その0 【動き出す人々】
雷鳴が轟き、風は吹き荒み、豪雨は地面を叩きつける。
その中を救急車や消防車、パトカーのサイレンが休む間も無く鳴り響く。
電気の供給が元から経たれ光を放たなくなった蛍光灯。おかげで薄暗くなった生徒会室。
そこで、生徒会長、水無月 龍太郎は通話をしていた。
『あのバカなら大丈夫よ。崩落して剥き出しになった鉄骨に引っかかって、宙吊り状態になってたの。本当しぶとい奴だと思わない?』
「そうだな。わざわざすまないな夏美」
『お見舞い来る時、パンツ買って来てね。あいつ、恐怖のあまり漏らしてね。笑っちゃうよ』
「ハハハ。分かったよ。ところで、例の崩落の原因だが」
『分かってる。突然のゲリラ豪雨で発着場に帰ろうとしたヘリコプターに雷が直撃したのが原因なのよね?』
「知ってたのか。ヘリコプターの乗組員含めて8名の死傷者が出てな。これからまだ増えるかもしれん」
『そう……』
「それから、これはついさっき起きた出来事なんだが…………学校前の道路で帰宅途中の生徒会書記、横山が会計の石田の目の前で跳ねられたんだ。おかげで校内待機命令が出されたよ。」
『え…………。どうして……。二人は無事なの?』
「運転手曰く、何者かが横山の背中を押して跳ねられる用に仕向けたと話してるそうだ。警察は高校生連続傷害事件の一つとして、後ろから押した奴が誰かを捜査するらしい。で、横山は意識不明の重体。石田は度重なる友人の事件被害に精神崩壊を起こして同じく病院に運び込まれたよ……」
『…………』
「あと、生徒会庶務の梅平 淕がここ最近、学校に来ていないらしい」
『淕君まで被害に?』
「いや、無断欠席だ。何か匂うと思わないか?」
『まさか。あ、吉田先生が呼んでるからそろそろ切るね』
「あぁ、立花のことよろしくな」
『任せて!』
パタンと時代遅れの折りたたみ式携帯を閉じた水無月は、
「ついに、生徒会も残り二人か……」
独り言のようにそう呟いた。
「まぁまぁ、僕たちが居ますし」
「そうそう〜。心強い私達がね〜」
「あんまりコレに頼りたく無かったんだけどなぁ」
「本音、口に出てますよ〜」
水無月の対面に座っている二名の人影。
「お前らを招集したのは他でもない。高校生連続傷害事件の裏で動いてる組織を突き止めて壊滅へと追い込んで欲しい為だ」
「お前らって……僕たち一応水無月君の先輩なのに……」
「私たち警察じゃないんで〜。この学校の生徒が結成したグループならまだしも〜、高校生傷害事件の犯人特定なんて専門外です〜」
「そもそも、この学校の生徒が犯人と決まったわけじゃないし」
「いや、恐らくこの学校の生徒の誰かが犯人だ。しかも集団でな。まぁ、証拠もなければ根拠も曖昧なんだがな」
「そんなめちゃくちゃな」
「無事解決した暁には、友人に手を回して試験パスして就職できるようにしてやる」
「え? マジっすか?」
「やるやる〜! 超やりま〜す」
「それじゃ、よろしく。期待してるよ」
バタバタと足音を立てて部屋から出て行く二名。その後ろ姿を目で置いながら水無月はため息をつく。
「吉田先生が密か的に結成させた生徒会直下組織『校内監視委員』。奴らを使う時が来るとは……ハァ。しっかり働いてくれよなぁ」
その場に乱雑に置かれた『愛』と『恋』が描かれたプラカードを見つめながら水無月はこめかみに手を当てた。