表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

招待 ・ プドルの提案 ・ 報酬




 オーク将軍デブリンガー・アブラハムの栄光への道(ビクトリーロード) 第十九章



********** オーク将軍デブリンガー ***********



 教会の裏手に行くと、シスターの言った通り、三人は枯葉を集めて芋を焼いて食べていた。 


 「こらこら、今晩はご馳走だと言っていただろう? 今お腹を膨らませたら、夕食が入らないぞ!」


 私にそう言われると、三人は「「「あっ!」」」と慌てている。

 そして、芋を半分に割って、私達に差し出してきた。


 「なんだい? 食べられなくなるといけないから半分くれるのかい?」

 

 そう聞くと、コクコクと三人揃って頷いた。

 私は笑いながらリーネの焼き芋を受け取ると、一口で平らげてしまう。

 

 続いてピピとランの分も受け取ると、瞬く間に口の中に放り込んだ。

  

 「ご主人様、そんなに食べて大丈夫なんですか?」


 「ははは、心配要らないよ。 私は大食漢だからね。 さて、それでは行こうか。」


 「「「はーい。」」」

 

 私達はシスターエリーに見送られ、教会を後にした。


 

 すると私はそのまま転移屋に向かって歩を進める。

 三人は知らずに私の後を着いて来るが、本当の事を言うと、私は今晩の宿を取ってはいないのだ。


 実はプドルと事前に相談して、家の屋敷でパーティを開く事になっているのだ。

 

 しかし、最初から私の住むポークビッツの街まで転送屋を使って往復すると聞くと、シスターや司教が心配すると考えて、敢えて黙っていたのだ。

 転送屋の料金は、それほどまでに高いのだ。


 距離によっても違うのだが、このシャウエッセンの街からポークビッツの街だと、片道で一人銀貨5枚掛かってしまう。

 往復で銀貨10枚だ、無駄使いしなければ、一人で一月生活出来るほどの金額である。


 しかし私は、ピピとランの二人に、本当にリーネの事は心配しなくて良いと分かって貰う為にも、是非一度私の屋敷に二人を招待したかったのだ。


 

 転送屋に向かう道すがら、私は後を着いて来ていたバルドッグを目で招く。

 すると即座に私の横に立ってくれるバルドッグに、私は懐から金貨袋を取り出して手渡した。 


 「金貨50枚入っている、これが今回協力してくれた仲間達への報酬だ。 一人10枚、五人に渡して欲しい。」

 

 私が小声でそう告げると、バルドッグが目を見開いた。


 「デブリンガー様、流石にこれは多すぎるのでは?」


 バルドッグが驚くのも無理は無かった。

 何時もなら、せいぜい金貨一枚。 少し長引いた今回なら少しサービスして金貨二枚といった所なのだ。

 それでも、かなり高額の報酬なのだが・・・。


 今回は一人10枚・・・破格といっても良かった。

 しかしリーネの願いなのだ、それを私がくすねる訳にも行くまい。


 「実はリーネが、今回協力してくれた私の仲間にも配って欲しいと言って来たのだ。 勿論、バルドッグの分もあるが、それは屋敷に戻ってからだ。 その中の金は、あいつ等に等しく分けてやって欲しい。」


 私の言葉に、驚きを隠せないバルドッグだったが、ふと私の後ろで楽しそうにピピ達と話しているリーネを見ると、静かに頷いた。


 「リーネ様がですか・・・。 流石はデブリンガー様の憧れた方の娘さんですね。」


 そう言うと、受け取った金貨袋を自分の懐にしまう。


 「責任を持って、皆に渡して参ります。」


 「頼む、皆には宜しく言っておいてくれ。 それと、たまにはポークビッツの街に遊びに来いと!」


 バルドッグは、軽く会釈すると私の横から離れ、街のほうへ一人歩いて行く。


 「ご主人様、バルドッグさんは何処へ行くんですか?」


 そう尋ねるリーネに、私は今回の協力者達に会いに行くと答えた。

 それで、リーネは報酬を渡しに行くのだと理解したようだ。

 リーネには夕べのうちに、今日リーネの屋敷を売却すると伝えてあったのだ。



 暫くして、私達は転送屋の前に着いた。

 

 食堂に着くと思っていた三人はキョロキョロとしている。


 「実は、司教殿とシスターには内緒で、ピピとランを私の屋敷に招待しようと思ってね。 沢山の料理を用意しているから、期待してくれて良いよ。」  


 「えー! でも・・・リーネのご主人様のお屋敷って、ポークビッツの街なんじゃあ?」


 ピピがそう聞いたので、私は頷く。


 「え・・・それじゃあ転送魔法で移動するんですか?」


 「ああ、そうだよ。」


 「すっご~~い! アタイ転送屋って初めてだよ!」


 「でもでも、転送魔法は凄く高いって・・・。」


 「心配要らないよ、料金は私持ちだし・・・、それに実は、領主は割引が効くんだよ!」


 私がウインクしながらそう言うと、ランは安心した様だった。

 ピピは楽しみなのか、凄くはしゃいでいる。

 

 「さあ、行こうか!」


 私達は転送屋の扉を潜った。

 


 ポークビッツの街に到着すると、既に薄暗くなって来ていたので、私達は急いで屋敷に向かった。

 転送屋と屋敷の距離は近いので、一々牛車を回して貰うより歩いた方がよっぽど早いのだ。

 そもそも元気な子供達だ、歩くだけなら体力は問題無い。


 

 暫く後、私達がようやく屋敷の前に到着すると、門番が門を開けて我々を迎え入れてくれる。


 「うっわ~~~凄いお屋敷だ~~~!! シャウエッセンの街の領主様のお屋敷よりも大きいよ!?」


 「本当に凄い・・・、リーネってこんな凄いお屋敷で働いているの?」


 「う、うん!」


 「まだまだ見習いなので、お掃除とかお洗濯だけれですけれどもね。」

 

 思わず奴隷だとか言いそうになったのか、少し吃っているリーネをプドルが上手くフォローする。   


 今はバルドッグが不在なので、扉は執事見習いの使用人のホビット族の少年、ビットが開けてくれた。


 「お帰りなさいませ、ご主人様。」


 彼は、普段はまだまだやんちゃな少年だが、今日は余所行きの態度で出迎えの挨拶をしてくれる。


 恐らく、今晩客を連れて帰る事を言っておいたので、一生懸命バルドッグの真似をしているのだろう。


 「ああ、ただいま。 今日はリーネの大切な友達がお客様だから、仲良くしてやっておくれ。」 


 「はい、承知いたしました。」


 私達は屋敷の中に入ると、ビットが静かに扉を閉める。

 フフフ、中々様になってるじゃないか、普段とは見違えるな。

 

 ふと気が付くと、何故だかピピが顔を赤くしてモジモジしている。

 視線はチラチラとビットの事を追っている様だ。


 そんなピピの視線に気付いたのか、ビットも少し顔を赤くして、目線を逸らしてしまった。

 ふむ、やはり同族同士惹かれあうモノがあるのだろうか・・・? 



 おっと、こんな事をしている場合ではない。


 三人ともきっとお腹が空いている筈だ、私は、早速パーティを準備を始めるようにプドルに指示をした。

 プドルは一礼をすると、即座に奥の厨房まで早足で歩いて行く。


 私は、三人を食堂まで案内する事にした。


 少し名残惜しそうなピピを見て、もしかしてビットに案内させた方が良かったかとも思ったが、どうせパーティは皆一緒に食事を摂るのだ。


 今晩のパーティは、立食パーティの形をとっているので、その時にまた顔を合わせる事が出来るだろう。



 食堂に入ると、そこには既に沢山の料理が並べられていた。

 部屋の中央に並べられたテーブルに様々な料理が大皿に盛られて並んでいる。


 今日は立食パーティなのだが、一応部屋の周りには沢山の椅子が並べられている。

 そして椅子の周りにはテーブルが用意されていて、好きな料理を取ってきて座って食べる事も出来るようになっているのだ。

 なにせ、うちの使用人の中には、まだ小さい子も多い為、立ったままの食事が難しい子もいるのだ。



 部屋に入るなり、中の豪華な料理の数々に、ピピとランは声も出せずに固まっていた。


 リーネも、何時も以上の豪華さに驚いている。


 「もう少ししたら皆集まるから、そうしたら食事を始めよう。」


 私の言葉に、リーネがピピとランに何か説明をしていた。

 恐らく、この屋敷特有のルール、”家人も使用人も全員一緒に食事をする事”を説明しているのだろう。


 

 そうこうしている内に、暖かいスープが運ばれて来て、使用人達も全員食堂に集合した。

 私は全員揃った事を確認して、挨拶をする。


 「今日は、事前に説明していた通り、リーネの友達のピピとランを招待したパーティだ。 今日の夕食は何時もと違い、特別に立食パーティの形式を取っている。 皆、思い思いの料理を好きなように楽しんでくれて構わない。 是非、ゆっくり楽しんでくれ。 さあ、頂きますだ!」


 「「「「「いただきま~~~~す!」」」」」


 食堂中にお腹をすかせた子供達の頂きますの言葉が響き渡る。

 すると皆一斉に料理に群がった。


 リーネ達は少し戸惑っている様だったので、私が傍に行き早く料理を取ってきなさいと一声掛けると、思い出した様に料理に突撃して行った。



 ピピとランは、うちの使用人の子供達とも馬が合った様子で、リーネも含めて近い年代の子供達と楽しく会話しながら食事を楽しんでいた。

 

 私は、一人鳥の丸焼きにかぶりつく。


 使用人の子供達の中には、どうもピピとランが新しい使用人の仲間だと勘違いしている者もいるようだった。


 『そうだな、もしあの子達が家で働きたいと言い出したら、雇ってあげるのも良いかもしれないな。』


 そう考えながら一人で鳥の丸焼きを平らげると、何時の間にか私の横にプドルが立っていた。


 「うふふ、リーネちゃんを取られて焼餅ですか?」


 急にその様な事を言い出すプドル。

 いや、流石にそんな事は思っていないと反論するも、何故か生暖かい目で微笑みかけられてしまった。


 全く、勘弁してくれ・・・。



 お腹一杯になると、次は風呂だ。

 全員女の子なので、風呂の案内はプドルに任せる事にする。

 

 お腹一杯になった三人はプドルに連れられ、風呂へ向かった。

 今晩はゆっくり風呂に入って、一緒の部屋で存分に楽しんでくれると良いのだが・・・。  



 食事を終えた私は一旦執務室に戻る事にする。

 今日の分の書類に目を通さねばならないからだ。

 

 なるべく仕事が無いように、前もって済ませてはおいたが、だからと言って全く無いという訳にも行くまい。

 私は満腹になった腹をさすりながら、執務室に向かった。



 「ご主人様失礼します。」

 

 私が書類の類に目を通し、事務処理を終えた頃にプドルが執務室に入って来た。


 「三人は大き目の客間に案内しておきました。 大はしゃぎでベッドの上で話を始めていましたよ。」


 「そうか、今日は色々とすまなかったな・・・。 ではプドルもゆっくり休んでくれ。」


 私がそう言うと、プドルが私に話しかけてきた。


 「ご主人様、実はお渡ししたい物が御座います。」 


 そう言って手に持っている物を私に差し出した。


 「これは・・・スクロール? 魔法のスクロールか?」


 私は受け取ったスクロールを開けてみる。

 中には複雑な魔法の文様が描かれていた。

 しかし、極めて初期の魔法しか使えない私には、何の魔法のスクロールかは直ぐには判断出来なかった。

 私はスクロールを発動する際に詠唱する部分を目で追っていく。

 うっかり声に出すと魔法が発動する事があるので、声に出さないよう注意が必要なのだ。


 『”半身”ハーフサイズ・・・? あまり聞いた事の無い魔法だな。』


 「はい、実は以前からバルドッグに探して貰っていたのです。 このスクロール自体は直ぐに手に入ったのですが、もう一つ探していた物が、なかなか手に入らなくて、今までかかってしまいました。」


 私はとりあえず魔法がうっかり発動してしまわぬ様に、スクロールを閉じる。


 「で、このハーフサイズの魔法とは一体何の魔法なのだ?」


 「ハーフサイズの魔法は、使用者の身体を半分の大きさに縮小する事の出来る魔法です。 以前バルドッグが諜報活動の際に使用していた事があるのを思い出したので、用意して貰ったのです。」


 プドルの説明によると、このハーフサイズの魔法は身長が半分くらいの大きさになるまで身体を縮小する魔法で、かなり特殊な魔法なのだそうだ。

 諜報活動が主な仕事だった頃のバルドッグが調査対象に近付く際にこれを使用して、子供の振りをして調査などを行っていた事もあるらしい。

 ただ、身体の大きさ相応に若返って見える訳では無く、顔などはあくまでほぼ同じ見た目のまま身体が小さくなる(少々子供に近い体型に変化はする)だけなので、使い所が難しいそうだが・・・。


 「詳しい使用感や、細かな影響については、改めてバルドッグに聞いて頂けると有り難いのですが。」 


 「で、何の為にこのような魔法のスクロールを手に入れたのだ?」


 私がそう尋ねると、プドルの目は急に釣り上がる。


 「もう、何の為ではありません! ご主人様とリーネちゃんの為に決まってるじゃありませんか!!」


 「私とリーネの為・・・?」


 「そうです、今のご主人様とリーネちゃんでは、男女の契りを交わす事は物理的に不可能です。 しかし、この魔法のスクロールを使って、ご主人様が小さくなれば、可能になるのですよ!?」


 そう言われて、初めて意味を理解した私は、顔が熱くなった。

 

 「し、しかしだな・・・、リーネはまだ子供で・・・。」


 「確かに身体はまだ子供のそれに近いですが、完全に子供という訳ではありません、身体が少し小柄なだけです。 それに、あの娘は初めてご主人様の寝室を訪れた翌日、凄く落ち込んでいたんですよ?」


 「え・・・。」


 私はプドルの言葉に絶句していた。


 「ご主人様は、リーネちゃんの見た目に引き摺られて、ついつい子供として接しておいでですが、あの娘の中身は立派な女性なのですよ! 確かに、少し幼い所もありますが、少なくとも貴方に抱いて貰えなかった事で少なからず落ち込んでしまう位には大人なのです!」

 

 リーネが私に抱かれても良いよ本気で思ってくれていたと言うのか?

 仕方なく抱かれようとしていたのではなく・・・。 


 「私はリーネちゃんに約束したんです。 ご主人様に抱いて貰える方法を探してみせると!」 


 私は、自分の手にあるハーフサイズの魔法のスクロールをジッと見る。

 これを使えば、本当に・・・?


 「そして、そのハーフサイズの魔法自体は、あまり知られていない物ではありますが、入手は簡単に出来たのです。 ただ、この魔法には少々問題がありまして・・・。」



 プドル曰く、ハーフサイズの魔法には多少の問題があるそうだ。


 第一の問題は、体が小さくなる事で全体的に筋力が低下してしまうと言う事。 

 ただ、大きさが半分だから筋力も半分と言う訳ではなく、八割程度の弱体化。

 但し、身長が半分になると、体重は半分以下になってしまうので、動きが素早くなる代わりに、体重を乗せた攻撃が大幅に弱体してしまうと言う欠点がある事。


 第二の問題は、縮小化の効果時間がかなり長い事で、おおよそ六時間は効果が持続すると言う事。

 その時間が過ぎれば、徐々に元の身体の大きさに戻るらしいのだが・・・。


 プドル曰く、これが最大の問題だと言うのだ。


 私は立場上、何時危険な目に遭うか分からない。

 普段の私ならば、何の問題も無く対処出来るような事態でも、体が小さくなって力が弱くなった私では対処できない事もあり得るのだ。

 

 つまり、六時間もの間、元の大きさに戻る事が出来ない事で、私の命が危険に晒される事があってはならないとプドルは言う。

 確かに、プドルの言う通りだが・・・。



 「そこでこれなのです!」


 プドルはそう言って、もう一つ何かを取り出した。 

 その手の上には、青い宝石の嵌まったペンダントが乗っている。


 「それは?」


 「これは”消散”ディスパースの魔法が込められたマジックアイテム、”消散のペンダント”です。」 


 「ディスパースと言ったら・・・、プドルが使う魔法効果を打ち消す魔法だったな。 なるほど、これがあればハーフサイズの魔法の効果を消せると言う事か。」


 マジックアイテムにも、色々な種類があり、私とリーネがお揃いで買った無毒の蝶の腕輪の様に、身に付けているだけで常に効果を発揮している物もあれば、特定の操作を行う事でのみ効果を発揮する物も存在する。

 これは後者なのだろうか?


 「手に握り、魔力を込めてくださると効果が発揮されます。」


 そう言われて、私はプドルから消散のペンダントを受け取ると、軽く握って手に魔力を込める。

 すると、一瞬全身を青い光が包んで消えた。


 「どうやら、私でも使う事が出来るみたいだな。」


 「それは宜しかったですわ。」


 プドルは嬉しそうに笑う。



 「しかし、これを手に入れるのに時間が掛かったというが・・・。 ディスパースの魔法は、プドルが使えるのだから、それ程必要なのか?」 


 私がペンダントを眺めながら何気なく言った言葉に、プドルは急に冷めた目になる。

 え・・・、何かまた間違った事を言ってしまったのか?


 「ご主人様はあれですか、毎晩リーネちゃんと愛し合った後に、眠っている私の部屋を訪れてわざわざディスパースの魔法を掛けて貰うと、そう仰るのですか?」


 「あっ!」


 私は、自分が如何に馬鹿な事を言ったのか、初めて理解する。

 これは、そういう事の為にわざわざプドルが用意してくれた物なのだ。


 元々普通の使い方をするなら、プドルが居てくれたら必要無いものだった。


 「す、すまん・・・。」


 頭を掻きながら謝る私に、半ば呆れながらもプドルは笑顔に戻る。


 「ディスパールの魔法のスクロールならもう少し簡単に入手出来たのですが、これを身に着けていれば何かとご主人様のお役に立つのではないかと、わざわざ取り寄せました。 どうかご利用下さい。」 


 「有り難く受け取っておくよ。 これを取り寄せるのに掛かった金額は、後で私に請求してくれ。」


 「別に宜しいんですよ、私達夫婦は既に十分過ぎる位の報酬を頂いております。 それよりも、リーネちゃんを必ず幸せにすると仰ってくれた方が私は何倍も嬉しいのです。」


 「う、そちらの方は全力で努力する。 しかし、費用はちゃんと請求してくれ、そうじゃないと・・・。」


 私は顔を真っ赤にしながら頭をボリボリ掻き毟る。

 

 「今後、ハーフサイズの魔法のスクロールを取り寄せて貰い難いしな・・・。」


 「うふふふ、承知致しました。 ご主人様。」


 どうやら機嫌は直ってくれた様だ。


 「それと、そのハーフサイズのスクロールですが、複数回使用できるタイプの物です。 ですから使用感や問題点を確実に理解する為にも何度か使用してみて下さい。 後、最初は必ずバルドッグを付き添わせて下さいませ。」


 「分かった。」


 私はハーフサイズの魔法のスクロールを懐に入れ、ペンダントをポケットに仕舞った。

 本当ならば首に着けたかったのだが、大柄な上に首の太い私は、ペンダントを付ける事は困難なのだ。


 「ご主人様、そのペンダントはご主人様の為に特注の鎖をつけてありますので、ご主人様でも十分余裕を持って身に付けることが出来ます。」 


 「何・・・そうなのか?」


 私はペンダントをポケットから取り出す。

 成る程、鎖が特別長く出来ている様だ。

 これなら頭から被って身に付けることも出来そうだ。

 私は、ペンダントの鎖に頭を潜らせる。


 「うふふふ、お似合いですよ。」


 「そ、そうか?」


 例えお世辞だとしても、言われて嫌な気分はしないものだ。

 私は、プドルに礼を言うと、風呂に入るために浴場に向かった。

  

 『風呂場の鏡で一応確認してみるか・・・。』


 結局私の劣等感は、なかなか治りそうもなさそうだ。



********** バルドッグ・ハウル **********



 私は、今回のシャウエッセンの街の一件で協力してくれた仲間達に報酬を渡す為に、酒場に来ていた。

 今回は、王国騎士団は関係無いので騎士団詰め所を借りる訳にも行かなかった為だ。


 私が店の隅の席に座って酒をチビチビ飲みながら待っていると、入り口に見知った顔を見つける。

 仲間の一人ドベルだ。

 私と同じ犬人族のワードッグの戦士(男)なのだが、体が私より一回り大きい。

 

 今回の協力者の一人で、普段は王都で働いているが、今回は調査に協力する為にやって来てくれたのだ。 

 私が軽くグラスを上げると、私に気付いたのか、真っ直ぐこちらに向かってくる。


 「今日は兄貴が一番乗りですかい?」

 

 「ああ、デブリンガー様の用事が早目に終わったからな。」


 「へへっ、珍しい事もあるもんだ!」


 そう言いながら向かいの席にドカッと座ると、早速店員に酒を注文する。



 ドベルの注文した酒が届く頃には、他の面子も集まって来た。

 相変わらず時間には正確な仲間達だ。


 全員簡単な挨拶と共に、テーブルを囲むように座っていく。


 私の向かいに、先程のドベルと、兎人族のラビットマンのラビ(男)が座っている。 


 そして私から左側に、牛人族のハイタウロスのウロス(男)が座る。

 彼はデブリンガー様程では無いが、かなり大柄な体格なので、左側は一人で占領だ。


 私から見て右側に座っているのは、どちらも女性で、ワードッグのヨークと、ワーキャットのクレアだ。


 今回の協力者の五人が揃ったので、私は早速話を切り出した。


 「今回は、一月以上もの間この町での調査に当たってくれて本当に感謝している。 お陰で悪徳領主を捕らえる事も出来たし、多くの被害者達を救う事が出来た。 デブリンガー様も大変感謝しておられたよ。」


 私が礼を言うと、全員照れくさそうに笑う。

 皆、デブリンガー様の人柄に魅了され、今まで着いて来てくれた者達だ。

 基本人が良いのである。


 私が礼を言い終わった頃に、全員の飲み物や料理が運ばれて来たので、せっかくなので乾杯をした。


 全員一斉に酒をあおると、早速料理に手を出し始めた。

 皆、気の知れた仲間達だ、遠慮など無い。

 私も一緒になって食事を取り始めた。



 暫くして、一通り腹に食い物が入った所で、私が本題を切り出す。 


 「さて、今回の報酬なんだが・・・。」


 「おおっと、待ってました!」

  

 酒を片手に嬉しそうに言うドベル。

 私は懐から、予め小分けしておいた金貨袋を五つ取り出して、皆の前に一つずつ置いて行く。


 「今日まで良く頑張ってくれた。 明日から各々の街に戻ってくれて構わない。 また何かあった時は、よろしく頼む。」


 「へへへっ、水臭えぜ兄貴。 俺達はデブリンガー様の為なら何時だって飛んで来ますよ。」


 そう言いながら、早速袋の中身を確かめようとするドベルを、ヨークが窘める。


 「全く、ドベルったら相変わらず無神経なんだから!」 


 「まあ、ドベルは何時もそうだから。」


 とフォロー?を入れるラビ。

 そして黙々と食事を食べるウロス。

 酒をうっとりした顔で飲み続けるクレア・・・、そこにあるのは何時もの光景だった。



 しかし、袋の中身を見たドベルが、冷や汗を流しながら固まってしまっている。


 「ん・・・? どうかしたのドベル。」


 ドベルの様子を見てヨークがドベルに声を掛けるが、反応が無い。

 他の三人もドベルの方を見た。


 「あ、兄貴・・・、ここに入ってる金貨・・・。 これって全員分ですよね?」

  

 まあ、あの金額を見たらそう考えるのも無理は無いだろう。


 「否、今回はそれが一人分の報酬だ。」


 「なっ!? それってマジですかい? これ・・・10枚ありますぜ?」


 その言葉を聞いて、全員が慌てて袋の中を確認する。

 全員が袋の中の金貨10枚を確認して、私の顔を窺ってくる。



 「リーネ様の事は話したと思うが・・・。」


 「デブリンガー様の婚約者のハーフエルフの女の子ですよね?」


 私は首肯する。


 「今回、皆の協力のお陰で、リーネ様の奪われた屋敷も取り戻す事が出来た訳だが・・・。 リーネ様はその自宅を売却する事を望まれたのだ。」 


 「え、どうして・・・、せっかく戻ってきた家なのに・・・。」


 意味が分からないと言う顔で呟くクレア。


 「リーネ様は、あの屋敷の中で半年もの間たった一人で過ごされて来たそうだ。 ご両親を亡くされ、その死体を目撃し傷付いた心のままで・・・。」


 「・・・その気持ち、分かる気がするよ。 屋敷に居ると、嫌でも思い出してしまうんじゃないかな、両親の死や孤独の日々を・・・。」


 ラビのその言葉に、全員納得がいったようだ。


 「そして、その屋敷が今日、金貨100枚で売れたそうだ。 そしてその金貨の半分を教会に寄付された。」 


 全員唖然としている。

 その気持ちは分からないでもない、金貨50枚もの金をあっさりと寄付出来るとは・・・。

 しかも、デブリンガー様のようにお金に余裕がある生活をしていた訳では無いのにだ!


 「そして、残りの半分を、今回屋敷を取り戻す為に協力してくれた仲間達。 つまりお前達に報酬として均等に分配して欲しいと・・・。」



 暫く沈黙が続いたが、そんな沈黙を破るようにドベルがポツリと呟いた。


 「類は友を呼ぶと言いますが、リーネ嬢はデブリンガー様に呼ばれなすったんですかね?」


 その言葉を聞いて、皆顔を見合わせる。

 すると全員笑い出してしまった。


 「わははははっ! 違いない。」 


 「ホント、デブリンガー様のお嫁さんにピッタリだわ~。」


 「アタイ今度会ったら、女デブリンガー様って呼ぼうかしら。」


 「ウンウン、デブリンガー様は素敵な女性と巡り会われたのであるな。」 


 全員楽しそうに笑っている。

 何時の間にか私も釣られて笑ってしまっていた。

  

 結局私達は、そのまま朝まで飲み明かしたのだった―――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ