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恋愛ブレイカー  作者: 銀杏 夜空
三章 COPの逆襲
16/21

そのⅢ 【見落とし】

久しぶりの登場人物紹介

立花(たちばな) 睦月(むつき)】校長の車をスクラップにした男。物理法則を無視する。

湯口(ゆぐち) 夏美(なつみ)】生徒会副会長であり、立花の幼馴染。一応この物語のヒロインの(はず)なのだが……

江ノ本(えのもと) (かおり)】バカップル女だった。黒木えりと背後にいる何者かの企みにより緑沢と別れてからの行動は不明。

緑沢(みどりざわ) 健二(けんじ)】上に同じ。

【生徒会長】この学校の生徒代表。人望も厚く、先生からも信頼されている頼もしい人物だ。

【生徒会書記】高慢で高飛車な物言いの女生徒。夏美に副会長の座を奪われてしまったために仲が悪い。

【生徒会会計】書記の数少ない友人の一人。穏やかな性格で彼女のストッパーのような役割を果たす。金の流れには敏感で、立花のせいで学校予算が圧迫されている事実に不満をもっている。

【生徒会庶務(しょむ)】影が薄い人物。バスケとかに出たら使えそう。

【校長】学校の総帥。最近薄毛になって来たことを密か的に悩んでいる。

吉田(よしだ)】鬼の生徒指導と呼ばれ恐れられている先生。最近校長の薄毛が気になって来ている。

黒木(くろき) えり】香と健二の仲を引き裂いた張本人。現在の動向は不明。

赤石(あかいし) 優一(ゆういち)】立花にくだらない情報を吹き込んだ張本人。

「まさか校内で被害者が出るとはな…」

私立(しりつ)車谷(くるまだに)高等学校(こうとうがっこう)、人目につきにくい校舎裏で生徒会長は静かにそう呟いた。

けたたましい救急車のサイレン音と異常事態を知らせる赤いランプの光は穏やかだった昼休み中の校舎に緊張を走らせるには十分すぎる程の効果を発揮する。

現場には既に通報を受けて駆けつけた救急隊員と警察官達が、テキパキと自分達の仕事をこなしていた。

「もう…………嫌……」

吉田と校長が警察官に事情説明を受けているそのすぐ(そば)では(しら)せを受けてやって来た生徒会会計がうずくまり泣いていた。

今回の校舎裏で発生した『高校生連続傷害事件』の被害者である女生徒は彼女の一番の親友であったからだ。

「きっと大丈夫だよ! 救急隊員の人達も傷は深くないって言ってたし! だから心配しなくても絶対助かるって!」

その(かたわ)らで彼女を必死に励ます副会長の夏美。

「これはいよいよ、安全な場所がなくなったって事だわね」

「あぁ、近くを巡回している警察の目を盗み、さらに地域住民や生徒達に至るまでの目撃者も(ゼロ)。そして、堂々と真っ昼間の校内で犯行と来た。犯人は一体何がしたいんだ……」

生徒会書記と会長は先ほどまで被害者生徒が倒れていた…………赤く血に染まった地面を見ながら言う。

この事件はいつまで続くのだろうか。みんなの不安は日に日に大きく膨らんでいく。

「私は真弓(まゆみ)ちゃんを保健室へ連れて行ってくるね」

「お、おぉ。会計を頼んだぞ」

夏美は生徒会会計ーー石田(いしだ) 真弓(まゆみ)ーーを抱えてこの事件現場から去って行った。

「真弓…………」

その後ろ姿を心配そうに見つめる書記。

「心配なら一緒に行ってきていいんだぞ」

「まさか、ここで私まで消えたら生徒会そのものが機能しなくなるでしょ」

全く、君は素直じゃないねぇ。

会長は彼女にそう言いかけて……辞めた。

彼らが見上げた空は、まるで生徒達の心の闇を映し出すかのようにどす黒く、厚い雲で覆われていた。





それから30分が経過した。

あれだけ賑やかだった校舎はひっそりと静まり返り、生徒指導の吉田の声だけがそこにこだまする。

「はい…………はい…………それでは命に別状はないということですね? 分かりました。この度は本当に申し訳ありません……はい、それではお願いします」

ピッと吉田は古い二つ折り式の携帯電話を切るとそれを静かに閉じながら足早に体育館へと向かった。

電話の相手は被害者生徒の保護者だ。彼女は頭から相当量(そうとうりょう)血を流してはいたものの死ぬ程のことはないと言うものだった。が、他の被害者同様、意識が一向(いっこう)に回復しないそうなのだ。

「一体、何が起こってるというんだ……」

最悪の事態にはならずにホッと肩をなでおろす吉田だったが、このあまりにも頻発する目的不明の事件に対し、数々の校内問題を解決して来た彼でさえ完全にお手上げ状態だった。

体育館についた彼はまず、生徒の安否を校長へと伝えるのだった。

ここは校舎とは違い数十名の生徒と教師が集まっていた。校内で発生した今回の事件について一部の事件現場にいた生徒と関係者に聞き取り調査をする為だ。

当然、校舎内にまだ犯人がいるかもしれないという可能性があるのでそれ以外の生徒は途中帰宅させている。


「ところでさ、俺まだ今置かれてる状況が全く掴めて無いんだけど、何が起きてるのかな?」

突然そう言ったのはガラス割り魔の異名を持つ立花(たちばな)睦月(むつき)

校長の車をスクラップにし、さらに教室に戻れと吉田に強く言われたのにも関わらずそれすらも無視し、捜査中だった警察の邪魔をした罰として体育館の柱に紐でぐるぐる巻きに縛られ動けなくさせられた彼は見張り役として隣に立っている幼馴染に尋ねる。

その言葉を聞いた彼の幼馴染は反対側にいた『もう一人の幼馴染』と共に深いため息をつきながら残念な物を見る目で彼を見つめる。

「警察の邪魔して縛られてるんでしょうが」

「いや、それは俺自身よく知ってるよ、そうじゃなくて、事件のことについてだよ」

「あんた、よくこの状況で平然とそんな呑気な質問してられるね。どんな神経してるの?」

彼のあまりにも無神経すぎる言動に心底呆れ果てた夏美は、彼に対する視線を残念な物を見る目からゴミを見る目へとグレードアップさせのだった。


彼らのもう一人の幼馴染である龍太郎(りゅうたろう)とは生徒会長のことである。本名は水無月(みなつき) 龍太郎(りゅうたろう)。彼らの一つ上の先輩にあたり、幼少期の頃より家が近所でよく遊んでいた。二人のお兄さん的存在である。

そんな彼が立花の日頃の行いを知らない訳もなく…………。

「あのな、お前が問題一つ起こす度に俺たちが肩身の狭い思いをしなきゃならなくなるんだよ? やんちゃするなとは言わん。だが、もう少し考えて行動してくれ」

そう言って今日だけで何回目かになるため息をついた。

「いや……あの、ごめんね?」

「で、なんの話してたっけ?」

「その……なにが今起きているのかという……」

「あぁ、そうだったね」

エヘンと咳払いをした生徒会長こと龍太郎は順を追って今起きている事を説明して行く。

「ここ二週間の間に車谷生徒が次々と襲われているんだよ」

「え、まじで?」

「あんた、ニュースとか新聞とかみてないの?」

「あ、あぁ、実はこの前色々あってね……」

蘇ってくる、バカップル女の後をつけた時の……あの出来事を頭の奥底に沈めた立花は説明の続きを催促する。

「で、その犯人がまだ捕まって無いのさ。複数犯なのか個人の仕業なのかさえ不明。警察もお手上げってわけさ」

全てを聴き終えた立花は何かに納得するように頷き、

「なるほどね。最近欠席者がやけに多い気がしたが、それが原因だったのか」と独り言のように呟く。

「まぁ、そう言うことだね」

「しかしまぁなんていうか、2組の奴らを17人も襲撃するなんて、犯人はあのクラスに恨みでもあるのかね?」

「「は?」」

苦笑いしながらそう言った立花の言葉に二人が一斉に思わず声を上げる。

「1年2組にそんなに欠席者いるの?」

「うん、そこのクラスの友達に聞いたんだもん。間違いない」

「確か、そのクラスで、事件の被害にあった生徒は二名だけだった(はず)……何故そんなに欠席者が?」

龍太郎はそう言って考え込む。

そんな彼の姿を見た立花は

「あれ? 病院で入院してるから来てない訳じゃないの?」

と疑問の声を上げる。

そこへ、立花がしっかりと反省しているかどうかを確認しに吉田がやって来た。

「先生、丁度よかった。今日の欠席者をまとめたリストみたいなの持ってませんか?」

すかさずそう尋ねる龍太郎。

「ど、どうした……突然…………? 今ちょうど、警察の人に渡そうとコピーしてきた所だが……何に使うんだ?」

「いえ、ちょっとね」



そのリストを見て3人は驚いた。

1年2組だけでなく、他のクラス、他の学年にも欠席者が大量にいたからだ。ざっと数えても100人以上は休んでいる。

「吉田先生曰く、この中で欠席理由を述べた奴は事件被害者を除き10名もいないそうだ」

「それじゃ、他の人たちは無断欠席ってことになるわけね?」

「まぁ、そうなるな」

まぁ、これだけ連続して事件が起きたのなら精神を病んでしまい、学校に行きたくないと言う生徒が増えてしまうのも無理はないか……。でも…………

「ちょっといい? このリストみて、少し気になる所があって……」

「水無月 龍太郎君、順番回ってきたからこっちきてくれるかしら?」

「あぁ、分かりました。じゃぁちょっと言ってくる」

立花の言葉を遮ったその声は先生のものだった。事件現場にいた生徒の代表である彼にも聞き取り調査を行うらしく、その順番が回ってきたと言うことだ。それを受けた龍太郎は一言そう言い残しこの場を去って行く。

「で? 続きは?」

「あぁ、事件に関係あるかどうかは知らないけど」

そう前置きした立花は続けて話す。

「この欠席者リストをよく見ると大きく二つに分けることが出来るんだよね?」

「二つに……わける?」

夏美は立花の言っている意味が理解出来ずに聞き返す。

「そう、二つに分ける。このリストから事件被害者の名前を消すとね……全員知ってるってわけじゃないけど、ほら」

「?」

「みんなからあまり(こころよ)く思われていない……所謂(いわゆる)『嫌われ者』達の無断欠席率が異様に目に付くんだよね」

「えぇ、それが?」

「そして次に、さっき消した事件被害者生徒の名前だけをピックアップしてみると……ね?」

ここで始めて夏美は彼の言いたいことが分かった。

「なるほどね。確かに被害者の方にはこの学校の問題児や不良が多い気がしなくもないわね。じゃぁ何? あなたはその『嫌われ者』達が団結して、自分を迫害してきた奴らに密か的に復讐していると、そう言いたい訳ね?」

「そんな感じ」

「あり得ない……そんなバカな話、あるわけ……」

しかし、そう言われてみると夏美自身、全く心当たりが無いわけでもなかった。

彼女のクラスの欠席者は四人、そのうちの一人はこの一連の事件の被害者であり、さらに別の二人は立花の言葉を借りると『嫌われ者』に分類される生徒であった。そして、その二人は被害者生徒とすこぶる仲が悪く、何度か喧嘩している場所を目撃したりもしていた。が同時に夏美はその二人に復讐をするという度胸も、行動力も無いことを知っていた。露骨に嫌味を言われると反論はしていたが、陰口は基本無視を決め込みじっと耐えていた。

まさか今更、そんな馬鹿な真似するわけ無いだろう。彼女は心の中でそう思っていた。

「まぁ、あくまで俺の推測でしか無いからね。あ、ちなみにさっきの嫌われ者情報も赤石君からの受け売りなんだよー! どうやら立花 睦月って奴もそこに分類されてるんだって ハハハハハハハハ」

「あんたはもう少し周りを気にしなさい」

呆れ果てた、そんな表情で立花に苦言する夏美。

「そういえば、その赤石君も休んでるんだけどなんでなんだろう? 夏美同じクラスなんだし、なんか知らないの?」

「知るわけないじゃない」

そうか……少し残念そうにする立花。

彼はまだ、二週間前に発生した『例の事故』について知らない……。


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