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恋愛ブレイカー  作者: 銀杏 夜空
一章 私立車谷高等学校
2/21

そのⅠ 【立花睦月】

「ファイヤーメテオインパクトドリーム!!!」

その謎の呪文は四時限目の物理の時間に教室中に鳴り響いた。

絶対に物理の授業では使わないはずだろう呪文に、クラスメイト達は一体何が起きたのか、困惑した表情を顔に浮かべる。がそれも一瞬で、次の瞬間にはその単語の発信源であろう生徒が特定出来た。


その男子生徒は、顔面蒼白、全身汗まみれで辺りをキョロキョロと見回し、誰が見ても「こいつ、何かやらかしたな」と分かる、挙動不審(きょどうふしん)な行動をしていたのである。まるでその様子は不審者だ。

あまりにも唐突すぎた出来事に、驚いて今の今まで声が出せなかった先生がようやく口を開いた。

立花(たちばな)よ……お前は…………お前って奴は……一体何なんだぁぁ!」

怒号が彼ーー立花(たちばな)ーーの耳を打つ。

「あれ……? おかしいぞ……どこだここ? 確か俺は研究所にいたはず……」

「何、寝ぼけてるんだ! ってかどんな夢をみていたんだよ!」

あまりにも突拍子もない夢の内容に先生が思わずツッコミをいれてしまう。

そのうち立花自身、自分の今置かれている状況について分かって来た。

「あれ? 確か俺は、物理の授業がつまらなくて……そのうち睡魔に襲われて……寝てしまってた……はず……研究所って何のことだ?」

つまり俺は……寝ぼけていて……教室で……

だんだんと意識がはっきりして来た立花。そして全てを理解した時、

「うわっ……超恥ずかしいぃぃぃ……」

彼は死にたくなった。

「悪かったな……俺の授業がつまらなくて」

先生が皮肉たっぷり込めて言う。

「あ! いやこれは違うんですよ! 自分自身あまりにもわけのわからない展開に、寝ぼけていたというか、ついうっかり本音が出ちゃったというか。ってあれれれ?」

急いで弁明をしようとするもあえなく失敗し、逆に火に油を注ぐ結果に……

「授業がつまらなくて寝るのはいい……この際、百歩ゆずって良しとしよう。でもなぁ……大声だすのはルール違反だよな? そこは理解できるか? と言うかもう高校生なんだから理解してくれ」

「はい……」

俺が寝ぼけてうっかり大声を出してしまったばっかりにこんな事に……クソ……今日は踏んだり蹴ったりだ……

心の中で彼は文句を付ける。

全く反省はしていなかった。




「…………だいたいお前は日頃から授業に対する姿勢がなぁ……って立花、聞いてるのか!」

「は…はい!」

説教開始五分。まだ終わらない。

クラスメイト達はその見慣れた光景に、これ以上、授業の進行は難しいと判断し、自ら自習をやり始めた。ただでさえ難しい物理である訳で、こんな授業(じゅぎょう)妨害(ぼうがい)野郎(やろう)が受けている説教を、何もせずただ聞いているだけと言うのは時間がもったいないと判断したのだろう。

そんな事は全く知らない立花は先生の長々と続く説教に適当に相槌をうちながら受け流すという作業をたんたんと続けていた。もはやこの作業は慣れっこである。

早く終わらないかなぁ…そう思い何気なく時計をみようとしたその瞬間だった。

『キーンコーンカーンコーン』と四時限目終了を告げるチャイムが学校中に鳴り響くーーーー途端立花は説教中の先生をいきなり押しのけて、その先にあった窓ガラスへとダイブした!

バリーン! と音を立てて割れるガラス。

彼の突然すぎる行動に先生は目を見開いて驚いてしまう。

彼が割ったガラスは廊下側に面した窓の物で、それをさもあたりまえのように割り終えた立花は何事もなかったかのようにそのまま廊下を猛ダッシュ。

この授業で二度目の驚きから立ち直った先生は教室の扉から顔を出し「立花ぁぁぁぁぁ‼‼」と怒った声を、既にかなり遠くの方に行ってしまった彼にぶつけた。

本人は聞こえているのか聞こえていないのか、こちらを振り向く様子もなく一心不乱(いっしんふらん)に廊下を走って行く。



私立(しりつ)車谷(くるまだに)高等学校(こうとうがっこう)では食堂のメニューに『黄金の焼きそばパン』というものがある。食堂一番人気の昼食メニューで、その一度食べたらやめられない謎の中毒性に生徒から先生まで、幅広い世代からの圧倒的支持を受けている。

何を隠そう、立花もこれを食べないと一日が始まらないと豪語(ごうご)する程の中毒者(ファン)の一人なのだ。

なお、先ほども言ったが、昼にしか売ってない昼食メニューである。

しかし、それだけの人気を誇る為、入手も困難であり、わずか数分で売り切れとなってしまう。

そこで一つの問題が生じた。彼の所属するクラス『1年1組』から食堂までの距離が他のどのクラスよりも遠いのである。モタモタしていては売り切れてしまう。では、どうすれば他クラスよりも早く食堂へ行けるのか? そう考えた時彼は窓ガラスを割って廊下を走って行くという画期的な方法を思い付いたのである。

彼の奇行の裏ではこの、『黄金の焼きそばパン』が糸を引いていたのであった。

なぜそこで『ガラスを割る』という考えに至ったのかは誰も知らない…………

そんな事情は梅雨知らず、先生は授業終了の号令をしないで、立花を追いかけて行く。一方クラスメイト達は、その『いつもの光景』に特別驚いた様子も見せずに、クラス掲示板に貼ってある『立花後始末当番割り振り』とかかれた役割分担表を見て手分けして割れたガラスの処理をしていた。


「教室からここまで13秒……このペースなら問題なく焼きそばパンをゲットできる……。ふっ……計画通り……」

そう不敵な笑みをこぼした立花は、そのまま食堂のある1階へ降りようと階段へ…………

「チェストォォォォォォォ!!」

「グホォ!」

……向かおうとした時に、いきなり進行方向から現れた謎の人物による渾身のボディーブローが炸裂した。

その貧弱な体はボディーブローの衝撃に耐えきれず進行方向とは反対の方へぶっ飛んで行く。

「ごほっ…ごほっ…一体……何が…」

「一本何が? じゃないわよ。あんたまた窓ガラスを割ったでしょ?逃がす訳ないでしょう」

「そ…その声は……夏美(なつみ)…」

いきなりボディーブローを決めた『彼女』ーー夏美(なつみ)ーーは、ぶっ飛んで地面に這いつくばって悶え苦しんでもなお、食堂へと向おうとしている立花を踏みつけ、動けなくすると、

「あんた、今週入ってもう何枚割ったの?」

そう問いかけた。

「ふっふっふっ。残念だったな夏美…今週はまだ三枚しか割ってないのだ!」

「割り過ぎよ! 何々? まだ今週入って二日しか立ってないんだよ? なんで二日で三枚も割ってるの? 馬鹿なの? 死ぬの? むしろ死ねよ」

「あいかわらず口の悪い筋肉女だ…。」

彼の辞書には反省と言う文字はないのであろうか?


夏美と立花は幼馴染である。

柔道、空手、剣道とひとしきりの武道をこなす彼女とは対象的に小さい頃から家でゲームばかりしていたもやしっ子立花。その為、過去に一度も殴り合いの喧嘩で勝った事が無い。

一体いつからこんな筋肉質な女に育ってしまったのだろうか…。

立花は彼女の無駄に引き締まった前脛骨筋(ぜんけいこつきん)長指伸筋(ちょうししんきん)をみて思った。

「ハァハァ……湯口(ゆぐち)か!立花を……捕まえてくれてすまないハァハァ……」

そうこうしているうちに息を切らせた先生が追いついて来た。

「すまないが湯口、この馬鹿を校長室まで引っ張って行ってくれないか? 先生は校長先生呼んでくるから」

「分かりました!」

快く了承した夏美はなおも逃走を図ろうとした立花の股間部分にかかと落としを決めて沈めるとそのまま襟首をつかんでズルズルと校長室まで引きずって行くのだった。

夏美が繰り出したかかと落としが原因で彼のモノが数日機能しなくなってしまったというのはまた別のお話

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