そのⅠ 【すれ違いジャマー】
簡単な登場人物紹介
・立花睦月:校内ブラックリストLevel5に登録されているキチガイ主人公
・湯口夏美:立花の幼馴染。通称『筋肉女』
・江ノ本香:バカップル女。ウザい
・緑沢健二:バカップル男。愛称はケン君。
・松下冷弥:恋の監視委員。双子の弟でありステータスがショタ
・松下綾子:愛の監視委員。双子の姉であり、口調が軽い。
・黒木えり:謎の少女
・吉田:学年指導の先生。攻め
・校長:学校の創立者。受け
この学校の校則とはとても理不尽なもので、全く融通が効かない。
緑沢健二と江ノ本香。散々食堂で騒ぎ散らかしたバカップル二人組。この二人は昨晩デートの帰りに寄ったゲームセンターで不良数人に襲われたのだ。香を守るために健二は、近くにあったパイプ椅子で全員を撃退。病院送りにした後、面倒事を避けるため逃げるように現場から姿を消したのだが、その事が学校にばれてしまう。それで呼び出しを食らい現在説教中なのだが、二人とも腑に落ちない。
何故自分を守るために使った暴力について注意をされなければならないのか。確かに校則には『いかなる場合でも暴力を行使した者には厳しい処罰を加える』というものがあるが、これはあまりにもおかしいのではないのか? この校則はつまり、一方的にやられろ、そうとしか取りようがないではないか。こんなの間違っている。しかし、そんな思いはそこにいる校長と、学年指導の吉田に通じるわけがない。そのため、とても長い長い説教となった。
「では、今後気を付けろよ。次は無いと思えよ……緑沢…………」
「ハーイ」
吉田のもう何回も繰り返されたその言葉を適当に受け流した健二は二人の教師に背を向け、校長室を後にしようとする。香もそれに続こうとするが、
「江ノ本、お前には別件で話があるから少し残ってくれ」
と吉田に引き止められる。
「大丈夫。俺はそこでまってるからさ」
ニコリと笑いながら言った健二の優しい言葉を聞いた香はコクリと静かに頷くと校長室に残る。
彼は廊下で彼女の話が終わるまで待つことに。
「緑沢先輩! ちょっといいですかー?」
見知らぬ女子生徒が話しかけてきたのはそんな時だった。
「お前誰?」
「え? あぁ、私ですか? そうですね、私は……」
「香さんの 『お友達』 ですかね…………」
「江ノ本……。最近、盗難事件が頻繁に発生してるのは知ってるよな」
「はい」
「その話でな、お前が盗難してる現場を見たという目撃証言が複数寄せられているんだ」
吉田は深刻な面持ちで彼女にそう告げた。
「私? そんなワケないじゃないですか」
疑われた彼女はやんわりとそれを否定する。
「それは分かっている。成績優秀、運動神経抜群で先生からの信頼も厚いお前がそんな馬鹿な真似をする訳がないというのは俺が充分承知している」
「じゃぁ、何故引き止めたのですか?」
「お前はもう少し友達というものを作ろうとはしないのか?」
「はぁ?」
全く関係がない事を言われた香は拍子抜けして思わず間抜けな声を出してしまう。
「何故それを先生に心配されないといけないのでしょうか? 理解できないのですが。」
少し強めの口調で彼女は吉田に言い返した。が、どうやらその言葉が吉田を怒らせたようで、
「お前なぁ…」
と鬼の形相で香に詰め寄ろうとする。
しかし、
「まぁまぁ、落ち着きなさい」
という校長に止められる。
「江ノ本さん、吉田先生は君の事を心配して言っているんだ。言っちゃ悪いんだけどね、今回の盗難の件は君の事を快く思っていない生徒達の嫌がらせではないかと私達は思っているわけなんだよ。でもね、君に『ちゃんとした友達』というのが居れば、私たちにまでこんな根も葉もない『噂』が流れてこないかもしれない。もちろん可能性の話だがね」
「……」
「君が何故『友達』を作らない……いや、作ろうとしないのかは理解しているつもりだ。昔、家族を…………」
そこまで話した校長の言葉を遮るかのように彼女は声を上げた。
「話はそれだけですか? 大きなお世話です。もうあなた方と話すこともないので私は帰らせて貰いますね。それでは」
悲しみと苦しみ、憎悪に憤怒、様々な感情が入り混じった……そんな表情で彼女は校長室の扉を勢い良く閉めた。
「おいこら! 江ノ本! まだ話は終わってないだろ!」
追いかけようとする吉田を校長は制止させる。
「何故止めるのですか?」
「彼女が『友達』を作らない理由なんだがね」
校長は一言一言噛みしめるように言葉を吐く。
「彼女の家族が関係してるんじゃないかとおもっているんだよ」
「家族?」
「あぁ、実は彼女がまだ幼い頃にな…………」
「ケン君?」
てっきり校長室の前の廊下で待ってくれているものだとばかり思っていた香は健二の姿が見えないことに疑問を抱いていた。
そこで待っている。確かに彼はそう言った。もし先に帰るなら連絡くらいするはず。そう思い携帯を確認してみるがメールも無し。
「おかしいなぁ。連絡も無しに何処へ行ったんだろう?」
昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り始めたのは、彼女がそう呟いた時だった。
とりあえず、五時間目の授業をすっぽかす訳にもいかないので彼女は彼を探すことを諦めた。
首をかしげ教室へ戻る為に一人廊下を歩く香。
その後ろ姿を見ながら不敵な笑みを浮かべる『少年』が背後に居たことに彼女は気付いていなかった。