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最初は貴族の子女としての振舞いを忘れなかったアンナとカインも、俺に振り回されているうちに、年相応の子供としての顔を見せるようになった。
「アイシャ様ってば本当にどうしようもない…」
「中身が男だしな」
「夢を壊して悪かったな」
そんな軽口を叩きあえるようになったのは、二人が城に顔を出すようになって一週間がたった頃だ。二人は城で知見を得るという名目で、朝から晩まで俺と過ごすことが増えた。もちろん、本当に勉強して過ごすことも多かったが、空いている時間には子供らしい悪ふざけもたくさんした。アンナのスカートをめくったり、アンナの筆箱に小さなカエルを仕込んでみたり、とりあえずアンナにぐーで殴られても文句の言えないようなことをたくさんした。というか、実際殴られた。
「アイシャ様は妖精とも見紛う美しい月の姫だと聞いていたのに、これじゃあただのクソガキじゃないの…っ!」
嘆かわしい、というような口調で叫んだアンナに、俺とカインは二人で顔を見合わせてクククと笑った。
もともと病弱だったせいか、俺の身体――…というかアイシャの身体は酷く細くて華奢で、身にまとう色も淡いせいで、確かに妖精みたいに見える。だが、中身は日本育ちの男子高校生なのだ。阿呆なことをするのが好きだし、悪ふざけだって大好物だ。そうして遊びまわっていれば、いつしかアンナとカインは俺の外見にとらわれることがなくなった。例えば、俺が涙目になればどれだけ厳しい女官でも「こんなに可憐なアイシャ様をこれ以上叱らなくても…」という気になって対応が柔らかくなるのだが、アンナに至っては「泣き真似してんじゃないですよアイシャ様、気色悪い」ぐらいは言い放つようになった。他の騎士見習いたちが、俺のことを「妖精姫」と呼んでひそかに憬れ、いつか俺に剣を捧げ護りたいと夢見る中、カインが俺の頭を気軽に叩き倒す様に周囲が青ざめた時などは、笑ってしまいそうなほどに楽しかった。
カインと庭で剣の稽古をしたり、俺が教えて二人でバスケの1on1をして過ごした後、アンナに貴婦人とはなんたるやと叱られるのが毎日の日課となった。俺は中身は男なのだし、ラウルやエリシャも俺に「アイシャそのもの」になることは望んでいない。外でさえ取り繕えれば、別段良いじゃないか、と唇を尖らせた。その時アンナは何かに気づいたようにはっと小さく息を飲んだ。そして、哀しそうな目できっと俺を睨みつけた。
「そしたらあんたは一人ぼっちになっちゃうじゃないのよ」
「はあ?」
俺にはアンナの言ってることがわからなかった。
俺は、子供だったのだ。
中身は17でも、男なんてやっぱりガキだった。