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初投稿です。
まだ勝手がわからないので、不都合な点があればご指摘いただければ嬉しいです。
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特にすることもなく、暇な雨の休日に、ぱらぱらと雑誌をめくっていると、無性に食べたくなるものがある。
けれども、その作り方も、売っている店も知らないので、ただただ思い出すことしか出来ないのが歯がゆい。
あの時、口の中に広がった、あの味、あの香り、あの食感。
――そして、あの人の、無言の背中。
*
夏休みも終わりに近づき、小学生の私は焦っていた。宿題が全然終わっていなかったのだ。連日近所の図書館に駆け込んで、あらかたやり終えたのが、夏休み終了間近の、午後二時。残りは絵画の課題だけだったので、私は家に帰ることにした。
図書館から家までの道のりは、私の目にまるで異世界の様に映った。薄暗い雑木林を抜けて、立派な洋館を通り過ぎると、ようやく私の家がある住宅街につく。三十分程度の道のりだったけれど、通学路しか知らない幼い私には、永遠の冒険のように思えた。
その日は、朝から透き通った青空が広がり、雲は太陽に遠慮していたのか、姿が見えなかった。それだから私は、傘を持っていなかった。
空模様が変わり始めたのは、雑木林の中、せみの音にうんざりしていた時だった。白く巨大な雲が木々の間を覆い尽くしたかと思うと、すぐに雨粒がぽつりぽつりと落ち始めた。そうして気がつくと本降りになり、土砂降りと言えるほど激しくなっていった。
私は夢中で駆けだした。折角やった宿題が濡れてしまう。それに、わざわざ買ってもらった画用紙を、濡らして駄目にしてしまう訳にはいかない。
けれど、三十分の道を、走って帰るのは無理があった。とりあえず、雨宿りできる場所を探そうとして、辺りを見回すと、建物らしい建物は、あの立派な洋館だけだった。何となく近寄りがたい雰囲気だったので、普段は早足で通り過ぎていたが、背に腹は代えられない。私は思いきって、洋館へ向かうことにした。
洋館の玄関についたとき、私はもうすでに濡れ鼠の状態だった。鞄もびちょびちょで、中身がどうなっているかは考えたくなかった。途方に暮れて、扉にもたれかかったとき。
ぎいっと気味の悪い音を立て、扉が後ろへ下がった。
そして、覆い被さるように響いた、低く、黒い声。
「貴様……」
そこで、私の意識は途切れた。