逃げようとしたけれど、腕を掴まれて逃げる事が出来なかった。

 その場に組み伏せられたワタシは、その兵士に押さえつけられ、服を破り捨てられてしまった。

 兵士が私に何をしようとしているのか理解したワタシは、必死で抵抗しようとしたけれど、兵士の腕の力はとても強くてびくともしなかった。

 

 『ワタシは犯されるんだ・・・、そしてお父さんやお母さんと同じように殺されるんだ・・・。』


 自分の未来の姿を想像してしまったワタシは、恐怖のあまり泣き叫ぶ事すら出来ず、身体を硬直させてしまい、まるで抵抗出来ずにいた。

 しかし、ニヤニヤと笑う兵士がワタシの下着を剥ぎ取ろうとした時、突然ギャーという叫び声が聞こえた。


 突然聞こえた奇声に、ワタシを襲おうとしていた兵士も驚いた様子で、慌てて周りを見渡そうとした。

 その瞬間、兵士はワタシの目の前から居なくなってしまった。

 そして少し離れた所で、グシャっという何かが潰れた様な音がした。


 その時、訳も分からず硬直していたワタシの前に、ヌッと巨大な影が現れた。

 

 真っ黒で大きなトゲの付いた鉄のフルフェイスのヘルムと、大きな鉄鋲の付いた胸当てを装備した、山の様に巨大な男が其処に立っていた・・・。


 そしてその両手には巨大な斧が一本ずつ握られており、それらは鮮血で真っ赤に染まっている。

 今度はこの大男に殺される! そう思ってしまったワタシは、その場で失禁してしまった。


 先程の兵士に乱暴されかけた時にすら失禁はしなかったのに・・・。

 それほどまでに恐ろしい姿だったのだ。


 しかし次の瞬間、ワタシは思わぬ言葉を聞いた。


 「一般人の、しかも女子供を手篭めにしようとするとは! 帝国の奴等め・・・。」


 フルフェイスのヘルムの為か声がくぐもり、少し聞き取りにくいが、間違いなくそう言った。

 そして、ワタシの前にしゃがみ込むと、破り捨てられていたワタシの服を差し出してくれた。


 「怪我は無いかい?」


 不意のその問いは、大変優しい話し方だった。

 低く、くぐもっていて、とても怖い印象の声だったが、その話し方は、まるでお父さんがワタシに話しかけて来てくれる時の様だった。

 顔はフルフェイスのヘルムのせいで全く分からなかったが、とても優しい人なのだろうという事は分かった。


 少し落ち着きを取り戻したワタシは、自分が失禁してしまっていた事を思い出した。

 ワタシは、この人に対してものすごく失礼な事をした事実と、失禁してしまった事の恥ずかしさに、自分が怪我をしているかどうか、録に確認もせずに頭をブンブン縦に振って答えてしまった。


 そんなワタシを見るとその男性はスッと立ち上がり、後方に向かって声をかけた。


 「プドル!この娘を観てやってくれ。 たいした怪我はしてないはずだが、念の為だ。」


 その声に、少し離れた場所にいたワードッグの大人の女性が、ワタシに向かって駆け出していた。

 その姿は真っ白なローブ姿で、街の魔法医の様だった。


 「私はこれから最前線に向かう、お前はこの子を安全な場所まで連れて行ってやれ。残りの者は私に続け!」

 

 そう言うと男性はスッと立ち上がり、街の中央付近に向かって走り出した。


 大柄なせいか、ドスドスドスと大きな音をさせてはいるが、思いの他その足は速く、あっという間に街の中央広場の方へ消えてゆく。

 その姿を追うように数名の部下と見られる兵士達も続いた。


 「了解です。将軍!」

 

 ワタシの元に駆けつけたプドルと呼ばれたワードッグの女性は、駆け出した男性に聞こえるようにハッキリと返事をすると、即座にワタシに向き直り、傷の治療を開始してくれた。


 自分の身体を良く見ると体中に擦り傷が出来ており、所々出血もしていた。


 「あの・・・ありがとうございます。」


 オドオドとお礼を言う私に、やさしく微笑みながら治癒魔法を使ってくれる。

 まるでお母さんがいつもやってくれた治癒魔法みたいだ・・・。

 ボゥッとした淡い青色の光がワタシの身体を包み込んでいく・・・。


 そこでワタシは、ふとお父さんとお母さんが死んでしまった事を思い出してしまった。

 そうだ、お父さんとお母さんは死んでしまったのだ・・・。

 その瞬間、ワタシの身体は再び震えだし、目からは涙がボロボロとこぼれ出した。


 「まあ、どうしたの?どこか他に痛い所でもあるの?」

 

 やさしく尋ねてくれる女性に、涙でぐしゃぐしゃになりながらお父さんとお母さんが死んでしまった事を説明しようとするのだが、嗚咽と今になって止め処なく溢れる涙と鼻水のせいでまともに説明できないで居た。


 「ふぐっ、おどうざんどっ・・・うひぃ、お、おがあざんがぁ・・・。」


 何とかそう言葉にするのがやっとだった。

 しかし、ワタシの視線の先―――両親の死体を見て全てを察してくれたのか、女性はワタシの頭をギュっと強く抱きしめると申し訳なさそうに言った。

 

 「ごめんなさいね、もう少し早く私達が到着できていれば・・・」

 

 その後大声で泣きじゃくるワタシが、疲れと悲しみで半ば気絶するように眠ってしまうまで、その女性はワタシを抱き締めてくれていた―――。


 

********** オーク将軍デブリンガー **********

 


 辺りが暗くなった頃、街に侵入して来た帝国軍の兵士を全て倒し終えた私は、魔法部隊に街の火事の消火を命じ、一旦仮の詰め所へと戻った。

 

 「デブリンガー将軍、お見事でした。僅か半日であれだけの帝国兵を殲滅されるとは・・・。」


 「数は多かったが、唯の烏合の衆だった、あの程度なら物の数ではない。 それよりも、我々以外の者に倒されたであろう帝国兵の死体も数多く散見されたが・・・。ここを守っていたのは中々に優秀な者だったのであろうな。」 


 先に詰め所に戻していたバルドッグに迎えられ、私は両手に持った一対のデュエルアックスを彼に預けると、被っていたヘルムを脱いだ。

 一日中被っていた為汗だくのヘルムから開放され、ようやく訪れた心地良い爽快感に思わずフゥと息をつくと詰め所の中を一通り見回した。


 すると、先刻助けたエルフの少女が、詰め所の隅の簡易ベッドの上に寝かされており、プドルが傍に付き添っていた。


 「プドル、どうしてその娘がまだここに居るのだ?もしかして、酷い怪我でも負っていたのか?」


 ずっと自分が憧れ続けてきたあのエルフに何処となく似た雰囲気のエルフの少女(尤も、エルフの顔が細かく見分けが付く訳では無いのだが・・・)、そういった理由もあり、つい心配になってしまう。

 すると、プドルが悲しそうな目をして渡しの方を振り返る。


 「心配は要りません、気を失っているだけです。ですがこの娘の両親が・・・。この娘の両親が命がけでこの街を守っていたそうです。」


 「それはどういう意味だ?」


 私の疑問に、バルドッグが答えた。諜報担当らしく、既に色々と調べてきているらしい。


 「その娘の両親は、元王国の軍人で、この街でもかなりの名士だったようです。今は現役を引退していたそうですが、街の危機に武器を取り帝国兵に立ち向かったのです。」


 「すると、あの多くの帝国兵の死体は・・・。」


 「はい、殆どが彼らの手によるものと思われます。 ですが、その時の様子を見ていた者の話では、帝国兵の大将らしき相手と戦っている所を、他の帝国軍の部隊に攻め入られ、圧倒的な物量に押し切られる形で命を落としたという事です。 彼らの死体の傍に、敵の大将らしき者の死体も見つかりました・・・。」


 常に勇ましき者には心から敬意を表すバルドッグは、勇敢なる戦士がその様な形で命を落とした事が堪らなかったのだろう、遺憾の思いを顔ににじませながら述べた。


 「そして、この娘は両親の死を目撃してしまった様なのです。 将軍に救われた時は、兵士に襲われていた為に一時的に忘れていた様なのですが・・・。 私が怪我の治療をしている時に思い出してしまったのでしょう、突如泣き出してしまい、そのまま気を失ってしまいました。」


 プドルはそう答えると、未だベッドの上で眠ったままのエルフの少女の頭を優しくなでながら、悲しそうな目を娘に向けた。


 「ムゥ・・・我々がもう少し早く到着できていれば、その娘の両親を救えたかもしれないのだな。申し訳無い事をした・・・。」


 そうは言うものの、実の所我々は、シャウエッセンの街が帝国兵の襲撃を受けた知らせを聞いて、一目散に賭け付けている。

 だから、これ以上早く到着する事など不可能だったろう。


 だがそれでも、申し訳ない気持ちで一杯だったのだ。


 「バルドッグ、せめてもの償いだ、この娘には両親の功績を称え、出来る限りの恩賞を与えるように手配してやってくれ・・・。その様な物では償いになりはしないだろうが・・・。」


 「了解致しました。」

 

 バルドッグは敬礼をし、即座に私の前から立ち去った。優秀なあの男の事だ、早速取り掛かるのだろう。



********** ハーフエルフの少女リーネ **********



 シャウエッセンの街の襲撃事件から約半年、ガレオン王国とニクロム帝国の間に、停戦条約が結ばれ、一時休戦状態になった。

 街は、やっと戦争状態から開放されると、お祭りムードに沸いていた。

 

 そしてワタシは、両親と暮らした家で、一人暮らしを続けていた。

 しかし、3人で暮らした毎日が幸せであればある程、今のたった一人での生活が孤独で寂しいものに思えてくる。


 お金は、両親が残しておいてくれた蓄えと、王国軍の方からお父さんとお母さんが街の防衛に力を尽くした報酬だとかなりの額のお金を渡されていた。

 料理も、毎日お母さんの手伝いをしていたので、なんとか一人でもこなせている。

 

 だけど、寂しさだけはどうしようもなかった。


 近所にはワタシと同じハーフエルフの女の子の友達など一人も居なかった。


 昔は一緒に遊んだ友達もいたのだが、みんな成人してもう結婚したり仕事をしたりしている。

 だけど、ハーフエルフのワタシは他の種族よりかなり成長が遅く、身体などはまだ人族の10歳の女の子位でしかない。

 精神的には、他種族の10歳位の子供よりはずっと大人だと思うのだけれど・・・。


 結局、毎日一人で過ごすしかなかった。

 外で新しく友達を作ろうと考えた事もあったけれど、家の外に出るとふと両親が死んだ時の事を思い出してしまい、身体が震えだしてしまう為何も出来ずに家に逃げ帰る毎日だった。


 数日に一回、食料をたくさん買い込んで、食べ尽くすまで家で一人で過ごす。


 恐ろしい事を思い出しそうになった時は、昔にお母さんが呼んで聞かせてくれた古い絵本を読んだり、お父さんが買ってくれたヌイグルミを抱きしめてベッドに潜り込んでこの半年を過ごしていた。

  

 それから更に三ヶ月、ワタシはこのままではいけないと決心し、停戦条約が結ばれたのだからもう安全だと自分に言い聞かせ、思い切って表に出ようと決意したのだった。

 

 そしてその日、ワタシは彼女と出会った。

 

 「貴女がエルリーネ・ミモリーかしら?」


 家の扉を開けて外に出た途端、声をかけられた。

 人族の女の人だった。年齢はお母さんより大分老けていて、お父さんよりは少し若い感じがした。しかし、知らない人だ。


 「あの・・・あなたは?」


 オドオドと尋ねるワタシに、その女の人は優しく微笑んでくれた。


 「私はカレン・ミモリー、あなたのお父さんの妹よ。」


 ワタシはその言葉に衝撃を受ける、お父さんに妹がいるという話は聞いた事が無かったからだ。しかし、その人の髪の色はお父さんと同じ栗色だった。


 ワタシはお母さんと同じ金髪で、昔お父さんに『なぜお父さんだけ髪の色が違うの?』と聞いた事があった。 今となっては、ワタシがたまたまお母さんの髪の色を受け継いだからに過ぎない事は理解できるが、当時はそんな事思いもしなかったのだ。


 その時お父さんは、『お父さんの実家は皆同じ栗毛だったんだけどな~、リーネはお母さんに似たんだね!』

と笑っていたのだった。


 そう、お父さんの実家は皆栗毛!つまりこの人はお父さんの妹なのかもしれない。

 そう思ってしまったワタシは、たちまち警戒を解き、その女性、伯母のカレンを家に招き入れたのだった。


 ワタシは、伯母に半年前に両親が亡くなった事、それから一人で暮らしている事などを切々と語って聞かせた。

 伯母は、時には涙を見せながら、時には熱心にワタシの話を聴いてくれた。この半年の間、殆ど他人と喋った事の無かったワタシは、久々の会話に興奮していた。


 田舎で暮らしていた伯母は、父が半年前の襲撃事件で亡くなったことを大分経ってから耳にし、慌ててお金を用意してこの街まで訪ねてきてくれたのだという。


 伯母の住んでいた田舎とこのシャウエッセンの街は王国の端から端程に離れていて、転送屋を利用しなければとても訪ねる事が出来なかったらしい。

 そして転送屋は距離が離れるほど料金が高くなってしまうのだ。

 はっきり言って、田舎暮らしの一般の人間に易々と用意できる金額ではない。


 何と伯母は、住んでいた家を売り払って、転送屋のお金を用意したらしいのだ。たった一人生き残った姪のワタシに会う為に・・・。

 

 うれしさと同時に、大変申し訳なく思ったワタシは、ぜひ一緒に暮らして欲しいと伯母に懇願した。

 最初は戸惑っていた伯母も、『確かに既に帰る家も無いしねえ・・・』と、一緒に住む事を了承してくれたのだった。 

 そしてワタシは伯母と二人で生活し始めた。

 

しかし、それが大きな間違いだったのだ―――。


 それから一ヶ月の間、伯母は大変優しくて、家事なども一緒にやってくれたのだが、ある日突然豹変した。


 「ふう、やれやれ・・・やっと見つけたよ。まさかベッドの下に隠し金庫があるなんてねぇ・・・。」


 その日伯母は、そう呟きながらワタシのお母さんの部屋から出てきた。

 その手には両親が残してくれた沢山のお金と一緒に、大切に仕舞っておいた、軍から貰った褒章が握られていた。


 「お、伯母さん、そ・・・それは!軍の方から頂いた・・・。」


 「なんだ、もう見つかっちまったかい・・・、やれやれもう少し気付くのが遅ければ、もうちょっとは幸せに暮らせたろうにねぇ」


 やれやれと頭を掻きながら、伯母はいきなりワタシの手を捻り上げた。


 「あいたっ!」


 あまりの痛みに抵抗できなかったワタシは、そのままリビングまで引き摺られて行く。そして伯母は徐に懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 

 「ここにサインしな、そしたらこの手を放してやるよ。」


 何が何だか分からずに、ワタシは言われるままにもう片方の手でサインをする。

 羊皮紙には何が書いてあるのか良く分からなかった。ワタシは多少の読み書きは出来たが、難しい文章はまだ読めなかったのだ。

 

 ワタシがサインを書き終わったのを確認すると、伯母はワタシを放り出した。

 バランスを崩したワタシは、そのまま床に倒れ込む。

 訳の分からないワタシは涙目で伯母を見ると、伯母は今まで見た事も無いような、怖い笑顔でニヤニヤ笑いながら言った。


 「これは譲渡承諾証といってね、この家の物を全てこの私に譲るって約束した証明書だよ。 そしてこの褒章のメダリオン・・・、コレがあれば私の身分が保障される・・・完璧だ。 さあさあさあ!これでこの家にある物は、全て私の物、お前は今すぐ此処から出て行きな!」


 高笑いで大はしゃぎする伯母を、まるで夢を見ているかのように呆然と眺めていたワタシは、そのまま家の外に追い出されてしまった。


 そしてワタシは、家もお金も・・・、大切にしていた絵本とヌイグルミも奪われた・・・。




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