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「……できた」


 我ながら、よくできた絵だと思った。窓の外の景色も、人の顔も、自分の思い通りに描けた。


「見せてみろ」


 青年はそう言うと、私の絵をまじまじと眺めた。そしてしっかりと頷くと、


「イギリスの匂いがする」


と、言った。イギリスに行ったことのないのに、イギリスの匂いとは、変だと思ったけれど、どこか嬉しかった。


「俺も完成だ。見てみろ」


 そういって、私に見せた絵には、さっきよりも陰影がついた家と、奥ゆかさの増した空が描かれていて、絵を見るだけで、町に吹く風の色まで想像できそうな気がした。


「イタリアの、匂いがします」


 私がそう言うと、青年は満足そうに頷いた。そして、バタースコッチの缶に手を伸ばして、


「やっと、これが、食える」


と、嬉しそうに、ビスケットをほおばった。


 気がつくと、雨音が止んでいた。窓は鮮やかな茜色に染まり、どこか遠くで烏の鳴き声が聞こえた。

 青年はもうひとつバタースコッチに手を伸ばすと、


「そろそろ帰るか?」


と言った。私は頷いて、荷物を慌てて片付け、青年に向かってお辞儀をした。


「礼には及ばぬ。ほれ、これを食え。最後の一枚を、貴様に進呈しよう」


 青年は缶からビスケットを一枚取り出して、直接私に食べさせると、玄関まで見送ってくれた。


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