第八話 出会いイベント? 7
睨まれた風紀委員長様は、私からチラッと会長様に視線を移した。
「風紀委員長が結衣に何の用で?」
「おまえがそんな顔するとはな。普段の何考えてるかわからねー顔よりいいんじゃねえの」
「質問に答えてもらえないか」
会長が苛立たしげに言って、風紀委員長様はそれを面白そうに見て、鋭い眼差しで返した。
風紀委員長様の威圧力ハンパない!
でも、会長様それを受けてたって怯まない、すごーい。
さすが俺様同士。
でも、険悪な二人のおかげで逃げたことへの尋問から免れたぞ、やっほーい。
「こいつが気に入ったんだ、俺がもらう」
ふ、とその場にあった緊張を和らげ、言葉を発したのは風紀委員長様。
そう言いながら、私の空いている片方の手を引っ張られた。
「残念ながら、結衣は僕のものだ」
会長も掴んでいる私の手をさらに強く引く。
お互い睨み合ってバチバチって火花を散らしている。
なんだこれ。
やめてー。なんか恋人の取り合いみたいになってるけど、やめてー。
違いますよね?生徒会に入るか風紀に入るかって言いたいんですよね?
こういうことはヒロインちゃんにやってあげてー!
自分相手だと全然萌えませんから!
ああぁぁー、残念。ここにヒロインちゃんがいればなぁ。
きっと、好感度が上がったときの2人は、きゅんきゅんセリフの連続なはず。
『おまえを他の誰にもやりたくない』って会長様に抱きしめられたりとか、『俺だけを見てろ』っていきなり風紀委員長様に強引にキスされちゃったりなんかしてー。きゃーーーー!
「てめぇ、俺の誘いは断ってこいつの誘いは受けんのか」
妄想の世界へ旅立っていると、風紀委員長様から詰め寄られた。
ひえええ、話の矛先が私の方に。
どうなんだよ?と凄まれて、ひゃいっと返事を返し、ぶんぶん首を横に振る。
「私は誰のものでもありません!」
ええ、そうです、あえて言うなら、ヒロインちゃんのものです!
なんてったって私の学園ライフを占めてるんですからね!
「ちげーってよ」
風紀委員長様が会長様を鼻で笑った。
「しかし、あんたのものでもない」
風紀委員長様は口が減らねぇとチッと舌打ちをして返す。
「ほら、あんたに怯えて可哀想に」
いつのまにか詰め寄ってきた会長様に髪を掻き分けられ、耳元で囁かれた。
うわ!無駄に色気垂れ流さないでー!
腰にくるイケメンボイスで囁くのはやめてください!
「てめえ、普段オンナに興味ねーだろ」
風紀委員長様が対抗して私の手首を強く引っ張ったせいで、私は風紀委員長様の胸にダイブした。
「あなたこそ、いつも女を毛嫌いしてるだろ」
すぐさま会長様が手を引っ張り風紀委員長様から離され、今度は会長様の胸にダイブしそうになった。が、風紀委員長様にさらに強く手を引かれ、それを阻止される。
なんだなんだ、この会話は。
まるで私に興味があるって言ってるようではないか。
興味を持つべきはヒロインちゃんであって、私ではないのよ、お二人さん。
出会いイベントさえ始まれば、私への興味なんてころっと忘れてるに決まってるんですからね。
ってゆーか、いーーたーーいーー!!
両方向からの引っ張り合いが続き、私の腕がちぎれそうだ。
「い、痛いので、離してください…… 」
「「ダメだ!」」
えー、なんでーー!
「「逃げるだろ!」」
うっ、やはり2人して根に持って…。
しかもこんな時だけ私の心を読んだかのようにハモりましたね。
…え?声に出てた?
そうですか。
「痛がってんだろ。てめぇが離せ」
「いや、あんたが離せ。もう用は終わっただろ。今から一緒に入学式へ行くんだ、どいてもらえるか?」
もう一緒に行くの決定事項なんですか!?
「こいつ遅刻組だろ、案内は風紀の仕事だ。俺が請け負う」
あーあ、やっぱり遅刻組なのか…。
遅刻組は、ペナルティで朝早く登校させられ構内を掃除することになっているのだ。
まあいいや、どうってことないない。
だって、そこにはヒロインちゃんがいるはずだもの!
「いや、僕が連れて行く」
私を挟んで2人は俺だ、僕だ、の言い合いをしている。
ってか、どっちもイヤよー!
いいから離せー!
……はれ?待てよ?
風紀委員長様がここにいるということはどういうことだろう?
もうそろそろ他の風紀メンバーが風紀委員長様を迎えにくる時間だよね?
確か、風紀委員長様が見回りという名のサボりで中庭で昼寝をしている頃に(会長といいオレ様は昼寝が好きだな!)ヒロインちゃんが可愛い白い猫につられて中庭へやって来て、猫が風紀委員長様の元へ行きーーーー
という感じで出会うはず。
そう!出会いイベントは校内じゃなくて中庭なのだ。
だけど、なぜか今ここに風紀委員長様がいる。
ヒロインちゃんは一体どこにいるのー!?
やっぱり、この学園にヒロインちゃんはいないのかなぁ。
「お、今度は落ち込みやがった。ふっ、何考えてんだ?」
「生徒会長と風紀委員長の前で話を聞かないとは、さすがだな。……まあ、可愛いが」
いつの間にか言い合いが終わっていたようで、2人は面白そうに百面相をしていた私を凝視していた。
しかし、お互い譲らず、手を掴んだままのようだ。
うん?なんか静かになってる?
しょんぼりしていたところに、騒がしさがなくなったことを不思議に思い、ふと視線を上げた。
その時、ちらっと視界の端に目に入ってきたものに、向けられている視線以上に驚き、目をゴシゴシと擦って確認してみる。
遠目には廊下を通っているピンクのふわふわの髪の女の子が。
あれは!
まさしく、ヒロインちゃんーーー!
私たちに気付くことなく、素通りしようとしている。
なんかるんるんスキップしてるんですけど!?
ああぁぁ、行かないでーーー!
戻って、風紀委員長様と出会わないと!
ヒロインちゃん、カムバーーック!
「ちょっ、まっ」
私はバッと勢いよく前へ乗り出し、ヒロインちゃんを追いかけようとしたがーーーー
勢いをつけすぎたせいで、片方の掴まれている手は離され、その反動でもう片方の手も離れればうまく態勢を戻すことができたんだけれど、その手は私の手首から離されることなく、思いの外がっしりと掴まれていた。
さっきまで両手が塞がっていた私は変に前のめりになったまま駆け出そうとしたせいで、前に出した一歩が捕まれた手のせいで後ろへとグンッと引っ張られ、バランスを崩した。
ーーあ、と思ったときにはもう遅かった。
背中から転けそうになったところ、私は持ち前の運動神経で受け身を取ろうとし、とっさに目の前にある『なにか』を掴んだ。
やばい、転ぶっ!
ぎゅっと固く両目をつぶって待ったが、来るはずの衝撃が来ない。
……あれ?
パチパチと両眼を瞬かせて何が起こったか確認する。
目の前にあのキラキラ族の顔がどアップに飛び込んできて、眼が合った。
近い!!
腰に手を回されてるから、転びそうになったところを受け止めてくれたらしい。
でもなんか唇にふにふにした柔らかい感触を感じる。
そう唇に……、唇が…………。
「「!!??!!」」
きーすぅうぅぅーーっ!?
ヒロインちゃん登場しましたー!
やっとです。
結局、更新が遅くなってしまいました…。
頑張って書いていきます!