わたしは、その日、少年と、であった。
昨日から子供が基地に潜伏している噂があった。
潜伏と大袈裟に言うが迷い込んだという線もあるだろう。
まぁ処理は下級兵士達に任せてわたしは私の仕事をしようではないか。
「失礼します」
わたしの部屋に部下の重里が入ってきた。
生命線保持部隊の構成員にはその役職に応じて居住スペースが割り当てられる。
わたしはここ新宿で重要な研究を任されているから、このご時世にしてはそこそこの居住スペースが割り当てられている。
「まったくお前は…気配を消して私の部屋に入るな、で?」
ここに何をしにきた?のジェスチャーを重里に向ける。
「博士、お待たせしました、実験の時間です」
なるほど、また出番が来たというわけか。
私の研究、それはこの国の未来を左右する研究で、せきにんがある。
「わかった、準備をする。先に行って待っててくれ」
実験とはいえ子供達を手にかけるのは精神的にキツイ。
実験をするときにわたしが何時もすることがある。
懺悔だ。
「ごめんなさい」
庸汰。
「ごめんなさい」
おかあさん。
「ごめんなさい」
おとうさん。
「ごめんなさい」
みんな。
「ごめんなさい」
神様。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
………
これでわたしは人間をやめられる、人間のわたしはどこか遠くの世界でまだ懺悔を続けている。
実験はそれはそれはとてもたのしいもので、こどもたちの体をきりきざんでつかえそうな肉片をころころあつめるんだ。
うふふ。
そろそろいかなきゃ、かわいいこどもたちとデートよ。
私は部屋を出た。
「動かないでください」
IDカードでとびらをあけると、おとこのこが居た。
言われたとおり足を止めてあげた。
「きみ、まいご?」
そんなことは絶対に無いけれどきいてみる。
「まぁ、そんなもんかな」
これがうわさにきく、潜伏しているこどもか。
迷彩服に自動小銃を装備していた。
確かにこれは潜伏している、迷い込んだわけではないね。
完全に何かを殺す為に此処に潜伏している。
「私を殺しに来たの?」
「そういうわけじゃない、だけどそのうちあなたも殺すかもしれないです」
「ふーん、メインターゲットじゃないってことかしら?」
「そんなところかな。僕の邪魔をしない限り今は殺さない、だから安心してお姉さん」
お姉さんだなんて、久しぶりに言われた。
この部隊はわたしより年上しか居ないから本当に久しぶりだ、それ以前に子供はもう居ない。
私にも弟が居たけれど、もう会うことはない。
「お姉さん、考え事してるのか分からないけど僕はもう行くから」
なんだかしょうねんが、少年が弟の庸汰に見えてきて。
「わ、わたしもつれてって…」
実験のことなんかわすれて、わたしは人間に戻っていて。
そんなことをつぶやいていた。
わたしは、その日、少年と、であった。