そのⅤ 【恋愛監視委員3】
サクッと前回までの登場人物紹介
立花睦月:主人公でガラスよく割るキチガイ
湯口夏美:立花の幼馴染の暴力女。通称『筋肉女』
香:バカップル女。ウザい
ケン君:バカップル男。ウザい
恋の監視委員:謎の男
愛の監視委員:謎の女
おまけ
吉田:学年指導のホモ。多分攻め
校長:多分受け
「僕は恋の監視委員‼︎」
「私は愛の監視委員‼︎」
「「二人合わせて『恋愛監視委員』‼︎」」
「なんで同じこと二回言ったの⁈」
「なんでって、そんなの決まってるじゃないですか〜! タイトルが【そのⅣ】から【そのⅤ】に変わったからですよ〜。さらに言うと前回からの小説の更新から約3週間経っちゃってるし〜。作者失踪シリーズの出来上がりだよね。その間に私たちの事を忘れちゃってる人いたら困るでしょ〜。登場シーンは大切なのよ? それこそ大きなインパクトを読者の皆様に与えなきゃ、すぐに搾取……」
「長い……もういいから……」
登場した時の決めゼリフを再び叫んだ恋愛監視委員達に、思わずツッコミを入れてしまったバカップル女ーー香ーー
それに相変わらず軽い口調で訳の分からない解説を長々と続ける大人びた顔立ちの女性ーー愛の監視委員ーー
その二人のやり取りを見兼ねて止めた小柄で童顔の少年ーー恋の監視委員ーー
このよく分からない二人組の突然の登場で食堂の空気の流れは、確実に恋愛監視委員のものとなっていた。
皆は驚きで声も出ない。そんな様子だ。
しかし、その中でただ一人、考え込んでいる人物がいた。立花睦月その人である。
彼は『恋愛監視委員』という名前を何処かで聞いたことがあった。だが、何処で何を聞いたのか、もう少しでこの二人組の事が思い出せそうなのだが、記憶に靄がかかり、その詳細を思い出すことが出来ないでいた。
彼が必死にその靄を取り除く作業に没頭している間、例のバカップルは監視委員達に質問の嵐を繰り出していた。
「あなた達は一体なんなの?」
「風紀……という名の正義を貫きに来ました」
「ちょっと、意味が分からんぞ。分かるように説明してくれ」
「分かるようにと言われてもね〜。言葉通りそのまんまの意味だよ〜」
「それが分からないって言ってるんでしょうが!」
「そう言われましてもねぇ」
この後も続くバカップルと監視委員達の質疑応答。
このままこの四人のやり取りが繰り返しずっと続くものと思われた、のだが、
「あ‼︎ 思い出した‼︎」
とここで立花が記憶の靄取り作業に成功。四組の赤石君の言ってた噂話を思い出すことが出来た。
「確か……、風紀の乱れが激しいこの学校を改善するために、現生徒会が風紀部に作った新たな役職…………その名前が……」
『恋愛監視委員』
いきなりの彼の謎めいた発言にバカップル含めた食堂全員の人の目が立花に集まり、静まりかえる。
「よくご存知で……立花睦月君」と恋の監視委員が彼にパチパチと手を叩きながら声をかけた。
「ど……どうして俺の名前を⁈」
始めてあった人に名前が知られているって事は、実はもしかして俺って学校で密か的に有名人なのか⁈
「校内ブラックリストLevel5『指定重要危険人物』に登録されているんだよ〜。生徒会傘下の私たちが知らないわけないじゃん。マジウケる〜」
愛の監視委員のこの一言で、立花のそんな虚しい妄想は一瞬で潰される。
「…………あ、ヘェ〜……ブラックリストね……。そんなのあるんだね」
恥ずかしくなった彼はそのまま音を立てずに着席した。
「ではでは、話を本題に戻しましょう。香さん、あなたは僕達に『一体何なの?』と仰いましたね」
「えぇ、言ったわよ。それが何なの?」
「また『何なの』って言ってる〜。その口癖かなりださ〜い」
「お姉ちゃん、ちょっと黙って……」
恋の監視委員は香をからかう愛の監視委員に向けて呆れ顔で注意する。
愛の監視委員は微笑みながら「はーい」と素直に引き下がった。その時、
「あっ……」
と、何かに気付いた恋の監視委員が頬を赤らめて下をむいてしまう。
恋愛監視委員とはその名の通り、恋愛を監視する係。
恋愛から風紀の乱れを正して行こう! と考えた先代の生徒会がその場のノリで作った一つの役職である。しかし、ノリで作った割には設定を事細かに決めてしまい、結局適任者が見つからないまま生徒会役員の任期が終わり、この問題を現在の生徒会役員達へと押し付ける形となってしまう。
本来ならばこの時点で恋愛監視委員と言う役職そのものを消せばよかったのだが、ここで一つの問題が生じた。先代の生徒会役員達が、この得体もしれないモノに莫大な資金を投じていたことが判明したのである。
これを今さら『無かった』という事にしてしまった場合、車谷高校予算委員会の役員達が黙っちゃいない。事が奴らに露見してしまえば生徒会不信任決議案が提出されてしまうだろう。そうなれば、現生徒会の信頼性に傷がついてしまう。それだけは避けなければならなかった。
そこで急遽選ばれたのが高校で唯一の双子の『姉弟』である『松下冷弥』と『松下綾子』だった。
『恋愛監視委員は二人で一つでありこれは絶対』という先代の説明書きを元に選ばれた人達だった。
先ほども言った通り、二人は双子である。そんな事実を全く知らなかった食堂の生徒達は、先ほどまでカッコ良く決めていた双子の弟、冷弥自身がうっかり発してしまった一言で恥じらう姿を見て口々に「可愛い!」と言い始めた。
「だってさ〜。冷弥よかったね〜、可愛いって言ってもらえて〜。プククッ」
愛の監視委員であり、双子の姉である『松下綾子』はいたずらっぽく笑いながら冷弥をからかう。
彼は可愛いと言われることに極度のコンプレックスを持っている。男として生まれたからには男らしく! この志を持つ冷弥にとって「可愛い」コールは禁句。身長が小学生並みに小さい上に声変わりすらしていない彼にとってそれは、耐え難い苦行なのである。
ついに、それに耐えきれなくなった冷弥は目に涙を浮かべながら
「僕のことをかわいいって言うなぁぁぁ」と悲痛の叫びをあげた。
実はこの行動自体が逆にギャップになっており、隠れ女性ファンを増やしているという実態に彼はまだ気付いていない。そもそも見た目小学生なのだから、仕方ないといえば仕方が無い。
「ちょっと。盛り上がってる最中悪いんだけど、そろそろ本題に移してくれないかしら? 『あなた達は一体なんなの?』この質問にはいつ答えてくれるの?」
可愛いコールを一撃で打ち消し、香はそう言った。
「もう〜。つれないな〜。私の『可愛い』弟のキャラ紹介もまともに待ってあげれないの〜?」
「可愛いを強調するな! ってか、そういう発言をするな!」
「それはもういいから!」
早く質問に答えろ。そういう意味を込めて怒鳴る香。
それを受け止めたのか
「分かったわよ〜。単刀直入に言っちゃうと、あなた達二人に用があって来ました〜」
と彼女は相変わらずふざけたような軽い口調でそう答えた。
「あなた達って、一体誰の事なのよ?」
「とぼけないで下さいよ〜。江ノ本香さんと、緑沢健二さん! あなた達二人が一番わかってますよね〜? 『昨日の事』を…………ね?」
『昨日の事』この単語を聞いたバカップルは一瞬肩を震わせたが、すぐに何もなかったかのように
「昨日の事とか言われてもわかんないわよねー。そもそも昨日はケン君の家でラブラブしてたわよねー?」
「あ、あぁ、そうだ! 昨日は俺の家でキャッキャウフフのオンパレードだったよな⁈」
必死に目配せをしておどおどしているのがバレバレなのだが、監視委員の二人は黙って見守り続ける。
「死ね」
すっかりテンションだだ下がりの立花が呟く。
「あれ〜? おかしいですね〜。」
「な……何がだよ?」
額に汗をにじませるバカップル男ーー健二ーー
「あなた方が昨日、例の事件現場であるゲームセンターにいたことはちゃんと調べてあります。心当たりはまだありませんか?」
立ち直った恋の監視委員こと、冷弥が続けた。
「は? ゲーセンになんかいってないし! そもそもあの暴力事件に俺や香は関わっていないぞ!」
健二は力強く言い返した。
「ちょ……ケン君⁈」
「あれ? 僕たちは暴力事件の事について一言も触れてませんよ?」
計画通り……そう監視委員の二人はアイコンタクトをとると、
「まぁ。ここではなんですし、校長室までご同行願えませんか?」
そう微笑みながら言った。
「いや、その、私たちは暴力事件について何も知らな…」
「その事を証明するためにも」
「校長室へレッツゴ〜」
絶妙なコンビネーションで二人を言いくるめた二人は、そのままバカップルを半ば強引に引き連れ食堂を後にした。
その光景を見守った食堂の生徒達も、この食堂の空気で昼飯を食べる気を失ったのか、一人、また一人と去っていき、遂に立花一人だけになってしまう。
「ふぅ……俺一人か…………」
そうつぶやき席を立ち上がる立花。
「よし、帰るか」
決意した彼の後ろから
「ひゃっふーー‼︎ マジで最っっっっっ高の気分だぜぇぇぇぇ‼︎」
と無駄にテンションが高い夏美の声が…………
「ちょ! 聞いて聞いて! 今月最高のフルバースト‼︎ もうね! フォルムチェンジでサイコーブース…………ってあれ? なんでこんなに食堂ぐちゃぐちゃなの?」
女子高生らしからぬ発言を立花に意気揚々(いきようよう)と説明する夏美もここの異変に気付き首を傾げる。
「あー。勿体無い事したなー。もう少し早く帰って来てたら面白いものが見れたのになぁ。」
「え? 何々? なんかあったの?」
「あぁ、実はな…………………………………………」